国際連合食糧農業機関(FAO)の最新データによると、エジプトのヤギ肉生産量は1961年以降、増加と減少を繰り返しながら推移してきました。生産量は1961年には10,000トンで、1990年代前半には急激な増加を見せ50,000トン台に達しました。しかし、2017年以降減少傾向が顕著となり、2023年には16,176トンと大幅な低下が見られました。これには国内外の社会経済的要因や地域的課題が関連していると考えられます。
エジプトのヤギ肉生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 16,176 |
11.64% ↑
|
2022年 | 14,489 |
-27.55% ↓
|
2021年 | 20,000 |
25% ↑
|
2020年 | 16,000 |
33.33% ↑
|
2019年 | 12,000 |
-48% ↓
|
2018年 | 23,077 |
-30.93% ↓
|
2017年 | 33,411 |
-36.86% ↓
|
2016年 | 52,914 |
3.87% ↑
|
2015年 | 50,944 |
-3.88% ↓
|
2014年 | 53,000 |
1.92% ↑
|
2013年 | 52,000 |
-3.7% ↓
|
2012年 | 54,000 |
1.89% ↑
|
2011年 | 53,000 | - |
2010年 | 53,000 |
-10.17% ↓
|
2009年 | 59,000 |
-4.84% ↓
|
2008年 | 62,000 |
1.64% ↑
|
2007年 | 61,000 |
10.91% ↑
|
2006年 | 55,000 | - |
2005年 | 55,000 |
-3.51% ↓
|
2004年 | 57,000 |
0.18% ↑
|
2003年 | 56,900 |
5.76% ↑
|
2002年 | 53,800 |
3.46% ↑
|
2001年 | 52,000 |
1.96% ↑
|
2000年 | 51,000 |
2% ↑
|
1999年 | 50,000 | - |
1998年 | 50,000 |
2.04% ↑
|
1997年 | 49,000 |
2.08% ↑
|
1996年 | 48,000 |
2.13% ↑
|
1995年 | 47,000 |
4.44% ↑
|
1994年 | 45,000 |
32.35% ↑
|
1993年 | 34,000 |
3.03% ↑
|
1992年 | 33,000 |
6.45% ↑
|
1991年 | 31,000 |
12.73% ↑
|
1990年 | 27,500 |
0.73% ↑
|
1989年 | 27,300 |
1.11% ↑
|
1988年 | 27,000 |
3.85% ↑
|
1987年 | 26,000 |
8.33% ↑
|
1986年 | 24,000 |
4.35% ↑
|
1985年 | 23,000 |
2.22% ↑
|
1984年 | 22,500 |
2.27% ↑
|
1983年 | 22,000 |
2.33% ↑
|
1982年 | 21,500 |
2.38% ↑
|
1981年 | 21,000 | - |
1980年 | 21,000 |
5% ↑
|
1979年 | 20,000 |
1.52% ↑
|
1978年 | 19,700 |
3.68% ↑
|
1977年 | 19,000 |
11.11% ↑
|
1976年 | 17,100 |
-5% ↓
|
1975年 | 18,000 | - |
1974年 | 18,000 |
5.88% ↑
|
1973年 | 17,000 | - |
1972年 | 17,000 | - |
1971年 | 17,000 |
6.25% ↑
|
1970年 | 16,000 | - |
1969年 | 16,000 |
18.47% ↑
|
1968年 | 13,505 |
22.77% ↑
|
1967年 | 11,000 |
22.22% ↑
|
1966年 | 9,000 |
-10% ↓
|
1965年 | 10,000 | - |
1964年 | 10,000 | - |
1963年 | 10,000 | - |
1962年 | 10,000 | - |
1961年 | 10,000 | - |
エジプトのヤギ肉生産は1961年当初の10,000トンから、1980年代後半と1990年代には急速な増加を見せました。特に1994年には45,000トン、1999年には50,000トンと、1990年代後半は安定した成長期を迎えました。この背景には、人口増加と国内での動物飼育法の改善があり、エジプト国内におけるヤギ肉需要の高まりが一因となっていました。ヤギは乾燥地帯でも育成が可能で、食料問題の解決や地域経済に寄与するため、重要な家畜とされています。
それにもかかわらず、2000年代後半からは生産量の不規則な変動が見られるようになり、2017年以降大幅な減少が顕著となりました。ここで注目すべき点は、2018年からの劇的な低下です。2018年の生産量は23,077トンで前年度比で約30%もの減少が見られ、2019年にはさらに12,000トンにまで低下しました。2020年には16,000トンと一時的な回復が見られましたが、2022年と2023年の数値はいずれも20,000トンを大きく下回っています。
このような急激な減少の背景には、いくつかの要因が考えられます。まず、エジプトの政治的不安定さや経済状況が飼育環境に悪影響を及ぼしている可能性があります。エジプトの地政学的な位置は中東および北アフリカの中心にあり、地域的な衝突や政治的動揺が家畜産業を含む農業生産全体に波及しています。また、気候変動の影響も無視できません。ヤギの飼育に適した土地が砂漠化によって減少したことや、干ばつによる水資源制約が生産性に影響を与えたと思われます。
さらに、新型コロナウイルス感染症による経済的混乱も影響を及ぼしたことは否定できません。パンデミック中に物流が滞り、餌や資材の確保が困難になったり、畜産農家への支援が適切に行き届かなかったりしたことが、生産の低下を加速させたと考えられます。
この状況を改善するためには、複数のアプローチが必要です。まず、国内外の経済的支援や技術移転を促進することが重要です。地域農家に対して効率的な飼育技術や最新の畜産管理方法の提供を行い、生産効率を高めることが必要となります。また、水資源の管理や土地整備など、環境面での取り組みも喫緊の課題です。乾燥地域でも使用可能な灌漑技術や資源節約型の農法を普及させることで、長期的な持続可能性を確保することが求められます。
加えて、地域間協力を強化し、周辺国との貿易や資源共有の枠組みを作ることも効果的です。エジプトだけではなく、近隣諸国と連携して食料安全保障を高めることは、結果的にヤギ肉生産の安定化にもつながるでしょう。
結論として、エジプトのヤギ肉生産量の推移は、単なる農業問題にとどまらず、環境、経済、社会の多様な要素が絡んだ複雑な課題であると言えます。この問題を可視化し、適切な政策・技術的介入を行うことがエジプト政府および国際機関にとっての重要な使命となるでしょう。持続可能な農業の枠組み作りや、地域の安定化、そして気候変動への対応が今後の焦点となることは間違いありません。