国際連合食糧農業機関(FAO)の最新データによると、ネパールの柿生産量は長い低迷期を経て着実に増加傾向を示しています。1990年代は年間300~500トンの範囲で推移していましたが、2000年代後半から漸増し、2011年以降は飛躍的な伸びを示しました。2013年には一時的な減少も見られたものの、2023年には3,542トンに達し、これまでのピークを迎えています。ただし、2020年には急激な減少が見られ、隣国や地政学的な要因、新型コロナウイルス感染症の影響などが間接的な要因として考えられます。
ネパールの柿生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 3,542 |
21.34% ↑
|
2022年 | 2,919 |
-1.85% ↓
|
2021年 | 2,974 |
15.54% ↑
|
2020年 | 2,574 |
-16.56% ↓
|
2019年 | 3,085 |
2.39% ↑
|
2018年 | 3,013 |
6.73% ↑
|
2017年 | 2,823 |
-0.81% ↓
|
2016年 | 2,846 |
18.52% ↑
|
2015年 | 2,401 |
25.18% ↑
|
2014年 | 1,918 |
-0.92% ↓
|
2013年 | 1,936 |
-31% ↓
|
2012年 | 2,806 |
74.39% ↑
|
2011年 | 1,609 |
133.19% ↑
|
2010年 | 690 |
30.93% ↑
|
2009年 | 527 |
3.54% ↑
|
2008年 | 509 |
4.09% ↑
|
2007年 | 489 |
2.73% ↑
|
2006年 | 476 |
7.45% ↑
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2005年 | 443 |
4.73% ↑
|
2004年 | 423 |
1.93% ↑
|
2003年 | 415 |
1.22% ↑
|
2002年 | 410 |
5.13% ↑
|
2001年 | 390 |
8.33% ↑
|
2000年 | 360 |
-1.37% ↓
|
1999年 | 365 |
7.35% ↑
|
1998年 | 340 |
-2.86% ↓
|
1997年 | 350 |
18.64% ↑
|
1996年 | 295 |
-41% ↓
|
1995年 | 500 |
7.53% ↑
|
1994年 | 465 |
10.71% ↑
|
1993年 | 420 |
-5.91% ↓
|
1992年 | 446 |
11.59% ↑
|
1991年 | 400 |
8.11% ↑
|
1990年 | 370 | - |
FAOのデータをもとに分析すると、ネパールの柿生産は長年にわたり漸進的な増加傾向を示しています。1990年代から2000年代前半にかけては、年間生産量が300トン台から500トン程度の幅でほぼ横ばいとなっており、この時期は技術革新や農業への投資が限定的だった背景が推測されます。しかし2000年代後半以降、生産基盤の整備と種苗の質の向上により、生産量は徐々に増加していきました。
特に注目すべきは2011年以降の急激な伸びです。2011年には前年度の690トンから約2.3倍の1,609トンへ、2012年にはさらに2,806トンへと飛躍しました。この急激な生産量の増加は、政府が果実栽培を振興する政策を打ち出したこと、適切な灌漑技術の導入が進んだこと、そして輸出を視野に入れた農業体制の強化が主な要因ではないかと考えられます。また、人口増加を背景とした国内での果実需要の高まりも、生産量の押し上げに貢献した可能性があります。
一方で、2020年に2,574トンにまで減少したことにも注目すべきです。この減少は新型コロナウイルス感染症の拡大による混乱が大きく影響していると考えられます。パンデミックの影響で農作業員の移動が制限され、輸出や流通面にも障害が生じたことが、生産低下の一因として考えられます。しかしその後、2023年には3,542トンと過去最高を記録しており、農業セクターの回復力が感じられます。
他国と比較すると、中国や日本、韓国などでは柿の生産量が数十万トン規模に達しており、ネパールの規模は依然として小さいものの、重要なポイントはその成長率です。ここ10年間の年平均成長率は約10%に達し、果実栽培の成長産業としての可能性を示しています。
今後の課題として、気候変動による影響や収穫後の流通インフラの整備不足が挙げられます。ネパールは山岳地帯が多く、輸送コストが高いため、国内市場や国外輸出をさらに拡大するには、現代的な流通体制の構築が必要です。また、農家の所得向上を目指すため、柿だけでなく関連加工品(ドライフルーツや柿ゼリーなど)の生産価値を付加することも重要となるでしょう。
さらに、地政学的背景を考慮すると、ネパールはインドと中国という経済大国に挟まれた位置にあります。この地理的優位性を活かすためにも、国境を越えた果実輸出協力体制の整備が求められます。例えば中国やインドでの消費ニーズに合致する品種の育種や輸出に適したパッケージング技術の導入が効果的と考えられます。
結論として、ネパールの柿生産はこれまで順調な伸びを見せていますが、その持続的発展のためには、生産基盤の気候変動への適応力を強化し、収穫から販売までの流通網を効率化する取り組みが欠かせません。国際機関や隣国と協力し、技術援助の拡充や市場開拓を進めることで、ネパールはこの産業をさらに成長させることが期待できます。これが地域経済の発展にもつながり、農業従事者の生活水準向上にも寄与するでしょう。