チャドの牛乳生産量推移（1961年～2023年）

国際連合食糧農業機関（FAO）が発表した最新データ（2024年7月更新）によると、チャドの牛乳生産量は1961年の111,510トンから2023年の267,134トンまで、長期的には着実に上昇していることが確認されました。この間には、時折減少や停滞が見られましたが、直近の数十年は安定的な増加傾向を示しています。特に、2010年代初期からの伸びは顕著で、持続的な増加が続いています。

チャドにおける牛乳生産量の推移を詳しく見ると、長期的な背景には、多くの地政学的および環境的要因が絡んでいることがわかります。1960年代から1980年代半ばまで、チャドは増加傾向を保ちつつも、一部の年で農業生産量が停滞あるいは急激に低下した状況が伺えます。例えば、1970年代半ばから1980年代初頭にかけて、生産量が80,190トンや99,900トンにまで減少するなど、極端な変動が見られます。これは、チャド北部や中央部での旱魃や砂漠化の進行、および資源をめぐる地域衝突が原因であると考えられます。

一方、1990年代以降は、地政学的安定化や農業政策の改善、さらには国際機関からの支援を背景に牛乳生産量が緩やかな回復を続けました。ただし、1990年代のデータを見ると、一時的な減少や停滞も依然として顕著であり、特に1991年や1993年の値が大きく下がった理由としては、内戦による影響、輸送インフラの未整備、管理不足が挙げられます。

それに対し、2000年代に入り牛乳生産量は再び成長軌道に乗り、特に2010年代から大幅な増加が見られるようになりました。この時期は、乳牛の飼育環境の改善や農業技術の進歩、地域農業コミュニティの強化、さらには海外から資金や技術協力の導入が進んだものと推察されます。2014年の200,000トンを超えた辺りからのデータを注目すると、2017年以降さらに生産量が拡大し、直近の2023年の267,134トンという過去最高の記録に至っています。

しかしながら、こうした生産量の増加が長期的な安定性を確保するためには、いくつかの課題も解決する必要があります。一つは、チャドが乾燥地帯に位置することから、水資源の確保と持続可能な利用が必須である点です。降水量の変動が激しいこの地域では、干ばつや洪水による農業生産の不安定化が依然として重大なリスクとなっています。また、地政学的に紛争のリスクが続く中で、牧草地や農地の安全な確保が課題として挙げられます。

さらに、感染症のリスクや気候変動の影響をも緩和するため、政府および国際機関による科学的研究や技術支援の導入が必要です。特に、家畜の健康管理や新しい乳製品加工技術の導入は、牛乳生産の経済的価値を高め、さらに持続可能な方向へと繋がる重要な要素です。また、国内市場だけでなく、近隣諸国やグローバル市場への輸出体制を整えることで、チャドの経済基盤が強化される可能性もあります。

以上を踏まえると、今後、チャドが牛乳生産量をさらに増加させ、同時に農業分野の収益性を持続的に高めるためには、複合的な取り組みが欠かせません。具体的な対策として、灌漑システムの構築、水資源管理の強化、牧草地の適切な維持、さらには国際協力を基盤とした技術導入が求められます。国際的な枠組みの中で、安全保障と気候変動対策を組み合わせた政策を進めることが、チャドにとって次なるステップになるでしょう。