国際連合食糧農業機関(FAO)の最新データによると、エジプトのトマト生産量は1961年の約87万トンから長期的な増加を続け、2009年にはピークとなる1027万トンを記録しました。しかし、その後は減少傾向を示し、2022年には約627万トンとなっています。この推移は、エジプト国内の農業技術進歩や気候変動、社会的・経済的な要因が複雑に絡み合った結果と考えられます。エジプトは依然として世界有数のトマト生産国でありつつも、近年の生産量減少への対応が課題となっています。
エジプトのトマト生産量推移(1961-2022)
年度 | 生産量(トン) |
---|---|
2022年 | 6,275,444 |
2021年 | 6,389,295 |
2020年 | 6,493,950 |
2019年 | 6,814,460 |
2018年 | 6,777,754 |
2017年 | 6,729,004 |
2016年 | 7,320,714 |
2015年 | 7,737,827 |
2014年 | 8,288,043 |
2013年 | 8,290,551 |
2012年 | 8,625,219 |
2011年 | 8,105,263 |
2010年 | 8,544,993 |
2009年 | 10,278,539 |
2008年 | 9,204,097 |
2007年 | 8,639,024 |
2006年 | 8,576,070 |
2005年 | 7,600,000 |
2004年 | 7,640,818 |
2003年 | 7,140,198 |
2002年 | 6,777,875 |
2001年 | 6,328,720 |
2000年 | 6,785,640 |
1999年 | 6,273,760 |
1998年 | 5,753,279 |
1997年 | 5,873,441 |
1996年 | 5,995,411 |
1995年 | 5,034,197 |
1994年 | 5,010,682 |
1993年 | 4,762,570 |
1992年 | 4,693,985 |
1991年 | 3,795,987 |
1990年 | 4,233,842 |
1989年 | 3,997,000 |
1988年 | 4,212,000 |
1987年 | 4,921,000 |
1986年 | 4,456,000 |
1985年 | 3,576,000 |
1984年 | 2,993,000 |
1983年 | 2,862,000 |
1982年 | 2,657,045 |
1981年 | 2,453,525 |
1980年 | 2,467,793 |
1979年 | 2,421,528 |
1978年 | 2,198,523 |
1977年 | 1,967,000 |
1976年 | 2,066,000 |
1975年 | 2,107,000 |
1974年 | 1,729,000 |
1973年 | 1,577,000 |
1972年 | 1,668,000 |
1971年 | 1,638,000 |
1970年 | 1,555,000 |
1969年 | 1,548,000 |
1968年 | 1,496,000 |
1967年 | 1,229,755 |
1966年 | 1,365,959 |
1965年 | 1,242,154 |
1964年 | 1,192,968 |
1963年 | 1,055,913 |
1962年 | 986,926 |
1961年 | 869,135 |
1961年から2022年までのエジプトのトマト生産量推移を見てみると、長期的な増加基調から近年の減少傾向という2つの明確なトレンドが観察されます。特に1961年から2009年までは持続的な成長が見られ、生産量はおよそ12倍に増加しました。この間、トマトはエジプトの農業経済において重要な役割を果たし、輸出市場においても同国の競争力を支えた主要な作物となってきました。増加の背後には、灌漑技術の改善や土地利用の最適化、国内需要の拡大が挙げられます。一方で、2010年以降は減少傾向が続き、2022年には2009年のピーク時と比較して約39%減少しました。
減少には複数の要因が関与していると考えられます。第一に、気候変動による影響が指摘されています。エジプトは地中海地域の気候変動の影響を強く受ける国の一つであり、特に高温による収穫量の減少や水資源の不足が生産に悪影響を及ぼしています。第二に、農地の都市化により耕作地が減少していることが挙げられます。人口増加の圧力により、農業用地が住宅地や産業地に変えられている点も無視できません。また、農業従事者の高齢化や人材不足も、長期的に生産性の低下につながる要因の一つです。
さらに、税制や補助金制度の変更、農業分野への投資不足が生産コストの上昇を招いており、結果として農家によるトマト栽培の意欲が低下している懸念もあります。他のトマト生産国との比較では、エジプトの減少傾向は他のいくつかの国とは対照的です。例えば、インドや中国は国内の需要や輸出拡大を背景とした生産量の増加を続けています。一方で、日本や韓国ではトマト栽培が主に施設園芸(温室栽培)に移行しており、気候影響への対応や高付加価値化が進んでいます。
具体的な対策としては、国家レベルでの灌漑技術のさらなる改善や耐熱性品種の開発・普及が急務です。また、農家への技術指導や財政支援、さらに若者を農業分野に引き付ける教育プログラムの強化が必要です。さらには、農業用地の保護政策や新たな電力・水資源管理インフラの整備も欠かせない課題です。また、輸出においては国際市場のニーズに合わせた品質向上が求められ、市場の多様化も戦略の一部となるでしょう。
地政学的リスクについても、トマト生産への影響を無視することはできません。エジプトはナイル川流域国であるため、上流諸国との水資源争奪が農業セクターに与える潜在的な影響が懸念されています。特に、エチオピアによるナイル川源流地域へのダム建設計画がエジプトの農業用水供給に与える影響は慎重に見守る必要があります。
コロナ禍の影響としては、物流の一時的な混乱や労働力不足による生産・販売の停滞がありましたが、現在はある程度回復が見られています。しかし、将来的にはパンデミックなどのグローバルな危機に備えた農業サプライチェーンの強靭化が求められるでしょう。
総じて、トマト生産量の減少はエジプト社会における農業の持続可能性を問う課題であり、国際的協力を含む包括的な政策対応が不可欠です。これらの対策を通じて、エジプトはトマトの主要生産国としての地位を堅持しつつ、持続可能な農業の模範を示すことが期待されます。