国際連合食糧農業機関(FAO)の最新データ(2024年7月更新)によると、サントメ・プリンシペのコーヒー豆生産量は、1961年に258トンという高い数値を記録したものの、その後減少傾向が続き、近年では2022年まで8トン程度で推移しています。この50年以上にわたる生産量の大幅な減少は、地政学的背景や経済的課題、農業政策の欠如が影響していると推察されます。
サントメ・プリンシペのコーヒー豆生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
---|---|---|
2023年 | 8 |
0.4% ↑
|
2022年 | 8 |
-0.26% ↓
|
2021年 | 8 |
-0.79% ↓
|
2020年 | 8 |
16.51% ↑
|
2019年 | 7 |
-14.17% ↓
|
2018年 | 8 |
-2.68% ↓
|
2017年 | 8 |
14.47% ↑
|
2016年 | 7 |
-20.56% ↓
|
2015年 | 9 |
7.22% ↑
|
2014年 | 8 |
105.9% ↑
|
2013年 | 4 |
-37.1% ↓
|
2012年 | 6 |
10.71% ↑
|
2011年 | 6 |
-63.09% ↓
|
2010年 | 15 |
-15.25% ↓
|
2009年 | 18 |
-10.28% ↓
|
2008年 | 20 |
-13.11% ↓
|
2007年 | 23 |
-23.47% ↓
|
2006年 | 30 |
7.14% ↑
|
2005年 | 28 |
3.7% ↑
|
2004年 | 27 |
17.54% ↑
|
2003年 | 23 |
-8.12% ↓
|
2002年 | 25 |
13.64% ↑
|
2001年 | 22 |
22.22% ↑
|
2000年 | 18 |
-68.97% ↓
|
1999年 | 58 |
61.11% ↑
|
1998年 | 36 |
-20% ↓
|
1997年 | 45 |
114.29% ↑
|
1996年 | 21 |
23.53% ↑
|
1995年 | 17 |
-22.73% ↓
|
1994年 | 22 |
10% ↑
|
1993年 | 20 |
53.85% ↑
|
1992年 | 13 |
18.18% ↑
|
1991年 | 11 |
-70.27% ↓
|
1990年 | 37 |
362.5% ↑
|
1989年 | 8 |
-74.19% ↓
|
1988年 | 31 |
244.44% ↑
|
1987年 | 9 |
-59.09% ↓
|
1986年 | 22 |
57.14% ↑
|
1985年 | 14 |
-74.07% ↓
|
1984年 | 54 |
-10% ↓
|
1983年 | 60 | - |
1982年 | 60 | - |
1981年 | 60 | - |
1980年 | 60 | - |
1979年 | 60 | - |
1978年 | 60 | - |
1977年 | 60 |
33.33% ↑
|
1976年 | 45 |
60.71% ↑
|
1975年 | 28 |
-69.89% ↓
|
1974年 | 93 |
52.46% ↑
|
1973年 | 61 |
-57.34% ↓
|
1972年 | 143 |
104.29% ↑
|
1971年 | 70 |
-44% ↓
|
1970年 | 125 |
-17.22% ↓
|
1969年 | 151 |
13.53% ↑
|
1968年 | 133 |
-24% ↓
|
1967年 | 175 |
10.76% ↑
|
1966年 | 158 |
-26.17% ↓
|
1965年 | 214 |
8.63% ↑
|
1964年 | 197 |
-23.64% ↓
|
1963年 | 258 |
-13.13% ↓
|
1962年 | 297 |
15.12% ↑
|
1961年 | 258 | - |
サントメ・プリンシペはかつて「コーヒーの島」として知られ、農業生産、特にコーヒー豆の生産が主要な経済活動でした。1961年に記録された258トンという生産量は、当時の国の経済基盤の象徴でした。しかし、1960年代以降、持続的な下降傾向が見られ、特に1970年代半ばには極端な減少が発生し、1975年にはわずか28トンと激減しました。
この減少は、いくつかの要因に起因しています。第一に、1975年にサントメ・プリンシペが独立を果たした後、従来の農業モデルは大きく変化しました。それまで植民地時代に外部資本主導で運営されていた大規模コーヒープランテーションは、国有化や経済統制の影響を受け、効率的な運営が困難になったと考えられます。さらに、農地管理の不備やインフラ不足も、生産量の大幅な低下につながりました。例えば、インフラ未整備により農作物の輸送や加工がスムーズに行えず、農家の収入が減少するという悪循環が発生しました。
また、1980年代以降は、農業の多角化を目指す政策のもと、コーヒー以外の農作物が重視されるようになり、コーヒー豆生産への投資が抑制される結果となりました。このほか、国際市場での競争の激化や価格低迷など、外的条件も断続的な影響を及ぼしてきました。特に、近年では気候変動の影響が顕著となり、高温と降雨量の不安定化が収穫量に直接的な影響を与えています。
直近では、2022年までのデータにおいても生産量は8トン前後という低水準で推移しています。この数字は、サントメ・プリンシペがかつての主要コーヒー生産国の地位を維持できていない現状を如実に示しています。一方で、持続可能な農業や高付加価値の特産品としてのオーガニックコーヒーの需要が世界で高まっている今、サントメ・プリンシペには新たな立ち位置を模索するチャンスが存在します。
課題としてまず挙げられるのは、農業従事者の技術力の向上とインフラ整備の不足です。これには、灌漑システムの導入や、効率的な栽培方法を指導するための研修の整備が含まれます。また、輸送や加工施設の改善、加えて国際市場への流通ルートの確立も急務といえます。そして、政策面では、農家や地元の生産者を支援するための金融制度の整備や、気候変動に対応するための適応策も必要です。さらに、オーガニックやフェアトレード認証を取得することで、価格競争に陥るリスクを回避し、国際市場での競争力を高める可能性があります。
世界全体のコーヒー市場を考慮すると、現在でもブラジルやベトナムなどの大規模生産国が強い影響を持ちますが、こうした産地に対抗するのではなく、品質や地域性を訴求する差別化戦略が鍵です。この試みは、他のアフリカ諸国において一定の成功を収めており、サントメ・プリンシペにおいても参考になるでしょう。また地政学的には、周辺国との農業協力枠組みを確立し、輸出入のハブとしての役割を見出すことで、地域全体の発展に寄与する可能性があります。
今後、国際機関や非政府組織(NGO)との協力を通じて技術支援を受けながら、輸出基盤の整備やマーケティングの強化を図ることが重要です。特に、気候変動が農業セクターに与える影響を考慮した長期的な視点が求められます。将来、サントメ・プリンシペが小規模ながらもユニークなコーヒー生産国として持続的発展を遂げるためには、これらの具体的なアプローチを着実に実行することが求められます。