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ネパールの羊の毛生産量推移(1961年~2023年)

国際連合食糧農業機関(FAO)が2024年7月に更新したデータによると、ネパールの羊の毛生産量は1961年の360トンから1980年代半ばまで持続的に増加し、1989年の774トンがピークとなりました。しかしそれ以降は停滞と減少が続き、2022年には567トンにまで減少しています。これはピーク時の1989年に比べて約27%の減少で、近年の減少傾向が顕著です。この現象は、農業・牧畜業における転換と環境問題、さらには地政学的リスクが複雑に絡み合っている可能性があります。

年度 生産量(トン) 増減率
2023年 381
-32.8% ↓
2022年 567
-2.91% ↓
2021年 584
-1.35% ↓
2020年 592
0.51% ↑
2019年 589
-0.84% ↓
2018年 594 -
2017年 594
1.02% ↑
2016年 588
0.22% ↑
2015年 587
-0.22% ↓
2014年 588
0.17% ↑
2013年 587 -
2012年 587
0.17% ↑
2011年 586
1.21% ↑
2010年 579
-0.86% ↓
2009年 584
-0.17% ↓
2008年 585
-0.51% ↓
2007年 588
-0.17% ↓
2006年 589
-0.17% ↓
2005年 590
-1.34% ↓
2004年 598
-0.5% ↓
2003年 601
-1.31% ↓
2002年 609
-0.81% ↓
2001年 614
-0.16% ↓
2000年 615
-0.16% ↓
1999年 616
-1.12% ↓
1998年 623
-0.16% ↓
1997年 624
0.97% ↑
1996年 618
-1.12% ↓
1995年 625
0.64% ↑
1994年 621
0.32% ↑
1993年 619
-0.16% ↓
1992年 620
-19.17% ↓
1991年 767
1.32% ↑
1990年 757
-2.2% ↓
1989年 774
4.03% ↑
1988年 744
3.91% ↑
1987年 716
3.62% ↑
1986年 691
3.13% ↑
1985年 670
1.52% ↑
1984年 660
1.54% ↑
1983年 650
1.56% ↑
1982年 640
1.59% ↑
1981年 630
1.61% ↑
1980年 620
1.64% ↑
1979年 610
1.67% ↑
1978年 600
1.69% ↑
1977年 590
1.72% ↑
1976年 580
1.75% ↑
1975年 570
1.79% ↑
1974年 560
1.82% ↑
1973年 550
1.85% ↑
1972年 540
1.89% ↑
1971年 530
1.92% ↑
1970年 520
1.96% ↑
1969年 510
2% ↑
1968年 500
2.04% ↑
1967年 490
2.08% ↑
1966年 480
2.13% ↑
1965年 470
2.17% ↑
1964年 460
2.22% ↑
1963年 450
2.27% ↑
1962年 440
22.22% ↑
1961年 360 -

ネパールの羊の毛生産量の推移を見ていくと、1961年から1980年代半ばまでは毎年順調に増加し、1989年には774トンという最高値を記録しました。これは、当時のネパールにおいて羊毛が衣類産業や国際市場での重要な輸出品として成長していたことを示しています。しかし1989年以降、減少傾向が見られるようになり、1990年代には特に顕著な縮小が確認されました。1992年には620トンまで急激に減少しています。この背景には、国内の経済情勢や気候変動の影響、産業構造の変化があると考えられます。

特に1990年代においては、国全体での内紛や社会構造の変化が牧畜業にも多大な影響を与えました。またその後も、2000年代にかけて環境問題の悪化、例えば牧草地の減少や過剰放牧による土地の劣化が羊毛生産量の低迷をさらに助長しました。2010年代以降は600トン前後で推移していますが、2022年には567トンと再び低下し、減少幅が大きくなっています。この点では、新型コロナウイルス感染症の流行による経済活動の停滞や国際市場の需要低迷も影響していると考えられます。

羊の毛生産量の継続的な減少は、ネパールの農牧業の持続性に課題を浮き彫りにしています。特に農村部に基盤を置くこの産業が衰退すれば、地域住民の経済的な基盤が弱化し、さらなる移住や都市化の加速を促す可能性があります。現代の競争環境においては、単に羊の飼育頭数を増やすだけでなく、効率的な飼育方法や牧草地管理、さらには市場価値の高い高品質羊毛の生産を目指す必要があるでしょう。

また地政学的な側面では、ネパールが位置するヒマラヤ山脈周辺の国々、特に中国やインドとの協力関係が注目されます。これらの地域では伝統的な繊維産業が発展している一方で、国際市場における生産コストや輸送条件の競争が激化しています。国や地域を越えたノウハウの共有や協力体制が、ネパールの羊毛産業を再活性化する鍵となるかもしれません。

将来的には、環境と経済の両面での持続可能性を追求する必要があります。植林や土地保全を行い、牧草地の質を改善するだけでなく、テクノロジーを用いた効率的なフェルトや製品への加工技術開発が有効です。また、地域や国際レベルの協力体制を強化し、持続可能な生産と市場開拓を推進する政策を構築することが重要です。

結論として、このデータはネパールの羊毛産業が過去の栄光から現在の課題へと転換している現状を示しています。国際社会や近隣諸国との協力により、産業を復活させる意欲的な政策が求められます。同時に、災害や疫病のリスクに備えた柔軟な対応力を備えることも持続可能な未来の鍵となるでしょう。