国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新データによると、シリア・アラブ共和国の羊の毛生産量は、1960年代には緩やかに、1980年代から2000年代初頭にかけては急激に増加しました。しかし、2000年代後半以降、内戦や地域的な不安定性の影響を受けて減少傾向にあります。2022年には20,444トンと、全盛期である2007年の50,000トンからは半分以下に落ち込んでいます。この変動には地政学的リスク、気候要因、経済的構造の変化などが影響していると考えられます。
シリア・アラブ共和国の羊の毛生産量推移(1961-2022)
年度 | 生産量(トン) |
---|---|
2022年 | 20,444 |
2021年 | 18,966 |
2020年 | 19,311 |
2019年 | 14,488 |
2018年 | 16,894 |
2017年 | 18,092 |
2016年 | 18,893 |
2015年 | 17,413 |
2014年 | 19,341 |
2013年 | 19,926 |
2012年 | 20,285 |
2011年 | 21,069 |
2010年 | 18,670 |
2009年 | 21,856 |
2008年 | 41,300 |
2007年 | 50,000 |
2006年 | 45,000 |
2005年 | 44,000 |
2004年 | 41,150 |
2003年 | 32,200 |
2002年 | 29,700 |
2001年 | 28,000 |
2000年 | 32,000 |
1999年 | 25,500 |
1998年 | 30,000 |
1997年 | 26,400 |
1996年 | 26,400 |
1995年 | 25,490 |
1994年 | 24,314 |
1993年 | 22,230 |
1992年 | 35,142 |
1991年 | 33,172 |
1990年 | 31,396 |
1989年 | 29,872 |
1988年 | 29,376 |
1987年 | 26,568 |
1986年 | 25,088 |
1985年 | 24,460 |
1984年 | 25,268 |
1983年 | 27,840 |
1982年 | 25,638 |
1981年 | 23,296 |
1980年 | 19,494 |
1979年 | 17,766 |
1978年 | 16,894 |
1977年 | 13,668 |
1976年 | 13,000 |
1975年 | 12,340 |
1974年 | 14,228 |
1973年 | 10,994 |
1972年 | 12,141 |
1971年 | 13,000 |
1970年 | 14,000 |
1969年 | 15,902 |
1968年 | 12,896 |
1967年 | 13,356 |
1966年 | 11,200 |
1965年 | 13,200 |
1964年 | 11,100 |
1963年 | 9,400 |
1962年 | 8,000 |
1961年 | 6,300 |
シリア・アラブ共和国の羊の毛生産量の長期的なデータを振り返ると、1960年代から1970年代にかけて緩やかな増加を見せた後、1980年代から劇的な伸びを記録しました。特に1981年から1992年にかけての成長は顕著で、30,000トンを超える生産量が維持されました。これは農村経済の基盤である牧畜が順調であり、比較的安定した気候も影響していたことが要因と考えられます。ところが、1993年以降、生産量が突如減少しています。この減少は地域の干ばつや農業政策の変化、さらには経済的要因によるものと考えられます。
2003年から2007年にかけて、羊の毛生産量は再び増加し、2007年には50,000トンという過去最高値を記録しました。この時期は世界的な羊毛市場の需要増加や、同国の牧畜業の一時的な成長が影響している可能性があります。しかし、2009年には21,856トンと急激な減少が見られます。この年を境に生産量は減少傾向をたどり始め、2011年以降のシリア内戦がさらなる低迷を招きました。内戦による牧畜地帯の荒廃、物流網の混乱、そして農村の人口流出が生産量の低形成の主要因と考えられます。このような状況下では牧畜業全体の継続が困難となり、生産量の回復には長い時間を要すると見られています。
さらに、近年の気候変動も羊の毛生産量に影響を与えました。特にシリアでは2010年代に深刻な干ばつに見舞われ、家畜の飼育が大幅に制約された可能性があります。また、2019年以降、新型コロナウイルス感染症による経済の停滞も輸出需要やローカル市場への供給に悪影響を及ぼしたことが示唆されます。一方で、2022年には生産量が20,444トンまで回復を見せました。この一時的な回復は、緊急支援や新たな農村再建政策が奏功した結果とも考えられます。
地域間で生産量に違いが出る背景には、地政学的なリスク要因が絡んでいます。中東地域では水資源を巡る争いが続いており、シリアも例外ではありません。こうしたリソース不足は牧草地の縮小や家畜の管理コストの増加を引き起こし、持続可能な生産を難しくしています。他方で、主要羊毛生産国の中国やオーストラリアとシリアを比較すると、シリアの生産規模がはるかに小さいことも指摘すべきポイントです。これらの国々では、大規模かつ効率的な牧畜が進んでおり、羊毛の国際競争力においてシリアは急成長が必要な状況にあります。
未来への課題として、まず農村地域の再建が挙げられます。内戦の影響で荒廃した土地の復興や、牧畜用のインフラ整備が必要です。また、気候変動への適応として、耐干ばつ性の高い牧草の導入や水資源管理技術の向上が緊急課題と言えるでしょう。さらに、羊毛の生産とマーケティングの効率化を図り、農業従事者が利益を実感できる仕組みを構築することも重要です。
国際的な支援機関やNGOの協力を得ることも有効です。たとえば、国連や国際銀行から助成金やローンを活用し、牧畜コミュニケーションの普及や市場インフラ整備を促進することが考えられます。また、シリア国内での安定供給と輸出の活性化を目指した、地域間貿易ネットワークの再構築も欠かせません。
結論として、シリアの羊の毛生産量は、内戦や気候影響といった多重の課題に直面しながらも一部回復の兆しを見せています。持続可能な発展へ向けた政策、地域的な協力、そして農村経済の活性化が将来的な鍵となるでしょう。国際的な協力を最大限に活用することで、シリアの牧畜業は再び成長軌道に乗る可能性を秘めています。