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エジプトの豚飼育数推移(1961-2022)

国際連合食糧農業機関(FAO)が提供するデータによると、エジプトの豚飼育数は1961年の14,000頭から緩やかに増加し、2008年にはピークの37,200頭を記録しました。しかしその後、2009年に大幅な減少が見られ11,200頭にまで減少し、その後長期間にわたり回復の兆しが見えませんでした。近年においては2017年以降から少しずつ頭数が増加傾向を示し、2020年には22,000頭を記録するなど回復基調にありますが、2008年の水準には達していません。

年度 飼育数(頭)
2022年 21,000
2021年 20,000
2020年 22,000
2019年 20,000
2018年 16,000
2017年 12,000
2016年 10,096
2015年 10,374
2014年 10,600
2013年 10,600
2012年 10,600
2011年 10,500
2010年 10,500
2009年 11,200
2008年 37,200
2007年 31,300
2006年 30,500
2005年 30,000
2004年 30,500
2003年 30,500
2002年 30,000
2001年 29,500
2000年 29,500
1999年 29,000
1998年 28,500
1997年 28,000
1996年 27,000
1995年 26,800
1994年 26,600
1993年 27,350
1992年 27,050
1991年 24,346
1990年 23,502
1989年 22,658
1988年 21,400
1987年 21,800
1986年 25,700
1985年 23,600
1984年 22,100
1983年 22,100
1982年 22,800
1981年 21,000
1980年 21,000
1979年 19,800
1978年 16,000
1977年 16,300
1976年 16,800
1975年 16,000
1974年 15,000
1973年 14,000
1972年 14,000
1971年 14,000
1970年 15,000
1969年 14,000
1968年 13,000
1967年 10,000
1966年 10,400
1965年 11,100
1964年 11,800
1963年 12,500
1962年 13,000
1961年 14,000

エジプトの豚飼育数の推移をみると、1960年代から1980年代にかけて比較的緩やかな増加傾向を示していたことが分かります。この時期には農業や畜産業の安定した成長が背景にあり、人口増加や経済発展に伴い、豚肉の需要も一定の水準を保っていたと考えられます。1990年代後半から2000年代にかけてはさらに増加し、2008年に37,200頭のピークを迎えています。しかし、突然2009年に11,200頭まで激減する大きな転換点を迎えました。

2009年の急激な減少の要因として、地政学的背景および豚インフルエンザ(H1N1)の世界的な流行を受けた政府の政策が挙げられます。このウイルスが人間にも感染する危険性が懸念され、多くの国で大規模な予防措置が取られました。エジプトでは特に厳格な対応が行われた結果、豚の大量処分が決定され、この影響で国内の豚飼育頭数が大幅に減少しました。この政策的な判断は、保健衛生の観点では重要な措置であり、感染症の拡大防止には一定の効果をもたらしましたが、畜産業にとっては未曾有の損失をもたらしました。

その後、2010年代には飼育数の低迷が続きました。この背景には、宗教的事情や文化的な側面も影響していると言えます。エジプトはイスラム教徒が大多数を占める国であり、豚肉の需要は低く、飼育支援や投資を求める声も限られていました。また、2009年以降の飼育基盤の喪失は、一部の農家が畜産から撤退するきっかけともなり、容易には回復できない状態が続いていました。

2017年以降の回復は、国内外の経済環境の改善や、農業・畜産分野への再評価によるものと推察されます。この期において頭数が徐々に増加していることは、適応可能な衛生基準やインフラ整備の進展があった可能性を示唆しています。しかしながら、2022年の21,000頭という数値は、依然として2008年のピークには遠く及びません。このことからも、豚飼育業における持続可能な成長にはまだ多くの課題が残されていると言えます。

未来に向けて、エジプトの豚飼育業が直面する課題は、疫病リスクへの対応、消費文化との調和、そして持続可能な環境下での飼育システムの構築です。第一に、過去の感染症の影響を考慮すると、強化された衛生基準を導入し、効果的な予防策を推進する必要があります。第二に、宗教や文化的背景に敏感である一方、少数派や観光業向けの需要を活かす販売促進プランを検討する価値があります。さらに、最新の飼育技術や持続可能な資源利用を活用することで、環境負荷を軽減しつつ、生産性を高める方法も模索すべきです。

国際的な観点から見ると、近隣諸国の豚飼育事情と比較してエジプトの数値は極めて低い水準にあります。例えば中国や韓国では、豚肉消費が主要な産業ドライバーとなっており、それに支えられる形で飼育頭数も高い水準にあります。エジプトにおいても輸出指向型モデルの実現が考慮されるべきですが、そのためには一定の国際基準に対応した飼育および加工インフラの整備が必須となります。つまり、短期的には国内需要の回復および技術支援、長期的には輸出市場への参入が鍵となります。

最終的に、豚飼育業はエジプト国内では小規模な分野に過ぎませんが、適切な政策支援や経済連携、人材教育によって成長の余地を持つ産業でもあります。国際機関や周辺国との協力を強化しながら、この産業を持続可能な形で再構築することが求められます。