国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新データによると、2022年のチャドにおける馬の飼養数は1,453,072頭に達しました。この数字は、過去数十年間で驚異的な増加を示しており、特に2015年以降、きわめて急速な上昇が見られます。具体的には、1961年の飼養数は150,000頭でしたが、2022年にはこの数字が約9.7倍になっています。この背景には、チャドの経済的、社会的変化が密接に関係していると考えられます。
チャドの馬飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(頭) |
---|---|
2022年 | 1,453,072 |
2021年 | 1,379,167 |
2020年 | 1,322,760 |
2019年 | 1,268,660 |
2018年 | 1,216,772 |
2017年 | 1,166,908 |
2016年 | 1,119,229 |
2015年 | 1,073,498 |
2014年 | 446,757 |
2013年 | 435,000 |
2012年 | 432,000 |
2011年 | 426,000 |
2010年 | 420,000 |
2009年 | 409,814 |
2008年 | 400,209 |
2007年 | 390,829 |
2006年 | 277,200 |
2005年 | 275,000 |
2004年 | 273,000 |
2003年 | 267,000 |
2002年 | 261,000 |
2001年 | 255,000 |
2000年 | 202,349 |
1999年 | 198,101 |
1998年 | 208,240 |
1997年 | 190,414 |
1996年 | 200,147 |
1995年 | 224,200 |
1994年 | 213,829 |
1993年 | 209,636 |
1992年 | 205,525 |
1991年 | 201,496 |
1990年 | 195,300 |
1989年 | 191,500 |
1988年 | 187,690 |
1987年 | 185,802 |
1986年 | 182,200 |
1985年 | 178,500 |
1984年 | 175,000 |
1983年 | 176,000 |
1982年 | 173,000 |
1981年 | 170,000 |
1980年 | 166,000 |
1979年 | 163,000 |
1978年 | 160,000 |
1977年 | 157,000 |
1976年 | 154,000 |
1975年 | 139,000 |
1974年 | 150,000 |
1973年 | 160,000 |
1972年 | 178,000 |
1971年 | 160,000 |
1970年 | 150,000 |
1969年 | 150,000 |
1968年 | 150,000 |
1967年 | 150,000 |
1966年 | 150,000 |
1965年 | 150,000 |
1964年 | 150,000 |
1963年 | 150,000 |
1962年 | 150,000 |
1961年 | 150,000 |
FAOのデータを基に分析すると、1961年から2022年にかけて、チャドにおける馬の飼養数は全体として顕著な伸びを示してきました。ただし、その推移の中にはいくつかの特徴的な変動が見られます。まず、1961年から1970年代は150,000頭前後でほぼ横ばいの状態が続き、その後、1980年代に緩やかではあるものの増加が始まりました。この頃の増加ペースは年間数千頭程度で、一定の安定感を持たせながら持続的な成長を見せています。
しかし、2015年から劇的な変化が起こります。2014年の飼養数が446,757頭であったのに対し、2015年には1,073,498頭と一気に倍以上に増加しました。この飛躍的な増加の背景には、統計手法の変更や、馬の利用拡大を目的とする政策転換の影響、農村部における畜産業の急速な発展が関係している可能性があります。また、地域紛争や気候変動による家畜選択の変化といった地政学的要因も寄与していると考えられます。
チャドでは馬は輸送手段や農作業、さらには文化的・社会的象徴としても役割を果たしています。特に灌漑技術の乏しい農村地域や乾燥地帯において、馬による畑仕事や水運搬の需要が高まったことが、この増加に拍車をかけたとみられます。また、人口増加に伴う家畜需要の高まりも無視できません。
他国との比較を行うと、人口規模や経済規模が比較的近いアフリカのナイジェリアやスーダンと比べても、近年のチャドの馬飼養数増加のスピードは特異であることが分かります。アフリカ全体で馬の利用が減少している都市部とは異なり、チャドではこれがインフラ不足や一部地域の治安問題を背景にした伝統的手段として再評価されている可能性があります。
しかし、このような急増は持続可能性の観点でいくつかの問題も伴います。まず、エサや水の確保に関して、競争が激化するリスクがあります。気候変動により乾燥化が進むチャドでは、馬に必要な牧草や水資源が不足する懸念がたびたび指摘されています。また、馬の集中管理が困難になると、疫病の発生リスクも高まります。家畜間の病気は費用のかかる対策が必要となり、経済的な影響が波及します。
これらの課題を克服するためには、まず持続可能な飼養管理システムの構築が急務です。具体的には、牧草用草地の保護と効率的な利用、家畜用水供給システムの整備、そして家畜健康管理に関する技術や知識の普及が求められます。また、統計の一貫性を保つことで、正確なデータ収集が継続的に行われる仕組みを整えることも重要です。
国際協力の枠組みも不可欠です。チャド周辺諸国や国際農業団体との連携を通じて、畜産業全般の適応力を高めることが期待されます。特に、地域全体で共有できる家畜病対策のマニュアル作成や、緊急時の家畜輸送・共有を目的とした基盤整備などがその一例として挙げられます。
結論として、チャドにおける馬の飼養数の急速な増加は、潜在的な経済発展や地域社会の活性化に寄与する大きな可能性を秘めていますが、一方で気候変動や社会的構造の影響を受けやすい脆弱性も併せ持っています。これに対応するため、国内外での協力のもと、持続可能な飼養モデルを確立することが鍵となるでしょう。この視点を持続的に進めることが、チャドのみならずアフリカ全体の畜産業の発展にもつながると考えられます。