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軍隊を捨てた国、コスタリカはなぜ平和でいられるのか? その決断と75年後の真実

軍隊を捨てた国、コスタリカはなぜ平和でいられるのか? その決断と75年後の真実
コスタリカはなぜ「世界唯一の非武装中立国」になったのか? 平和国家の真実とその舞台裏

「もう二度と、軍隊が政治に関与する悲劇を繰り返さない」。1948年、一人の指導者が兵舎の壁をハンマーで打ち砕き、軍隊の廃止を宣言しました。なぜコスタリカは軍隊なき国家への道を選んだのか? そして75年以上が経過した今、その決断は国に何をもたらしたのか。平和国家の理想と現実、そのすべてを解き明かします。

壁を砕いた日──内戦の記憶と歴史的決断の瞬間

1948年、コスタリカは選挙不正をきっかけとした激しい内戦に揺れ、2,000人以上もの命が失われました。この悲劇を収束させた臨時政府の指導者、ホセ・フィゲーレス・フェレールは、国の分裂と暴力の元凶が軍事力そのものであると断じます。そして同年12月1日、彼は首都サンホセのベジャビスタ兵舎の壁を巨大なハンマーで打ち砕く象徴的なパフォーマンスを行い、軍隊の永久廃止を国民に宣言しました。

この歴史的な決断は、翌1949年に制定された新憲法第12条で「恒久的な制度として軍隊を禁ずる」と明記され、法的に確立されました。これにより、コスタリカは世界で初めて自らの意思で軍隊を完全に放棄した国となったのです。

決断の理由1:内戦の傷跡から「武器より教育」へ

国民が互いに銃を向け合った内戦の記憶は、「武力が再び社会を引き裂くことは許されない」という強い国民的コンセンサスを生み出しました。「軍隊は兵士より多くの警官を生み出すよりも、多くの教師を生み出すべきだ」と語ったフィゲーレスの信念のもと、軍事予算は教育、医療、福祉といった国民生活の向上に振り向けられることになります。

決断の理由2:国家の未来を「幸福と発展」に全振り

軍隊廃止により、国家予算の大部分が人々の暮らしのために使われるようになりました。結果、コスタリカは識字率97%超、平均寿命80歳超(中南米トップクラス)を達成。安定した民主主義と社会保障制度を背景に、各種の「幸福度ランキング」で常に世界の上位に名を連ねる国へと変貌を遂げました。

決断の理由3:巧みな外交による「現実的な安全保障」

1983年、コスタリカは「永世中立」を宣言。しかし、これは単なる理想論ではありません。米州機構(OAS)の集団安全保障体制への参加や、隣国との紛争を国際司法裁判所に委ねるなど、国際法と多国間協力を最大限に活用した、極めて現実的な安全保障戦略です。また、冷戦下における米国の暗黙的な庇護や、侵略のうまみが少ない地政学的条件も、非武装政策を後押ししました。

なぜコスタリカ『だけが』成功したのか? 近隣国・他国との比較

20世紀のラテンアメリカでは、軍事クーデターや独裁政権が頻発しました。グアテマラやニカラグア、エルサルバドルといった近隣諸国が長く軍の影響下にあり、政治不安に苦しんだのとは対照的に、コスタリカでは軍隊廃止以降、一度もクーデターは起きていません。

また、バチカンやモナコといった他の非武装国家が、小国であるがゆえに大国の保護下にあるのと異なり、コスタリカは人口500万人を超える主権国家として、自らの国民合意に基づき「積極的な非武装」を国是(こくぜ)とした、世界でも稀有な存在です。

  • コスタリカの安全保障: 警察力、国際法、外交努力の三本柱。
  • 警察の役割: 約1万4千人。軍事行動は行わず、国内の治安維持に特化。
  • 紛争解決: 武力ではなく、国際司法裁判所など法的な手段を最優先。

軍事費ゼロがもたらした「幸福大国」への道

軍隊なき国家という選択は、コスタリカ社会に豊かさをもたらしました。軍事費に充てられるはずだった予算は、国民皆保険制度や無償の大学教育を実現。環境保護にも早くから取り組み、国土の約4分の1が国立公園や自然保護区に指定される「環境先進国」としても知られています。

「Pura Vida」の精神と、国民が語る平和の意味

コスタリカには「Pura Vida(プラ・ビダ/純粋な人生)」という、国の精神を表す言葉があります。これは「素晴らしい人生を楽しもう」という挨拶であり、彼らの楽天性と平和を愛する価値観の象徴です。コスタリカの人々(Ticos)は、「銃声を知らずに育ったこと」を誇り、「軍隊がなくても生活は豊かで安全だ」と口を揃えます。この安心感が、世界中から観光客を惹きつける大きな魅力となっているのでしょう。

非武装国家が直面する現代の課題

もちろん、課題も存在します。近年、中南米全域で深刻化する麻薬密輸ルートに利用されるなど、国境を越える組織犯罪への対応は、警察力だけでは限界があるとの指摘も聞かれます。しかし、コスタリカは軍隊の再建ではなく、近隣国との情報共有や国際的な協力体制の強化によって、これらの脅威に立ち向かう道を選んでいます。

コスタリカ平和モデルのポイント

  • 内戦の反省から「軍隊」という制度そのものを廃止。
  • 軍事費を教育・福祉・環境に振り向け、国民の幸福度を最大化。
  • 「非武装=無防備」ではなく、外交と国際法を駆使した安全保障を構築。
  • 平和・人権・環境の分野で世界をリードする「ソフトパワー大国」。

まとめ:軍隊なき国家は、21世紀の希望となりうるか?

紛争や対立が絶えない現代世界において、「軍隊なき国家運営は現実に可能であり、国民を豊かにする」というコスタリカの実践は、かつてないほど重要な意味を持っています。「武力ではなく、対話と法と教育で国を守る」――。75年以上前に下されたこの国の勇敢な決断は、今なお世界に静かな、しかし力強い希望のメッセージを送り続けているのです。

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