国連食糧農業機関(FAO)の最新データによると、シリア・アラブ共和国の米生産量は、1960年代初頭から不安定な推移を示しており、全体として数値は低水準にとどまっています。例えば1961年には500トンの生産量で始まり、1968年には7,612トンと大幅に増加しましたが、その後の生産量は急減し、1973年以降、100トン前後で停滞しています。この傾向から、長期的な米生産における構造的な課題が浮き彫りになります。
シリア・アラブ共和国の米生産量の推移【1961年~2023年】世界ランキング・統計データ
| 年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
|---|---|---|
| 1996年 | 100 |
-42.86% ↓
|
| 1995年 | 175 |
1.16% ↑
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| 1994年 | 173 |
13.82% ↑
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| 1993年 | 152 |
7.8% ↑
|
| 1992年 | 141 |
11.9% ↑
|
| 1991年 | 126 |
7.69% ↑
|
| 1990年 | 117 |
17% ↑
|
| 1989年 | 100 | - |
| 1988年 | 100 | - |
| 1987年 | 100 | - |
| 1986年 | 100 | - |
| 1985年 | 100 | - |
| 1984年 | 100 | - |
| 1983年 | 100 | - |
| 1982年 | 100 | - |
| 1981年 | 100 |
11.11% ↑
|
| 1980年 | 90 |
-10% ↓
|
| 1979年 | 100 | - |
| 1978年 | 100 |
-33.33% ↓
|
| 1977年 | 150 |
-86.92% ↓
|
| 1976年 | 1,147 |
-78.02% ↓
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| 1975年 | 5,218 |
117.69% ↑
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| 1974年 | 2,397 |
11885% ↑
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| 1973年 | 20 |
-95.17% ↓
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| 1972年 | 414 |
-6.97% ↓
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| 1971年 | 445 |
-62.67% ↓
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| 1970年 | 1,192 |
-50.87% ↓
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| 1969年 | 2,426 |
-68.13% ↓
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| 1968年 | 7,612 |
259.91% ↑
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| 1967年 | 2,115 |
-0.7% ↓
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| 1966年 | 2,130 |
1.43% ↑
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| 1965年 | 2,100 |
75% ↑
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| 1964年 | 1,200 |
5.45% ↑
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| 1963年 | 1,138 |
4.31% ↑
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| 1962年 | 1,091 |
118.2% ↑
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| 1961年 | 500 | - |
シリアの米生産データを分析すると、初期の1960年代には生産量が増加傾向にありましたが、1968年を頂点とする劇的な生産量の揺れを経て、その後は顕著な減少が見られるようになります。1968年には生産量が突然7,612トンに達し、過去最高のレベルを記録しました。しかしながら、その直後に急減し、1970年代には不安定な数値を記録し、1980年代以降はほぼ100トン前後で推移しています。このデータからは、国全体として米生産への一貫した政策や技術的な支援が欠如している可能性が指摘できます。
このような不安定な動向の背景には、複合的な問題が考えられます。まず、地政学的背景として、シリアは1960年代から継続的に地域的な紛争や内戦の影響を受けやすい状況にありました。これにより、農業全般、特に適切な灌漑や土地の管理が妨げられたことが推察されます。また、米は水を多く必要とする作物であり、シリアの乾燥気候では持続可能な生産が難しいと考えられます。さらに、この地域では灌漑インフラや技術的な支援が遅れているため、米以外の収益性の高い農作物への転換が促進された可能性も高いです。
特に1973年以降、100トンといった最低レベルで生産が固定化されている点は、シリアにとって持続可能な米生産が政策的な優先事項として扱われていないことを示しているかもしれません。この数値は、主要な米生産国であるアジアの諸国、例えば中国やインドの何百万トンもの生産量と比べると非常に小規模であり、日本などの国内農家が保有する都市近郊の狭小農地1つが生産する米と同等の規模とも言えます。
この状況を打破するには、いくつかの具体的な対策が必要です。まず、国内の水資源を効率的に利用するための灌漑設備の改修と拡充が重要です。このようなインフラ整備には国際的な支援や技術協力が鍵となるでしょう。また、シリアのような乾燥地帯では、水使用量を抑えながら収量を確保できる耐旱性(水不足に強い特性を持つ)の米品種への転換も有効です。このような技術的改良は、シリアの農業の持続可能性を高める可能性があります。
また、米以外の穀物や作物への依存度を再評価し、輸出入のバランスを最適化するための新たな政策立案が必要です。例えば、近隣諸国や国際市場からの米輸入を強化しつつ、自国では適した作物の生産を推進することが考えられます。このような農業の多様性を持った戦略は、食糧安全保障を向上させる助けになるでしょう。
さらに、地政学的リスクや地域問題を考慮した政策枠組みが求められます。紛争や内政不安などの外的要因が農業活動を制約している場合、国際的な和平努力や経済復興策とリンクした農業支援が重要です。特に、国際連合や地域協力機構による資金援助や技術提供が成功のカギとなります。
結論として、シリアにおける米生産量は1960年代を境に急激に減少し、安定しない状態が続いています。これは単に農業技術やインフラの問題にとどまらず、地政学的な不安定さや環境要因が複雑に絡み合った結果です。今後、シリアおよび関連国際機関は、農業政策の再構築、水資源利用の効率化、技術革新を通じて、この問題に取り組む必要があります。これにより、シリア国内の食糧安全保障をより一層安定させる道が開かれるでしょう。