国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新データによると、ネパールのパイナップル生産量は1990年から2023年にかけて変動の激しい推移を見せています。生産量は1995年に14,500トンと初めて高い水準に達しましたが、その後1996年に6,900トンまで大幅に減少。その後一定の横ばいを経て2012年に17,040トンでピークを記録しました。しかし、その後再び減少、増加を繰り返し、2023年には9,741トンと、近年の中でも比較的低い水準となっています。この動向には地政学的背景、災害、農家の技術や市場需要に関連した要因が絡んでいると考えられます。
ネパールのパイナップル生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 9,741 |
-36.44% ↓
|
2022年 | 15,324 |
9.68% ↑
|
2021年 | 13,971 |
-3.31% ↓
|
2020年 | 14,450 |
4.36% ↑
|
2019年 | 13,846 |
3.41% ↑
|
2018年 | 13,389 |
16.02% ↑
|
2017年 | 11,540 |
-13.18% ↓
|
2016年 | 13,291 |
-1.63% ↓
|
2015年 | 13,512 |
-8.73% ↓
|
2014年 | 14,804 |
-8.83% ↓
|
2013年 | 16,238 |
-4.71% ↓
|
2012年 | 17,040 |
69.17% ↑
|
2011年 | 10,073 | - |
2010年 | 10,073 |
0.78% ↑
|
2009年 | 9,995 |
0.15% ↑
|
2008年 | 9,980 | - |
2007年 | 9,980 | - |
2006年 | 9,980 | - |
2005年 | 9,980 | - |
2004年 | 9,980 |
-0.2% ↓
|
2003年 | 10,000 |
11.11% ↑
|
2002年 | 9,000 |
-3.23% ↓
|
2001年 | 9,300 |
9.41% ↑
|
2000年 | 8,500 |
-2.3% ↓
|
1999年 | 8,700 |
-4.55% ↓
|
1998年 | 9,114 |
12.52% ↑
|
1997年 | 8,100 |
17.39% ↑
|
1996年 | 6,900 |
-52.41% ↓
|
1995年 | 14,500 |
20.83% ↑
|
1994年 | 12,000 |
22.82% ↑
|
1993年 | 9,770 |
1.77% ↑
|
1992年 | 9,600 |
0.52% ↑
|
1991年 | 9,550 |
8.52% ↑
|
1990年 | 8,800 | - |
ネパールのパイナップル生産量は、過去30年余りの間に大きな変動を経験しています。1990年代初頭では、年間約8,800トンに過ぎなかった生産量は、1994年から1995年にかけて著しく増加し14,500トンに達しました。この時期には農業支援政策や国内需要の増大が関与した可能性が考えられます。しかし1996年、内戦に由来するとみられる影響で生産量が6,900トンに急減しており、地政学的リスクが農業生産に与える脆弱性を示しています。このような不安定な状況は、農業インフラの未整備や生産地が十分に保護されていないこととも結びついています。
2000年代に入ると、ネパールのパイナップル生産量は大きな変動のない横ばい傾向を示しました。これは国内の集約的な農業技術や市場開拓の停滞が理由とされ、一部では農地の縮小や気候変動への対応の遅れも影響したと考えられます。一方、2012年には17,040トンという異例のピークを迎えました。これは、国内での農業支援事業やパイナップルの輸出需要の増加により、一時的に生産が活性化したことが要因とみられます。
その後の生産量は、2013年から減少傾向に転じ、再度安定を見せながらも長期には回復しきれていません。特に2017年以降の弱まりは気候変動の影響や農家の支援不足、コロナ禍による市場の停滞が影響したと考えられ、農村部の生産体制や流通網に課題があることが浮き彫りとなりました。さらに、2023年には9,741トンと再び低迷し、近年の脆弱な基盤ゆえに生産が拡大できていない可能性が読み取れます。
今後の課題としては、まず農家への技術支援が挙げられます。先端的な灌漑技術や気候変動に適応した品種育成、肥料の活用方法の普及が必要です。特に豪雨や干ばつに耐性を持つパイナップル品種の導入は、安定的な生産を可能にする基盤となるでしょう。また、農業インフラの整備も不可欠です。地元市場だけでなく、輸出向けの生産体制を構築することで競争力を高めるできるでしょう。近隣諸国のインドや中国では果物需要が拡大しており、これを輸出機会として捉えることができます。
さらに、気候変動に対する長期的な政策も必要です。パイナップル生産の中心地となる地域が気象条件に強く依存しており、極端な天候により生産性が大きく揺らいでいます。そのため、気候適応型農業政策を強化することで、収穫量の安定に寄与するでしょう。
他方で、地政学的リスクを軽減する取り組みも重要です。内戦や紛争などの影響が再び生産に及ばないよう、持続可能な地域協力や農村地域の経済的機会の増大を進める必要があります。これには国際的な支援の活用とともに、政府主導の包括的な農業政策が欠かせません。
結論として、ネパールのパイナップル生産は、現在も様々な外的要因に左右されていますが、技術革新と政策支援を組み合わせることで、今後の安定と拡大が可能になると考えられます。国際機関や隣国との協力を深めつつ、農業経済を強固にするための具体的な改革が必要です。パイナップルは国内需要と輸出の双方で高い可能性を秘めており、この果物の生産を通じてネパールの農業セクター全体をより持続可能な形で発展させていくべきです。