国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新のデータによると、エジプトの馬飼養数は、1960年代から2022年にかけて大きな変動を伴いながらも、近年では安定した増加傾向を見せています。例えば、1961年には43,944頭だったものが、2022年には85,309頭となり、約2倍近くに増加しています。一方で、特定の時期には急激な減少も見られ、地政学的状況や社会経済的な要因がこの変動に強く影響していると考えられます。
エジプトの馬飼養数推移(1961年~2023年)
年度 | 飼養数(頭) | 増減率 |
---|---|---|
2023年 | 86,582 |
1.49% ↑
|
2022年 | 85,309 |
1.7% ↑
|
2021年 | 83,880 |
0.12% ↑
|
2020年 | 83,780 |
0.43% ↑
|
2019年 | 83,421 |
2.47% ↑
|
2018年 | 81,408 |
7.9% ↑
|
2017年 | 75,446 |
4.83% ↑
|
2016年 | 71,968 |
-1.02% ↓
|
2015年 | 72,709 |
-2.56% ↓
|
2014年 | 74,616 |
4.58% ↑
|
2013年 | 71,346 |
-3.64% ↓
|
2012年 | 74,042 |
4.16% ↑
|
2011年 | 71,087 |
7.76% ↑
|
2010年 | 65,965 |
-0.38% ↓
|
2009年 | 66,215 |
0.12% ↑
|
2008年 | 66,137 |
0.64% ↑
|
2007年 | 65,714 |
-8.73% ↓
|
2006年 | 72,000 |
-10% ↓
|
2005年 | 80,000 |
66.67% ↑
|
2004年 | 48,000 |
-7.69% ↓
|
2003年 | 52,000 |
-16.13% ↓
|
2002年 | 62,000 |
16.98% ↑
|
2001年 | 53,000 |
17.78% ↑
|
2000年 | 45,000 |
-6.25% ↓
|
1999年 | 48,000 |
2.13% ↑
|
1998年 | 47,000 |
11.9% ↑
|
1997年 | 42,000 | - |
1996年 | 42,000 | - |
1995年 | 42,000 |
7.69% ↑
|
1994年 | 39,000 |
5.41% ↑
|
1993年 | 37,000 | - |
1992年 | 37,000 |
2.78% ↑
|
1991年 | 36,000 |
80% ↑
|
1990年 | 20,000 |
108.33% ↑
|
1989年 | 9,600 |
1.05% ↑
|
1988年 | 9,500 |
5.56% ↑
|
1987年 | 9,000 | - |
1986年 | 9,000 | - |
1985年 | 9,000 | - |
1984年 | 9,000 | - |
1983年 | 9,000 |
-4.06% ↓
|
1982年 | 9,381 | - |
1981年 | 9,381 |
-21.83% ↓
|
1980年 | 12,000 |
-3.01% ↓
|
1979年 | 12,373 |
-18.81% ↓
|
1978年 | 15,239 |
-15.34% ↓
|
1977年 | 18,000 |
-12.62% ↓
|
1976年 | 20,600 |
-28.97% ↓
|
1975年 | 29,000 |
16% ↑
|
1974年 | 25,000 |
-10.71% ↓
|
1973年 | 28,000 |
-6.67% ↓
|
1972年 | 30,000 |
-6.25% ↓
|
1971年 | 32,000 |
-8.57% ↓
|
1970年 | 35,000 | - |
1969年 | 35,000 | - |
1968年 | 35,000 |
-40.68% ↓
|
1967年 | 59,000 |
3.51% ↑
|
1966年 | 57,000 |
1.79% ↑
|
1965年 | 56,000 |
2.94% ↑
|
1964年 | 54,400 |
2.64% ↑
|
1963年 | 53,000 |
20.45% ↑
|
1962年 | 44,000 |
0.13% ↑
|
1961年 | 43,944 | - |
FAOのデータに基づくこの長期的なデータの分析は、エジプトにおける馬の飼養数がその時代ごとの経済、社会、さらには地政学的な背景を反映していることを示しています。1961年に43,944頭から始まった馬飼養数は、その後数年間で徐々に増加し、1967年の59,000頭に達しました。しかし、それ以後の1968年から1975年にかけて急激な減少が見られ、1976年には20,600頭まで減少しています。この動向には、同時期の中東戦争やエジプト国内の社会的不安定が大きな影響を与えたと考えられます。
1970年代後半から1980年代にかけて、飼養数はさらに減少し、1981年以降は長い低迷期に入りました。この期間には、エジプトの経済環境の悪化や農業機械の導入が進んだこと、さらに畜産業における優先度が低下したことが要因として挙げられます。馬の役割が農業や輸送の主要な手段から外れていったことで、飼養頭数が抑制される結果となりました。
しかし、1990年以降、馬飼養数は再び緩やかに増加を始めました。2000年代初頭には一時的に高い水準を記録し、2005年には80,000頭に達しています。その後、リーマンショックやアラブの春といった重大な経済・政治的出来事を背景に短期的な変動が見られますが、2011年を皮切りに再び増加傾向が続き、2022年には85,309頭と過去最高を記録しました。
この増加傾向の主な背景には、エジプトにおける観光産業の回復と動物愛護への意識の向上が挙げられます。特に、観光地で利用される馬車やエンターテイメント分野での需要が回復していることが要因です。また、近年では、競走馬やスポーツとしての馬術の人気が高まっており、この分野での育種や飼養の需要が増加していることも考えられます。
一方で、この分野にはいくつかのチャレンジがあります。気候変動と水不足は、エジプト全体の農業生産と飼料供給に影響を与え、馬の飼養に上昇コストをもたらしています。また、近代的な畜産技術の普及が追いついていないため、飼養環境の改善が進んでいない地域も存在します。さらに、感染症の制御や動物福祉の確保という点でも課題が見受けられます。
将来的には、馬飼育業界の発展を継続するためにいくつかの対策が求められます。具体的には、地域ごとの飼養環境に応じた産業支援政策の強化や、飼養技術の普及のための教育プログラムの実施が重要です。また、競走馬や馬術産業をエジプトの新たな観光資源として位置づけ、政府と民間が連携してその価値を最大化する取り組みを検討するべきです。さらに、天然資源の限られた中で飼料供給を効率化するための研究開発や、国際間の協力体制の構築も必要でしょう。
結論として、エジプトにおける馬飼養数の増加は、国の経済復興や観光産業の発展を反映したものであり、農業・観光といった複数の分野を横断する重要な指標と言えます。しかし、今後この分野を持続可能に発展させるためには、環境政策や技術革新、人材育成といった多方面からの取り組みが欠かせません。この中で、国際機関や近隣諸国との連携が、エジプトの成功の鍵となるでしょう。