FAO(国際連合食糧農業機関)が発表した最新データによると、イタリアのテンサイ(甜菜)生産量は、1960年代から2000年前後にかけて前年比で増減を繰り返しながらも比較的高水準を維持していました。しかし、2000年代半ばに急激な減少が見られ、その後も長期間にわたって低迷しています。2023年の生産量は1,398,540トンであり、ピーク時1981年の17,499,696トンと比較すると約8%にまで減少しています。この長期傾向は、EU農業政策の変化や気候変動、国内農業の構造的な課題など、複数の要因に起因していると考えられます。
イタリアのテンサイ(甜菜)生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 1,398,540 |
25.96% ↑
|
2022年 | 1,110,280 |
-26.51% ↓
|
2021年 | 1,510,710 |
-17.5% ↓
|
2020年 | 1,831,090 |
2.92% ↑
|
2019年 | 1,779,130 |
-8.36% ↓
|
2018年 | 1,941,480 |
-20.87% ↓
|
2017年 | 2,453,568 |
19.9% ↑
|
2016年 | 2,046,297 |
-6.3% ↓
|
2015年 | 2,183,878 |
-42.29% ↓
|
2014年 | 3,784,435 |
75.26% ↑
|
2013年 | 2,159,381 |
-13.36% ↓
|
2012年 | 2,492,466 |
-29.75% ↓
|
2011年 | 3,547,947 |
-0.06% ↓
|
2010年 | 3,550,100 |
7.33% ↑
|
2009年 | 3,307,681 |
-6.05% ↓
|
2008年 | 3,520,855 |
-24.61% ↓
|
2007年 | 4,670,302 |
-2.08% ↓
|
2006年 | 4,769,614 |
-66.31% ↓
|
2005年 | 14,155,683 |
67.07% ↑
|
2004年 | 8,473,024 |
18.73% ↑
|
2003年 | 7,136,499 |
-43.92% ↓
|
2002年 | 12,726,038 |
28.34% ↑
|
2001年 | 9,916,000 |
-19.84% ↓
|
2000年 | 12,370,000 |
-14.72% ↓
|
1999年 | 14,505,400 |
8.4% ↑
|
1998年 | 13,381,800 |
-3.05% ↓
|
1997年 | 13,802,671 |
13.94% ↑
|
1996年 | 12,114,200 |
-8.14% ↓
|
1995年 | 13,188,320 |
4.43% ↑
|
1994年 | 12,629,340 |
14.14% ↑
|
1993年 | 11,065,100 |
-24.37% ↓
|
1992年 | 14,629,669 |
22.17% ↑
|
1991年 | 11,975,220 |
1.76% ↑
|
1990年 | 11,768,400 |
-30.33% ↓
|
1989年 | 16,890,704 |
24.74% ↑
|
1988年 | 13,540,600 |
-11.64% ↓
|
1987年 | 15,325,200 |
2.46% ↑
|
1986年 | 14,957,800 |
56.34% ↑
|
1985年 | 9,567,200 |
-16.73% ↓
|
1984年 | 11,489,700 |
13.94% ↑
|
1983年 | 10,084,100 |
-11.52% ↓
|
1982年 | 11,396,500 |
-34.88% ↓
|
1981年 | 17,499,696 |
29.84% ↑
|
1980年 | 13,477,600 |
1.82% ↑
|
1979年 | 13,236,400 |
16.84% ↑
|
1978年 | 11,329,100 |
-0.15% ↓
|
1977年 | 11,346,400 |
-25.1% ↓
|
1976年 | 15,149,200 |
22.71% ↑
|
1975年 | 12,345,500 |
62.83% ↑
|
1974年 | 7,581,700 |
-17.62% ↓
|
1973年 | 9,202,800 |
-17.66% ↓
|
1972年 | 11,177,100 |
27.36% ↑
|
1971年 | 8,776,200 |
-7.79% ↓
|
1970年 | 9,518,000 |
-9.96% ↓
|
1969年 | 10,570,900 |
-7.73% ↓
|
1968年 | 11,456,700 |
-15.18% ↓
|
1967年 | 13,507,100 |
19.97% ↑
|
1966年 | 11,258,800 |
24.01% ↑
|
1965年 | 9,078,800 |
13.97% ↑
|
1964年 | 7,966,300 |
1.07% ↑
|
1963年 | 7,882,100 |
10.28% ↑
|
1962年 | 7,147,600 |
1.08% ↑
|
1961年 | 7,070,900 | - |
イタリアはかつてテンサイ(甜菜)の主要な生産国のひとつであり、1970年代から1980年代にかけては生産量が年間1000万トンを優に超える水準で推移していました。特に1981年には過去最高の17,499,696トンを記録し、この分野での国際的な地位を確立していました。しかし、2005年を境に生産量は急激に減少し、2006年には半減、以降は長期的な低迷期に突入しました。最近では2020年代に入り、年間生産量が150万トン前後にとどまるなど、テンサイ産業はかつてない挑戦に直面しています。
この変動の背景には、主にEU共通農業政策(CAP)の影響が挙げられます。2006年以降、EUは砂糖市場の自由化を進め、テンサイ生産に対する補助金の見直しを行いました。この政策変更は、収益性を大幅に低下させ、多くの生産者がテンサイ栽培を放棄する一因となりました。また、地中海性気候を持つイタリアでは、水不足や高温など気候変動の影響を大きく受けやすいことも、生産量減少の要因です。さらに、イタリア国内の農業産業全体に見られる課題として、高齢化する農業従事者や若年層の農業離れ、生産コストの増加による競争力低下などが挙げられます。これらの要因が相まって、テンサイ生産量は低迷しています。
他国の動向と比較すると、例えばフランスやドイツはEU内での主要なテンサイ生産国として一定の生産量を維持しており、気候条件や政策対応の違いがイタリアと比較して相対的に有利に働いていることがわかります。一方で、イタリアと類似の地中海諸国では、全体的に生産量が減少している傾向が見られます。
未来への課題として、イタリアがテンサイ生産を持続可能にするためには、まず気候変動への適応を目指した農業技術の革新が不可欠です。例えば、水の効率的な利用を促進するための灌漑システムの導入や、乾燥に強い品種の育成が挙げられます。また、EUの農業政策との整合性を取りながらも国内農業の競争力を高めるための補助金や融資制度の改善が必要です。さらに、若年層が農業分野に参入しやすい環境を整備することで、労働力の確保と新しい視点を持ち込むことが期待されます。
地政学的な観点から見ても、イタリアが砂糖生産を自国主体で維持することには一定の重要性があります。砂糖は日々の食料供給チェーンにおいて戦略的な商品とされ、輸入依存度が高まることで地政学的リスクが増す可能性があります。また、予測される気候変動の影響により、他地域からの砂糖供給が不安定化するリスクもあります。そのため、国内生産の復興は食糧安全保障の観点からも焦点を当てるべき課題です。
結論として、イタリアのテンサイ産業が直面する課題は多岐にわたりますが、持続可能な農業政策の整備と気候変動に適応した取り組みを進めることで再生の可能性が見えてきます。これには、最新の農業技術の導入、EUレベルでの協調政策、そして国内の生産者支援策の強化が必要です。これらの措置が適切に実行されることで、イタリアのテンサイ生産は新たな段階に向けて発展する可能性を秘めています。