国際連合食糧農業機関(FAO)が発表したエジプトの米生産量データ(2024年更新版)によると、エジプトの米生産量は1960年代から増加傾向を示していましたが、2000年代のピークを迎えた後、近年は変動を繰り返している様子が見られます。2022年の生産量は5,800,000トンで、過去数年間の低迷を乗り越え回復傾向にあることが明らかです。ただし、2018年の生産量が約3,123,708トンと大幅に減少していた点など、課題が依然として残されています。
エジプトの米生産量推移(1961-2022)
年度 | 生産量(トン) |
---|---|
2022年 | 5,800,000 |
2021年 | 4,241,894 |
2020年 | 4,804,000 |
2019年 | 4,804,296 |
2018年 | 3,123,708 |
2017年 | 4,960,662 |
2016年 | 5,308,873 |
2015年 | 4,817,964 |
2014年 | 5,467,392 |
2013年 | 5,724,106 |
2012年 | 5,911,086 |
2011年 | 5,675,027 |
2010年 | 4,329,503 |
2009年 | 5,520,482 |
2008年 | 7,253,373 |
2007年 | 6,876,830 |
2006年 | 6,755,000 |
2005年 | 6,125,300 |
2004年 | 6,352,370 |
2003年 | 6,176,266 |
2002年 | 6,105,456 |
2001年 | 5,226,703 |
2000年 | 6,000,490 |
1999年 | 5,816,960 |
1998年 | 4,474,110 |
1997年 | 5,480,010 |
1996年 | 4,895,388 |
1995年 | 4,788,097 |
1994年 | 4,583,007 |
1993年 | 4,160,762 |
1992年 | 3,909,706 |
1991年 | 3,447,812 |
1990年 | 3,167,421 |
1989年 | 2,679,000 |
1988年 | 2,132,000 |
1987年 | 2,406,000 |
1986年 | 2,445,000 |
1985年 | 2,311,300 |
1984年 | 2,236,436 |
1983年 | 2,442,000 |
1982年 | 2,440,513 |
1981年 | 2,236,362 |
1980年 | 2,382,100 |
1979年 | 2,511,000 |
1978年 | 2,351,000 |
1977年 | 2,272,309 |
1976年 | 2,300,032 |
1975年 | 2,423,446 |
1974年 | 2,241,688 |
1973年 | 2,275,000 |
1972年 | 2,507,000 |
1971年 | 2,533,690 |
1970年 | 2,604,000 |
1969年 | 2,561,000 |
1968年 | 2,591,000 |
1967年 | 2,278,000 |
1966年 | 1,678,000 |
1965年 | 1,789,000 |
1964年 | 2,036,000 |
1963年 | 2,219,000 |
1962年 | 2,038,000 |
1961年 | 1,142,000 |
エジプトの米生産を巡るデータを分析すると、いくつかの興味深い傾向とその背景がうかがえます。1960年代は生産量が年間1〜2百万トン程度に留まる低いレベルで推移していました。しかし、1970年代以降、特に1990年代から2000年代にかけて、生産量は大幅に増加し、2008年には7,253,373トンと過去最高を記録しました。この増加の背景には、緑の革命による技術革新や、農業政策の強化、農地拡大の取り組みが含まれていると考えられます。
その後、2009年以降には生産量の変動が激しくなり、2010年代後半には一時的な低迷が観察されます。特に2018年の3,123,708トンという大幅な減少は異例で、その要因としては、水不足問題や農地の都市化、新しい環境規制の導入が関連していると考えられます。エジプトはナイル川に依存する灌漑農業で米を生産していますが、近隣諸国との水資源問題や気候変動が水供給に直接的に影響を及ぼしており、これが米の生産減少を引き起こした可能性があります。
他国と比較してみると、中国やインドのように主要な米生産国と比べてエジプトの生産量はかなり小規模です。しかし、国内消費の重要な割合を占める主食としての米生産は、エジプトの食料安全保障にとって戦略的な役割を果たしています。実際、エジプトでは人口増加に伴って米の需要が高まり続けており、生産量の安定化が求められています。
ここで特筆すべき地域的な課題は、ナイル川水資源の利用を巡るエチオピアとの緊張です。エチオピアが建設中のグランド・エチオピア・ルネサンス・ダム(GERD)は下流の水流量を制約する可能性があり、エジプトの灌漑農業に直接的な影響を与える懸念があります。この地政学的背景は、エジプトの農業生産のみならず国家の安定性にとってもリスク要因として考えられます。
また、2022年には生産量が大幅に回復し、5,800,000トンとなりましたが、これは気候条件の改善や新しい農業技術の採用、政策の柔軟性が寄与していると推察されます。それでもなお、安定した供給を保つためにはさらなる課題があります。特に、気候変動への対策、水の効率的利用と農業インフラの整備が優先課題として挙げられます。乾燥地帯での米の生産は高コストであり、慢性的な水不足への対応は喫緊の課題となっています。
具体的な施策として、持続可能な農業技術の普及や、旱魃に強い作物の導入が考えられます。また、地域間協力の拡大を通じて上流の国々と水資源の公正な共有を進めることが重要となります。これは、単にエジプト国内の問題にとどまらず、ナイル川流域全体の平和と安定に直結する課題です。
結論として、エジプトの米生産は大きな潜在力を持っていますが、水資源や地政学的リスク、気候条件の変動を踏まえた持続可能な農業への転換が必要不可欠です。国際機関や近隣諸国との協調を通じて、食料生産の安定化と地域の平和のための取り組みを一層推進していくことが求められます。