国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新データによると、イラクのオクラ生産量は1978年の92,200トンを皮切りに、1980年代半ばまで安定した増加を見せ、最盛期には162,700トンに達しました。しかし、その後は紆余曲折を経ながら減少傾向が現れ、特に2015年以降急激な落ち込みが顕著となっています。2023年の生産量は32,067トンと約45年前の1978年時点と比較しても著しく低い数字となっています。
イラクのオクラ生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 32,067 |
-63.91% ↓
|
2022年 | 88,843 |
-4.87% ↓
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2021年 | 93,396 |
-0.34% ↓
|
2020年 | 93,719 |
57.9% ↑
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2019年 | 59,353 |
27.49% ↑
|
2018年 | 46,555 |
-20.31% ↓
|
2017年 | 58,422 |
26.81% ↑
|
2016年 | 46,071 |
86.26% ↑
|
2015年 | 24,735 |
-79.99% ↓
|
2014年 | 123,583 |
-13.22% ↓
|
2013年 | 142,409 |
9.09% ↑
|
2012年 | 130,547 |
-17.38% ↓
|
2011年 | 158,014 |
4.49% ↑
|
2010年 | 151,219 |
-1% ↓
|
2009年 | 152,751 |
15.71% ↑
|
2008年 | 132,015 |
-6.09% ↓
|
2007年 | 140,579 |
-19.21% ↓
|
2006年 | 174,000 |
27.94% ↑
|
2005年 | 136,000 |
-6.85% ↓
|
2004年 | 146,000 |
24.79% ↑
|
2003年 | 117,000 |
11.43% ↑
|
2002年 | 105,000 |
10.53% ↑
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2001年 | 95,000 |
11.76% ↑
|
2000年 | 85,000 |
-26.09% ↓
|
1999年 | 115,000 |
-26.28% ↓
|
1998年 | 156,000 |
4% ↑
|
1997年 | 150,000 |
-3.23% ↓
|
1996年 | 155,000 |
-3.13% ↓
|
1995年 | 160,000 |
1.27% ↑
|
1994年 | 158,000 |
-1.25% ↓
|
1993年 | 160,000 |
3.23% ↑
|
1992年 | 155,000 |
33.85% ↑
|
1991年 | 115,800 |
-24.85% ↓
|
1990年 | 154,100 |
3.08% ↑
|
1989年 | 149,500 |
11.32% ↑
|
1988年 | 134,300 |
-0.44% ↓
|
1987年 | 134,900 |
-1.39% ↓
|
1986年 | 136,800 |
-15.92% ↓
|
1985年 | 162,700 |
4.5% ↑
|
1984年 | 155,700 |
13.4% ↑
|
1983年 | 137,300 |
-0.44% ↓
|
1982年 | 137,900 |
26.51% ↑
|
1981年 | 109,000 |
27.78% ↑
|
1980年 | 85,300 |
2.28% ↑
|
1979年 | 83,400 |
-9.54% ↓
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1978年 | 92,200 | - |
イラクのオクラ生産量の推移を見ると、1978年から1980年代半ばまでは、安定した増加傾向が伺えます。特に、1984年から1985年にかけては生産量が155,700トンから162,700トンに増加し、当時の農業基盤が比較的安定していたことを示しています。この時期は、イラクが農業政策を重視し作物の増産を図った背景がうかがえます。しかし、1980年代後半以降は減少傾向が目立つようになり、とりわけ2000年代初頭、1999年から2001年にかけて生産量は一気に85,000トンまで低下しました。この背景にある主な要因として、湾岸戦争と国際制裁がイラク全土の農業生産力に大きな影響を与えたことが考えられます。
2003年以降、イラクは戦争後の再建期に入り、水資源管理の課題と気候変動への適応に注力してきました。この影響で一時的に生産量が改善し、2006年には174,000トンにまで増加しました。しかし、これは長続きするものではなく、特に2015年には過去最低の24,735トンを記録しました。この急激な減少は、水不足、インフラの老朽化、地域衝突による影響などが重なった結果とされています。また、この時期からイラク北部でのISISの活動が農村地帯にも影響を及ぼし、農地が荒廃する事態が頻発しました。
近年のデータを分析すると、2020年および2021年は一時的に90,000トンまで回復するものの、その後2023年には32,067トンまで再び落ち込みました。この主な理由は、イラク全土における降雨量の激減、高温による影響、および水資源の配分問題が挙げられます。特に、イラクにとって重要な水源であるユーフラテス川やティグリス川が周辺諸国との水利権問題により枯渇しつつあることが、農業生産へ悪影響を与えています。
また、オクラという作物自体は水を多く必要とし、高温乾燥地域では特に灌漑技術への依存度が高まる傾向があります。イラクの農業分野は灌漑や近代的な農法の導入が遅れているため、オクラの生産効率が十分に発揮されていない現状があります。この課題に対しては、ドローンやリモートセンシング技術を駆使したスマート農業の導入が提案されています。これにより、水の使用効率を高め、最適な作付け計画を立てることが可能になるでしょう。
さらに、イラクの農業再生には、周辺諸国との外交や地域協力が重要な鍵となります。例えば、トルコやシリアとの水利用協定の強化や、国際的な支援を受けたインフラ整備を進めることで水確保の安定化が期待できます。また、気候変動への対応として耐乾性品種の導入や温室栽培技術の活用も効果的な対策となり得ます。
紛争地域という地政学的背景は、イラクの農業発展に決して軽視できない影響を与えてきました。しかしながら、安定した食料自給率の向上は、国全体の経済的安定を保つためにも不可欠です。国際社会や民間セクターの協力を得て、技術革新や資金援助の枠組みを構築し、地域農業の再活性化を進めることが必要です。