国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新データによると、シリア・アラブ共和国の豚飼育数は1964年の200頭をピークに、その後の数十年間で増減を繰り返しながら一時的に上昇しました。しかし、1990年代後半に750を超える頭数を記録した後、2000年代以降は劇的に減少し、現在では33頭(2022年)にまで落ち込みました。この変動は地政学的な背景、政策、宗教的要因、さらに近年の紛争や経済的困難など、多くの要因に影響されています。
シリア・アラブ共和国の豚飼育数推移(1961-2022)
年度 | 飼育数(頭) |
---|---|
2022年 | 33 |
2021年 | 31 |
2020年 | 29 |
2019年 | 26 |
2018年 | 16 |
2017年 | 13 |
2016年 | 11 |
2015年 | 10 |
2014年 | 11 |
2013年 | 12 |
2012年 | 13 |
2011年 | 14 |
2010年 | 15 |
2009年 | 16 |
2008年 | 17 |
2007年 | 17 |
2005年 | 5 |
2004年 | 6 |
2003年 | 9 |
1999年 | 760 |
1998年 | 750 |
1997年 | 720 |
1996年 | 700 |
1995年 | 680 |
1994年 | 650 |
1993年 | 650 |
1992年 | 645 |
1991年 | 620 |
1990年 | 600 |
1989年 | 590 |
1988年 | 580 |
1987年 | 580 |
1986年 | 550 |
1985年 | 500 |
1984年 | 450 |
1983年 | 450 |
1982年 | 430 |
1981年 | 440 |
1980年 | 450 |
1979年 | 443 |
1978年 | 530 |
1977年 | 350 |
1976年 | 615 |
1975年 | 566 |
1974年 | 212 |
1973年 | 290 |
1972年 | 395 |
1971年 | 405 |
1970年 | 130 |
1969年 | 384 |
1968年 | 475 |
1967年 | 100 |
1966年 | 100 |
1965年 | 100 |
1964年 | 200 |
シリアにおける豚の飼育数推移は、同国の社会経済的状況、宗教的背景、さらには地政学的リスクが飼育産業に与える影響を如実に反映しています。1964年以降、豚飼育数が一時的に増加したのは、農業政策や畜産振興の一環として政府の支援があったことが理由と考えられます。しかし、宗教的な要因として、シリアの大部分の国民が豚肉を消費しないイスラム教徒であることから、この産業は当初から需要が限定的でした。
その後、1970年代から1990年代にかけては飼育数の緩やかな上昇が確認されます。1990年代のはじめには600頭を超え、1998年には過去最高の750頭に達しました。この時期に増加が見られたのは、非イスラム教徒の中でも豚肉の消費が若干広まったこと、そしてシリア国内の一部地域で畜産業の多様化が進められていたためです。しかし、2000年代に入ると状況は大きく一変しました。2003年、すでに飼育数が10頭未満と急減し、この低空飛行が2010年代まで続きます。この現象は、大規模な都市化やその他の経済政策転換により、非効率的と見なされた産業への投資が縮小されたことが一因と考えられるでしょう。さらに、2000年代初頭には、豚肉以外の畜産への重点的な投資政策が採られ、豚飼育産業の競争優位性が消失したことも背景として挙げられます。
加えて、2011年以降の内戦が豚飼育業界に致命的な影響を与えました。国内インフラへの被害や、人口の国外流出、経済の混乱により畜産業全体が衰退し、豚飼育はその中でも最も脆弱な分野とされました。さらに、2010年代には世界的に豚に影響を及ぼすウイルスや疫病が広まり、これに対する予防措置を講じる余裕がなかったシリアでは影響が特に深刻でした。2022年においても33頭と低い水準に留まっています。
一方で、近年わずかな回復が見られることも注目すべき点です。2018年以降からわずかな増加傾向が見られ、2022年には33頭に達しました。この背景には、小規模な農家や個人経営による自給自足的な取り組みが考えられます。また、内戦による混乱が一部地域で収束しつつあることも関係しているかもしれません。
今後の課題として、豚肉の需要が限られているシリア国内で、この産業が持続可能な形で存続できるためには、輸出市場への参入を視野に入れた畜産業の再統合が不可欠です。宗教的・文化的背景から国内需要の拡大が難しいため、周辺地域や国際市場での販路開拓が一つの解決策となり得ます。具体的には、豚飼育に適した地域での生産拠点の整備と、国際的な衛生基準を満たすための技術支援が必要です。さらに、国内の農業支援プログラムを通じて、豚飼育を副次的な収入源とする小規模農家を支援することも有効でしょう。
また、地政学的リスクへの対応も視野に入れる必要があります。特に内戦の余波が続く中で、和平プロセスと復興政策が畜産業の復興にとって不可欠です。さらに、近年は気候変動の影響や水資源不足が農業・畜産業全体に打撃を与えており、これに対応するための持続可能な資源管理への取り組みが必須となります。
シリアの豚飼育数の推移から得られる教訓は、社会的な需要だけでなく、経済的な環境、地政学的リスク、そして政策的な選択肢がいかに畜産業に影響を及ぼすかという点にあります。これを踏まえ、持続可能な畜産モデルや地域協力を進めることで、同国の豚飼育業は再び安定を取り戻す可能性があります。