国際連合食糧農業機関(FAO)が2024年7月に発表した最新データによると、モルドバ共和国の牛乳生産量は、1992年の1,121,550トンをピークに、2023年には231,905トンまで大きく減少しました。1990年代初頭から2020年代にかけては、おおむね減少傾向をたどっており、一部の年で局所的な回復が見られるものの全体の傾向に変化はありません。特に2020年以降の数値では顕著な低迷が続いていますが、2023年にはやや回復の兆しも見られます。このデータは同国の農業政策や地政学的背景による影響を含む、長期的な産業課題を如実に示しています。
モルドバ共和国の牛乳生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 231,905 |
12.3% ↑
|
2022年 | 206,500 |
-8.18% ↓
|
2021年 | 224,900 |
-10.93% ↓
|
2020年 | 252,500 |
-14.7% ↓
|
2019年 | 296,005 |
-11.32% ↓
|
2018年 | 333,789 |
-16.59% ↓
|
2017年 | 400,157 |
-4.7% ↓
|
2016年 | 419,873 |
-4.43% ↓
|
2015年 | 439,354 |
-1.48% ↓
|
2014年 | 445,936 |
0.24% ↑
|
2013年 | 444,867 |
-2.12% ↓
|
2012年 | 454,513 |
-7.53% ↓
|
2011年 | 491,511 |
-11.3% ↓
|
2010年 | 554,136 |
10.13% ↑
|
2009年 | 503,177 |
5.34% ↑
|
2008年 | 477,662 |
-11.36% ↓
|
2007年 | 538,852 |
-4.32% ↓
|
2006年 | 563,167 |
-5.46% ↓
|
2005年 | 595,682 |
2.65% ↑
|
2004年 | 580,328 |
6.01% ↑
|
2003年 | 547,416 |
-2.36% ↓
|
2002年 | 560,641 |
3.49% ↑
|
2001年 | 541,711 |
1.01% ↑
|
2000年 | 536,302 |
-2.24% ↓
|
1999年 | 548,565 |
-3.47% ↓
|
1998年 | 568,286 |
-1.57% ↓
|
1997年 | 577,374 |
-12.54% ↓
|
1996年 | 660,155 |
-10.75% ↓
|
1995年 | 739,645 |
-6.98% ↓
|
1994年 | 795,130 |
-7.29% ↓
|
1993年 | 857,688 |
-23.53% ↓
|
1992年 | 1,121,550 | - |
モルドバ共和国は、農業が経済の中心を占める国であり、牛乳生産もその重要な分野の一つです。1992年には、1,120,000トンを超える生産量を誇っていました。この時期は、ソビエト連邦からの独立の直後であり、農業生産基盤がまだ比較的安定していたと考えられます。しかし、以後のデータは急激な減少を反映しています。たとえば、1992年に比べて2023年の生産量はおよそ20%に相当する規模にまで低下しています。
この減少の背景にはさまざまな要因が考えられます。第一に、農地所有や管理が大きく転換されたことに起因する経済構造の変化があります。独立後、モルドバでは農業生産の集団化が解除され、土地が個人に分割されていきました。この結果、小規模農家が増加し、大規模で効率的な酪農経営が難しくなったとされています。また、1990年代以降モルドバ経済全体が低迷状態に陥っていたことも、農業セクターに負の影響を与えたと推察できます。
次に、地政学的背景も重要な要因です。モルドバはしばしば周辺諸国との緊張や、とりわけここ数十年間でのトランスニストリア紛争などの地域情勢の影響を受けてきました。これに加え、ロシアとの経済的つながりが制約される局面も多く、同国の農産業輸出における市場機会が大幅に減少したと考えられます。牛乳を含む農産物の主要市場であるロシア圏への輸出制限が、生産意欲を鈍らせたことは否めません。
さらに、近年の気候変動や干ばつも大きなリスク要因として挙げられます。モルドバは自然災害や不適切なインフラにより、牛乳生産を支える牧草地や水資源の安定供給が妨げられるケースが増えています。特に2020年代に生産量が著しく落ち込んでいるのは、このような環境要因や新型コロナウイルス感染症の影響が複合していることが一因と考えられます。
なお、2023年のデータでは、231,905トンと2022年から小幅ながら回復がみられており、これは同期間中の政府の農業支援政策や一部地域での天候改善に起因している可能性があります。ただし、持続可能な回復を実現するためには多くの課題が残されています。まずは酪農技術の革新やインフラの改良を進める必要があります。具体的には、飼料管理や家畜の健康維持に関する技術的支援、さらに効率的な水管理システムの導入が求められます。
今後の政策提案としては、地域間協力の強化も有効です。欧州連合(EU)などの国際機関と協働し、技術移転や資金援助を受けることで、酪農セクター全体の改革を進めることが考えられます。それに加えて、地域に根付いた品質重視の生産体制を確立し、国際市場における競争力向上を目指すべきです。また、気候変動対策として地下水補給インフラの充実や耐干ばつ性牧草の導入なども検討されるべきです。
結論として、モルドバ共和国の牛乳生産量の推移は、同国の農業および社会経済の変動を象徴する重要な指標です。特に気候変動、地政学的リスク、経済的困難といった複数の要因が長期的な下落の要因となっています。しかし、ここで得られた知見をもとに適切な政策を講じれば、持続可能かつ競争力のある酪農業を再構築することが可能です。モルドバ政府と国際社会が連携してこれらの取り組みを進めることが、地域農業の回復と発展に不可欠だと考えられます。