Food and Agriculture Organization(国際連合食糧農業機関)が発表したデータによると、イタリアのサワーチェリー生産量は、1990年代から2010年代半ばにかけて概ね6,000~8,000トンで推移し、2000年には最大の10,000トンに達しました。一方で、2021年には急激に270トンまで減少し、それ以降の3年間も1,100トン程度と低迷した状態が続いています。これにより、イタリアのサワーチェリー生産の持続可能性に対する疑問が巻き起こっています。
イタリアのサワーチェリー生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 1,140 |
0.88% ↑
|
2022年 | 1,130 |
318.52% ↑
|
2021年 | 270 |
-96.44% ↓
|
2017年 | 7,586 |
0.16% ↑
|
2016年 | 7,574 |
-0.13% ↓
|
2015年 | 7,584 |
0.19% ↑
|
2014年 | 7,569 |
0.41% ↑
|
2013年 | 7,538 |
0.17% ↑
|
2012年 | 7,525 |
0.02% ↑
|
2011年 | 7,524 |
-3.14% ↓
|
2010年 | 7,768 |
-2.91% ↓
|
2009年 | 8,000 |
6.67% ↑
|
2008年 | 7,500 |
7.14% ↑
|
2007年 | 7,000 |
2.94% ↑
|
2006年 | 6,800 |
-2.86% ↓
|
2005年 | 7,000 |
12.9% ↑
|
2004年 | 6,200 |
-12.55% ↓
|
2003年 | 7,090 |
-19.33% ↓
|
2002年 | 8,789 |
11.79% ↑
|
2001年 | 7,862 |
-21.38% ↓
|
2000年 | 10,000 |
12.74% ↑
|
1999年 | 8,870 |
43.06% ↑
|
1998年 | 6,200 |
3.33% ↑
|
1997年 | 6,000 |
-16.67% ↓
|
1996年 | 7,200 |
14.29% ↑
|
1995年 | 6,300 |
-14.86% ↓
|
1994年 | 7,400 |
5.71% ↑
|
1993年 | 7,000 | - |
イタリアのサワーチェリー生産量の推移データは、同国がこの果実の生産に関して常に安定した基盤を築いてきたことを示しています。特に、1990年代から2010年代にかけて、年平均7,000トン前後の生産量を維持しており、2000年には10,000トンに達するなど、一部の年では特に好成績を示しました。この時期の生産の安定性は、適切な農地管理やイタリア特有の温暖な気候、さらには果実栽培における熟練した農業技術が背景にあると考えられます。
ところが、2021年以降のデータは、これまでとは大きく異なる状況を示しています。2021年の270トンという数字は、それ以前の最低値6,000トン台と比べても著しい落ち込みであり、生産力の劇的な低下が疑われます。この急激な減少には、複数の要因が絡み合っている可能性を考慮する必要があります。
まず、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが挙げられます。この時期、農業従事者の活動が制限されただけでなく、物流体制の混乱も影響を与えた可能性があります。また、異常気象も懸念される要因です。近年、地球温暖化により欧州全域で記録的な気温の上昇や降水量の変動が報告されており、サワーチェリーの生育環境にも深刻な影響を及ぼしたと推測されます。
さらに、地政学的な観点では、国際的な資源争奪や貿易摩擦が生産資材の価格や入手難易度に反映し、イタリアの農業コストを押し上げたことも検討すべき要因です。とりわけ、肥料や農薬の供給不足、価格高騰が生産者の意欲を削いでいる可能性が否めません。
2022年及び2023年には、生産量が1,130トン、1,140トンとわずかに持ち直しましたが、それでも1990年代~2000年代の平均値には遠く及びません。この現状を改善するためには、長期的な視野での対策が求められます。
具体的な提言としては、まず温暖化対策を組み込んだ農業技術の実践が挙げられます。例えば、高温や乾燥に強い品種への転換、または次世代灌漑システムの導入が効果的です。また、生産者への補助金や、労働力不足解消のための移民政策の見直しといった政策面の強化も重要なポイントです。さらに、国際マーケットとの連携を強化し、サワーチェリーを高付加価値商品として輸出できるよう、ブランド力向上に努めることも検討すべきです。
これらの課題に迅速かつ計画的に対応することで、イタリアのサワーチェリー生産が再び安定軌道に乗る可能性があります。また、これと並行して、他国との技術情報の共有や共同研究による補完的なアプローチも有用と考えられます。最後に、これまでの成功と失敗から得られた知見を有効活用しつつ、将来への持続可能な道筋を描くことが、いま最も求められている課題といえるでしょう。