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イラクの羊の毛生産量推移(1961年~2023年)

Food and Agriculture Organization(FAO)が発表した最新データによると、イラクの羊の毛生産量は2022年には13,204トンとなり、近年では減少傾向が続いています。ピークであった1990年の22,750トンを大幅に下回り、持続的な減少が見られることが特徴です。また、1970年代から1980年代にかけては成長基調を示していたものの、以降、政治的不安定や地域紛争、環境悪化などが影響し、生産量の変動が激しくなっています。

年度 生産量(トン) 増減率
2023年 14,214
7.65% ↑
2022年 13,204
-7.07% ↓
2021年 14,209
-6.1% ↓
2020年 15,131
-4.91% ↓
2019年 15,913
-6.12% ↓
2018年 16,950
0.58% ↑
2017年 16,853
2.53% ↑
2016年 16,436
4.52% ↑
2015年 15,726
-5.87% ↓
2014年 16,707
-1% ↓
2013年 16,876
-0.73% ↓
2012年 17,000 -
2011年 17,000
0.13% ↑
2010年 16,977
-0.13% ↓
2009年 17,000
1.49% ↑
2008年 16,750
0.42% ↑
2007年 16,680
0.48% ↑
2006年 16,600
0.61% ↑
2005年 16,500
0.3% ↑
2004年 16,450
0.3% ↑
2003年 16,400
-3.53% ↓
2002年 17,000
-12.82% ↓
2001年 19,500
23.42% ↑
2000年 15,800
16.61% ↑
1999年 13,550
8.4% ↑
1998年 12,500
4.17% ↑
1997年 12,000
40.6% ↑
1996年 8,535
-23.79% ↓
1995年 11,200
-25.33% ↓
1994年 15,000
-16.67% ↓
1993年 18,000
-12.2% ↓
1992年 20,500
1.23% ↑
1991年 20,250
-10.99% ↓
1990年 22,750
14.15% ↑
1989年 19,930
25.03% ↑
1988年 15,940
-1.73% ↓
1987年 16,220
-0.98% ↓
1986年 16,380
7.55% ↑
1985年 15,230
-1.3% ↓
1984年 15,430
-4.13% ↓
1983年 16,095
19.22% ↑
1982年 13,500
10.66% ↑
1981年 12,200
16.19% ↑
1980年 10,500
8.25% ↑
1979年 9,700
6.59% ↑
1978年 9,100
-47.4% ↓
1977年 17,300
-3.89% ↓
1976年 18,000
1.69% ↑
1975年 17,700
4.12% ↑
1974年 17,000
6.25% ↑
1973年 16,000
-5.88% ↓
1972年 17,000
2.34% ↑
1971年 16,611
4.8% ↑
1970年 15,850
1.75% ↑
1969年 15,577
18.01% ↑
1968年 13,200
3.94% ↑
1967年 12,700 -
1966年 12,700 -
1965年 12,700 -
1964年 12,700 -
1963年 12,700
-3.79% ↓
1962年 13,200
3.94% ↑
1961年 12,700 -

イラクの羊の毛生産量は、同国の農牧業における重要な指標となっており、地域社会の生計、輸出産業、伝統工芸に深く結びついています。1961年には12,700トンと比較的安定していましたが、1970年代後半から断続的に大きな変動が見られます。特に1978年に9,100トンまで急激に減少したことは、当時の社会的・環境的要因が強く影響したものと推測されます。続く1980年代は成長を記録したものの、1990年代以降、再び不安定な動きを見せ、近年は一貫して減少傾向にあります。

この生産量の変動には、地政学的要因が密接に関与しています。1980年代にはイラン・イラク戦争が約8年間にわたり発生し、農牧業を取り巻く環境は厳しい状況に陥りました。また、1990年代には湾岸戦争とそれに続く国際制裁が、牧草地の荒廃や家畜餌の不足といった深刻な問題を引き起こしました。21世紀に入ってからも度重なる紛争やテロ活動、さらには気候変動による干ばつの増加が、生産環境に負の影響を与えています。特に2020年以降のデータでは、15,000トンを下回り、さらに減少が加速しています。

また、環境的に見ると、気候変動が引き起こす干ばつや水資源の枯渇は牧草地維持に深刻な影響を及ぼしています。羊の主要な飼料である牧草が減少すれば、羊の生育環境が悪化し、羊毛の収穫量が低下するのは当然の結果と言えるでしょう。

近隣諸国との比較をすると、例えばトルコやイランといった国々は羊毛生産の大国であり、この背景には安定した農牧業基盤が関与しています。一方で、イラクは依然として政治的、社会的、環境的なリスクが高い状態にあり、生産量の安定的な成長に必要な条件が揃っていない現状があります。

今後、イラクが羊毛生産の回復を目指すためには、いくつかの具体的な対策が考えられます。第一に、農牧業の近代化を進め、家畜管理技術や効率的な餌供給の仕組みを導入することが重要です。第二に、国際的な気候変動対応策と連携し、水資源の管理や牧草地の回復を促進するプログラムを実施することが求められます。さらに、地域的な安全保障を強化し、安定した生産基盤を確立することが欠かせません。国際機関や周辺の安定した国々との協力は、これらの課題を解決する鍵となるでしょう。

結論として、イラクの羊の毛生産量の推移には国内外の多層的な要因が関与しており、短期的な改善は難しいと考えられます。しかし、長期的な視野に立ち、一歩ずつ安定と回復を目指す政策を実行することで、羊毛産業に再び活気を取り戻す可能性があります。この分野の重要性を認識し、継続的な支援と努力を行うことがイラク経済の多様化と地域社会の持続可能な発展にも寄与すると言えるでしょう。