国連の食糧農業機関(Food and Agriculture Organization)のデータによると、イタリアにおける羊の飼養数は、1960年代から1980年代にかけて増加傾向を示し、特に1980年代半ばには11,500,000匹を超えるピークを迎えました。しかし、1990年代以降は全体的な減少傾向が続き、近年では6,500,000匹台まで減少しています。この変動は、農業政策の転換、都市化、需要の変化など多くの要因から影響を受けています。
イタリアの羊飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(匹) |
---|---|
2022年 | 6,568,000 |
2021年 | 6,728,350 |
2020年 | 7,034,160 |
2019年 | 7,000,880 |
2018年 | 7,179,150 |
2017年 | 7,215,433 |
2016年 | 7,284,874 |
2015年 | 7,148,534 |
2014年 | 7,166,020 |
2013年 | 7,181,828 |
2012年 | 7,015,729 |
2011年 | 7,900,016 |
2010年 | 8,012,600 |
2009年 | 8,175,200 |
2008年 | 8,237,000 |
2007年 | 8,227,000 |
2006年 | 7,954,000 |
2005年 | 8,106,000 |
2004年 | 7,951,640 |
2003年 | 8,138,000 |
2002年 | 8,311,383 |
2001年 | 6,809,000 |
2000年 | 11,017,000 |
1999年 | 10,894,000 |
1998年 | 10,893,711 |
1997年 | 10,943,457 |
1996年 | 10,667,970 |
1995年 | 10,681,500 |
1994年 | 10,461,000 |
1993年 | 10,344,000 |
1992年 | 10,434,600 |
1991年 | 10,847,600 |
1990年 | 10,848,000 |
1989年 | 11,568,600 |
1988年 | 11,456,500 |
1987年 | 11,450,900 |
1986年 | 11,293,300 |
1985年 | 11,097,900 |
1984年 | 10,744,600 |
1983年 | 10,660,000 |
1982年 | 9,051,000 |
1981年 | 9,277,300 |
1980年 | 9,110,400 |
1979年 | 8,973,300 |
1978年 | 8,694,300 |
1977年 | 8,445,200 |
1976年 | 8,152,100 |
1975年 | 7,995,100 |
1974年 | 7,809,000 |
1973年 | 7,770,300 |
1972年 | 7,845,670 |
1971年 | 7,947,630 |
1970年 | 8,137,600 |
1969年 | 8,206,400 |
1968年 | 8,285,400 |
1967年 | 8,212,000 |
1966年 | 8,000,000 |
1965年 | 7,866,250 |
1964年 | 7,762,350 |
1963年 | 7,856,800 |
1962年 | 8,064,500 |
1961年 | 8,230,800 |
イタリアの羊飼養数の推移は、農業や経済の動向をよく反映しています。1960年代には約8,000,000匹前後で推移していましたが、1970年代から1980年代半ばにかけては急激な増加が見られました。特に1983年以降、飼養数は10,000,000匹を超え、1988年には11,456,500匹に達しました。この増加は、おそらくイタリア国内での羊肉と羊乳製品(特にチーズ)の需要増加に加え、EU(当時EC)の共通農業政策(Common Agricultural Policy)による畜産業支援が後押しした結果であると考えられます。
しかしながら1990年代に入ると、飼養数は再び減少基調を辿るようになります。この背景には、経済全体の構造変化、都市化の進行、および競争の激化による農畜産業の集約化などがあります。加えて、EU内での市場競争が激化し、一部地域での小規模畜産業が廃業に追い込まれるなど、羊飼育を取り巻く環境が変化したことも影響しました。
特筆すべき点は2001年のデータで、この1年の間で飼養数が約半分に激減している点です。この大幅な減少は、2000年代初頭に欧州で発生した口蹄疫(家畜に甚大な影響を及ぼすウイルス性疾患)やBSE(狂牛病)の影響によるものです。家畜疾病による厳しい規制や淘汰の実施が、飼養数の急激な減少を招いたと考えられます。その後、2000年代半ばにはある程度の回復を見せたものの、2010年代以降は持続的な減少が続き、2022年には約6,568,000匹となっています。
この飼養数の減少の要因として、都市圏への人口移動による農業従事者の減少、羊肉および羊乳製品の消費減少、さらには世界的な競争の激化による価格下落などが挙げられます。これらはいずれもイタリアの農村社会が抱える広範な課題を浮き彫りにしています。また、近年では気候変動の影響も見逃すことができません。特に羊が飼育される乾燥地帯が影響を受けており、飼料価格の高騰や放牧地の縮小も飼養数の低下につながっています。
このような動向の中で、いくつかの課題と提言が浮かび上がります。一つ目は、持続可能な農業経営モデルの導入です。地域特産品としての羊乳やチーズ(例:ペコリーノチーズ)の付加価値をさらに高め、高価格帯市場を狙う取り組みが重要です。二つ目は、地域間協力の枠組みを構築し、地元での羊関連産業の集約化やネットワーク化を進めることです。三つ目として、気候変動への対応策を強化するため、牧草地管理の効率化や新たな牧草技術の導入を支援する政策が必要です。これらの施策により、小規模農家を支援し、産業全体の持続性を確保することが期待されます。
国際的な視点から見ると、イタリアの羊飼養数の減少傾向は、他のEU諸国でも見られる共通課題です。一方で、ニュージーランドやオーストラリアといった羊産業の主要国との競争が激化する中で、いかに地理的および文化的優位性を活かし他国との差別化を図るかも重要なテーマです。
このデータは、イタリア農業が直面する課題を明確に示しています。今後、国や地方自治体、さらにはEUが協力して、地域資源を活用した羊産業の再構築を行わなければ、さらなる衰退が予想されます。