国際連合食糧農業機関(FAO)の発表によると、イラクの桃・ネクタリン生産量は、1960年代の初期における年間1,500トンから1970年代後半に28,000トン以上へ大きく成長しました。しかし、1990年代以降に生産量は大きな減少傾向へと転じ、2007年以降、特に顕著な低下が見られました。現在に至るまで再び成長傾向が見られるものの、2023年の生産量は約3,258トンと、過去のピーク時と比較して低迷したままにあります。この動向には経済的・地政学的要因や気候条件の影響が大きく関わっています。
イラクの桃(モモ)・ネクタリン生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 3,258 |
-8.1% ↓
|
2022年 | 3,545 |
-4.97% ↓
|
2021年 | 3,730 |
2.33% ↑
|
2020年 | 3,645 |
6.86% ↑
|
2019年 | 3,411 |
522.45% ↑
|
2018年 | 548 |
15.13% ↑
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2017年 | 476 |
-8.29% ↓
|
2016年 | 519 |
-6.32% ↓
|
2015年 | 554 |
-76.83% ↓
|
2014年 | 2,391 |
-2.45% ↓
|
2013年 | 2,451 |
22.31% ↑
|
2012年 | 2,004 |
16.11% ↑
|
2011年 | 1,726 |
18.87% ↑
|
2010年 | 1,452 |
-4.85% ↓
|
2009年 | 1,526 |
-38.96% ↓
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2008年 | 2,500 |
-28.57% ↓
|
2007年 | 3,500 |
-65% ↓
|
2006年 | 10,000 |
-9.09% ↓
|
2005年 | 11,000 |
-8.33% ↓
|
2004年 | 12,000 |
-7.69% ↓
|
2003年 | 13,000 |
-13.33% ↓
|
2002年 | 15,000 |
-14.87% ↓
|
2001年 | 17,620 |
-11.9% ↓
|
2000年 | 20,000 |
-9.09% ↓
|
1999年 | 22,000 |
-8.33% ↓
|
1998年 | 24,000 |
2.13% ↑
|
1997年 | 23,500 |
2.17% ↑
|
1996年 | 23,000 |
2.22% ↑
|
1995年 | 22,500 |
2.27% ↑
|
1994年 | 22,000 |
7.47% ↑
|
1993年 | 20,470 |
2.35% ↑
|
1992年 | 20,000 |
-16.67% ↓
|
1991年 | 24,000 |
-17.24% ↓
|
1990年 | 29,000 |
2.84% ↑
|
1989年 | 28,200 |
0.71% ↑
|
1988年 | 28,000 |
1.19% ↑
|
1987年 | 27,670 |
-7.77% ↓
|
1986年 | 30,000 | - |
1985年 | 30,000 | - |
1984年 | 30,000 |
7.14% ↑
|
1983年 | 28,000 |
-3.45% ↓
|
1982年 | 29,000 |
3.57% ↑
|
1981年 | 28,000 | - |
1980年 | 28,000 |
0.72% ↑
|
1979年 | 27,800 |
0.47% ↑
|
1978年 | 27,670 |
25.77% ↑
|
1977年 | 22,000 |
22.22% ↑
|
1976年 | 18,000 |
20% ↑
|
1975年 | 15,000 |
25% ↑
|
1974年 | 12,000 |
33.33% ↑
|
1973年 | 9,000 |
50% ↑
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1972年 | 6,000 |
86.39% ↑
|
1971年 | 3,219 |
7.3% ↑
|
1970年 | 3,000 |
50% ↑
|
1969年 | 2,000 | - |
1968年 | 2,000 | - |
1967年 | 2,000 |
17.65% ↑
|
1966年 | 1,700 | - |
1965年 | 1,700 | - |
1964年 | 1,700 |
13.33% ↑
|
1963年 | 1,500 | - |
1962年 | 1,500 | - |
1961年 | 1,500 | - |
イラクの桃およびネクタリンの生産量は、1960年代から1980年代半ばにかけて安定的な成長を遂げ、特に1970年代中盤では15,000トンを超える増加が見られました。政府による農業政策の支援や灌漑技術の発展が、この時代の生産の底上げに寄与したと考えられます。しかし、1980年代後半から1990年代にかけてのイラン・イラク戦争や湾岸戦争による社会的・経済的混乱が、農業の停滞を招いた要因の一つとして挙げられます。この頃からピーク時の生産量である30,000トン近くに達することはなくなり、1991年以降は減少の一途をたどりました。
特に顕著だったのは2007年以降の生産量の急落で、これは同年の300万トン以上から1,526トンにまで急下降しました。この時期の急激な縮小は、イラク戦争やその後の治安悪化、農村部への十分なインフラ整備の遅れに直接的な影響を受けたと考えられます。同時期には過剰な灌漑による土壌塩害や、長期にわたる干ばつが農地の質を劣化させたことも要因に挙げられるでしょう。さらに、地球温暖化の影響が農産物への地域気候の適応能力を超える速度で進行し、持続可能な農業が困難になったとも言われています。
しかしながら、2017年以降に小幅ながらも増加が見られる点は注目すべき点です。例えば、2019年には3,411トン、2020年には3,645トンと回復の兆しを示しました。この回復は、政府や非政府組織による農業復興プロジェクトや、農業における持続可能な技術の導入が奏功した結果と考えられます。同時に国際機関や周辺諸国との協力による市場作物の再生産支援が進められたため、一時的ではあるものの収量の増加が確認されました。ただし、こうした上昇は長期的安定を伴うものではなく、2023年には再び3,258トンに減少しています。
イラクにおける桃およびネクタリンの生産の課題としては、戦争や政治的不安定さによる農業従事者の減少や、農地の荒廃が大きな要因を占めています。また、気候変動が生産可能地域を制約し、水資源の競争を激化させている点も看過できません。他国と比較してみると、例えば中国は2019年に桃とネクタリンの生産量が1,500万トンを超えており、イラクの生産規模は世界的視点から見てもごく限定的であると言えます。これに対し、アフガニスタンのような同様に紛争で打撃を受けた国も、近年では国際的支援を通じて農業振興策を成功させており、イラクにおいても地域的課題をクリアする余地は十二分に存在します。
将来的な課題としては、土壌塩害の対策と効率的な水資源管理が挙げられます。具体的には、灌漑インフラの近代化や適切な輪作システムによる土壌の保全・改良が重要です。また、国際的な技術協力を通じた乾燥帯に適した果樹品種の導入や、市場拡大を目的とした品質向上のための研究開発支援が求められるでしょう。さらに、気候リスクへの対応として、気候変動に耐えうる種苗の開発や農家への支援を強化するとともに、農産物流通のインフラを抜本的に改善することで、国内市場および輸出市場での競争力を高める必要があります。
イラクの桃とネクタリンの生産は、熾烈な困難を乗り越え、幾度となく希望を垣間見せてきました。こうした産業の持続可能性を支えるために、国や地域だけでなく国際社会が一体となり、長期的な農業復興計画を進めることが求められています。これにより、イラク農業全体への復興の足掛かりとなる可能性が広がるでしょう。