ロシア連邦の羊肉生産量推移（1961年～2023年）

国際連合食糧農業機関（FAO）が2024年7月に更新したデータによると、ロシア連邦の羊肉生産量は1992年から長期的な減少傾向を示したものの、2000年代半ば以降は回復基調に転じました。2018年には205,079トンとピークに達しましたが、その後再び減少し、2023年には189,380トンとなっています。初期値と比較すると、生産量はおおよそ60％減少している状況です。

ロシア連邦の羊肉生産量の推移は、同国の社会経済的変化や農業政策を反映しています。1992年の生産量は311,838トンに達していましたが、その後、1990年代を通じて急激に減少しました。この時期の背景として、ソビエト連邦の崩壊後の経済的混乱や、農業セクターの急速な民営化が挙げられます。伝統的な集団農場制度が解体され、多くの地域で施設や技術の維持が困難になりました。

2000年代前半の生産量は大きな低迷が続きましたが、ほぼ2003年以降、緩やかな増加トレンドが見られるようになります。この回復の背景には、国家主導での農業復興プロジェクトや輸出促進政策が貢献しています。例えば、ロシアは羊肉の国内消費だけでなく、中央アジアや中東諸国への輸出を視野に入れて産業を整備しました。また、羊肉はイスラム圏で需要が高いことから、国内の特定地域での生産が優遇されてきました。

しかし、2019年以降、羊肉生産量は再び低下傾向にあります。この主因として、経済制裁や輸出市場の不安定性、新型コロナウイルス感染症の影響による物流障害が挙げられます。また、2022年以降はウクライナ情勢の影響で、国際的な貿易環境が更に悪化しており、動物飼育用の飼料のコスト増加や、輸入設備資材の不足が生産効率を妨げていると考えられます。

ロシアは広大な牧草地を保有し、羊毛や羊肉の生産には自然的条件が揃っていますが、区域による不均衡も課題です。特に、北方地域やシベリアでは自然条件が厳しく、一方、南部地域では生産が集中しています。この偏りは国内での供給網の確保や、政府の生産奨励策による地域間格差を縮めることが重要であることを示唆しています。また、ロシアのような寒冷地では牧草地の質が重要ですが、侵食や気候変動による肥沃地の減少が羊飼育に影響を及ぼしているとも考えられます。

未来に向けては、生産効率を改善し、国内需要と輸出需要の両方に応えるための具体的な対策が求められます。例えば、技術革新による生産性向上や、羊肉需要が高まっているイスラム諸国との協力深化が効果的です。同時に、持続可能な牧草地管理を通じて環境負荷を抑えつつ、生産コストを低減する工夫が必要です。また、国際情勢の悪化が続く中で、輸入依存度を下げるため、国内での飼料生産を強化し、農業基盤を自立型にすることが求められます。

さらに、地域間格差の是正に向け、北部地域への補助金や技術支援の充実も有効な手段です。同時に、中央アジア諸国や中国など、ロシアと地理的に近い市場へ輸出ルートを安定させることで、新たな収益を確保できる可能性があります。

結論として、ロシア連邦の羊肉生産量はいくつかの課題に直面していますが、自然条件を活かした持続可能な農業体制の構築や国際協力を強化することで、国内外の需要に応えるポテンシャルを秘めています。そのためには農業分野への戦略的な投資と、リスク管理を前提とした政策の一貫性が求められます。