国際連合食糧農業機関(FAO)の最新データによれば、エジプトのヤギ飼養頭数は1961年の約77万頭から増加基調をたどり、1990年代には300万頭を超える規模となりました。2000年代では400万頭超えが続きましたが、2018年以降、大幅な減少が確認され、2020年代初期には100万頭前後に低下しています。この急激な減少は、地域的、環境的、経済的要因が複合的に影響しており、持続可能な畜産経営への課題が浮き彫りになっています。
エジプトのヤギ飼養頭数推移(1961-2022)
年度 | 飼養頭数(頭) |
---|---|
2022年 | 1,011,000 |
2021年 | 1,131,000 |
2020年 | 925,000 |
2019年 | 977,000 |
2018年 | 3,572,000 |
2017年 | 3,973,692 |
2016年 | 4,259,861 |
2015年 | 4,046,238 |
2014年 | 4,185,761 |
2013年 | 4,153,261 |
2012年 | 4,306,258 |
2011年 | 4,258,175 |
2010年 | 4,174,986 |
2009年 | 4,139,257 |
2008年 | 4,473,486 |
2007年 | 4,210,714 |
2006年 | 3,877,000 |
2005年 | 3,803,000 |
2004年 | 3,879,000 |
2003年 | 3,811,000 |
2002年 | 3,582,000 |
2001年 | 3,497,000 |
2000年 | 3,424,756 |
1999年 | 3,308,150 |
1998年 | 3,260,990 |
1997年 | 3,187,214 |
1996年 | 3,239,000 |
1995年 | 3,379,000 |
1994年 | 3,198,000 |
1993年 | 3,027,000 |
1992年 | 2,754,825 |
1991年 | 2,820,204 |
1990年 | 2,400,000 |
1989年 | 2,000,472 |
1988年 | 1,818,000 |
1987年 | 1,650,000 |
1986年 | 1,583,000 |
1985年 | 1,563,000 |
1984年 | 1,542,000 |
1983年 | 1,520,000 |
1982年 | 1,498,000 |
1981年 | 1,475,000 |
1980年 | 1,451,211 |
1979年 | 1,426,682 |
1978年 | 1,440,000 |
1977年 | 1,375,000 |
1976年 | 1,349,000 |
1975年 | 1,321,000 |
1974年 | 1,293,000 |
1973年 | 1,264,000 |
1972年 | 1,234,000 |
1971年 | 1,203,000 |
1970年 | 1,155,000 |
1969年 | 1,141,000 |
1968年 | 970,000 |
1967年 | 794,000 |
1966年 | 791,000 |
1965年 | 787,000 |
1964年 | 783,500 |
1963年 | 780,000 |
1962年 | 776,000 |
1961年 | 772,000 |
エジプトのヤギ飼養頭数の推移を見ると、初期の1960年代には緩やかな増加基調が見られ、約77万2000頭から1年ごとに数千頭ずつ増加していましたが、1968年以降、その伸びが加速し始め、1970年代後半にはすでに150万頭を超える規模となっていました。この成長は、農業政策の安定化や人口増加と伴う需要増加が主な要因と推測されます。
1990年代に入ると、頭数は急激に増加し、1989年には200万頭規模が記録されました。その後も拡大が続き、1995年には337万9000頭となりましたが、社会的な問題や環境要因の影響により1990年代後半には若干の変動が見られ、1996年には323万9000頭と一部縮小傾向もみられました。それでも2000年代には再び増加に転じ、ピークとなる2008年には447万3486頭を記録しています。
しかし、2010年代に突入すると増加率が減速し、特に2013年以降、400万頭近辺で横ばいとなります。そして2018年に約357万2000頭と顕著な減少が始まり、2019年にさらに急激に減少し約97万7000頭となりました。この後も回復の兆しは見られず、2020年代初期には飼養頭数が100万頭を行き交うレベルまで縮小しています。
こうした推移には、いくつかの要因が複合的に絡み合っています。まず、エジプトの農業や畜産業は、気候変動による降水量の減少や砂漠化、そして干ばつなどの自然環境の変化に脅かされています。ヤギの飼育は比較的乾燥地帯でも適応可能とされていますが、それでもこれらの環境要因が生産基盤を損ねた可能性は否定できません。また、エジプト国内の政治的・社会的安定性の欠如や、特に2011年のアラブの春以降の経済混乱も少なからぬ影響を及ぼしたと考えられます。
大幅な減少が2020年代初期に記録されているのは、新型コロナウイルス感染症の流行が農業及び畜産セクターに深刻な影響を与えたことも一因と考えられます。輸送や物流の阻害、家畜病の管理の難しさ、さらに市場価格の変動などが、家畜飼育数に大きな影響を及ぼしたと分析されます。また、低所得者層への経済支援不足や、生産者が負担する飼料価格の高騰なども背景の要因としてあげられます。
将来的な持続可能性を考える上で、いくつかの具体的な対策が必要です。まず、適切な農業政策の策定と徹底実施が重要です。特に、気候変動に適応するための新たな技術導入や、干ばつ耐性のある飼料作物の研究が求められます。また、家畜の健康管理システムを強化し、家畜病の発生を防ぐための国際協力も不可欠です。さらに、エジプト政府は畜産業者への財政支援を強化し、飼料価格の高騰に対する適切な補助金政策の導入を進めるべきです。
国際的には、地域協力の枠組みを活用することで、輸入飼料への依存を減らし、地域内での資源共有を図ることが考えられます。また、外部からの技術支援や国際機関との連携を深め、より広範な問題解決を図るべきです。例えば、国連食糧農業機関(FAO)と連携して家畜生産能力を向上させるプロジェクトを実施することは有効な一歩となるでしょう。
結論として、エジプトのヤギ飼養頭数における減少は、経済、環境、社会的要因の相互作用によって引き起こされていることが明らかです。この問題を克服し、再び安定した増加基調に乗せるためには、国内外の幅広い協力と積極的な政策アプローチが必要です。