国際連合食糧農業機関(FAO)が公開した最新データによると、ネパールの牛飼養数は1961年に5,800,000頭だったのに対し、2022年には7,413,197頭となっています。過去60年を通じて緩やかな増加傾向が見られるものの、いくつかの年で停滞や減少も確認され、特に1980年代後半から1990年代初頭にかけての減少傾向が顕著です。近年では2020年にピークの7,458,885頭に達しましたが、その後はわずかに減少しています。このデータはネパールの農業要素における変容や、地域特有の課題を反映していると考えられます。
ネパールの牛飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(頭) |
---|---|
2022年 | 7,413,197 |
2021年 | 7,466,841 |
2020年 | 7,458,885 |
2019年 | 7,385,035 |
2018年 | 7,376,306 |
2017年 | 7,347,487 |
2016年 | 7,302,808 |
2015年 | 7,241,743 |
2014年 | 7,243,916 |
2013年 | 7,274,022 |
2012年 | 7,244,944 |
2011年 | 7,226,050 |
2010年 | 7,199,260 |
2009年 | 7,175,198 |
2008年 | 7,090,714 |
2007年 | 7,044,279 |
2006年 | 7,002,916 |
2005年 | 6,994,463 |
2004年 | 6,966,436 |
2003年 | 6,953,584 |
2002年 | 6,978,690 |
2001年 | 6,982,664 |
2000年 | 7,023,166 |
1999年 | 7,030,698 |
1998年 | 7,048,660 |
1997年 | 7,024,780 |
1996年 | 7,008,420 |
1995年 | 6,837,913 |
1994年 | 6,546,177 |
1993年 | 6,237,231 |
1992年 | 6,245,682 |
1991年 | 6,254,819 |
1990年 | 6,280,852 |
1989年 | 6,284,918 |
1988年 | 6,343,108 |
1987年 | 6,362,930 |
1986年 | 6,371,743 |
1985年 | 6,356,994 |
1984年 | 6,550,000 |
1983年 | 6,750,000 |
1982年 | 6,950,000 |
1981年 | 6,930,000 |
1980年 | 6,900,000 |
1979年 | 6,850,000 |
1978年 | 6,770,000 |
1977年 | 6,703,000 |
1976年 | 6,650,000 |
1975年 | 6,550,000 |
1974年 | 6,500,000 |
1973年 | 6,450,000 |
1972年 | 6,400,000 |
1971年 | 6,350,000 |
1970年 | 6,300,000 |
1969年 | 6,226,000 |
1968年 | 6,105,000 |
1967年 | 5,985,000 |
1966年 | 5,860,000 |
1965年 | 5,850,000 |
1964年 | 5,840,000 |
1963年 | 5,830,000 |
1962年 | 5,826,000 |
1961年 | 5,800,000 |
ネパールの牛飼養数は、国の農業構造や社会経済環境、さらには気候変動や政治的状況の影響を受けて推移してきました。1961年から2022年にかけて飼養数は約28%増加しましたが、その増加が一貫して安定していたわけではありません。特に1980年代半ばから1990年代初頭にかけては、減少傾向が続き、この時期の農業および社会の問題が反映されています。この時期には、地政学的リスクや社会的不安、インフラ整備の停滞が影響したと考えられます。
こうした長期データは、動物飼養数が単にその地域の畜産業の規模を示すだけでなく、農村経済の健全性や地域社会の安定度、さらには食糧安全保障といった広範な課題の指標となることを示しています。特に、ネパールのような農業国では、牛の存在は耕作のための力、生乳や乳製品の提供、さらに家畜糞の燃料や肥料としての活用など、多様な役割を果たしてきました。
2000年代には、やや安定した増加傾向がみられましたが、それでもデータには毎年の微減と微増が混在しています。2020年に過去最高の7,458,885頭に達しましたが、その後は2022年に若干の減少が見られる点は注目すべきです。このわずかな減少は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による長期間の社会経済への影響、および輸送の制限や労働力の不足が要因である可能性があります。
一方で、ネパールが位置するヒマラヤ地域は、気候変動の影響を受けやすい場所です。干ばつ、洪水、土地の荒廃などの気候リスクが農業生産に直接影響し、それが家畜の飼養にも波及しています。特に干ばつや栄養価の低下した飼料の供給不足は、飼養数を維持することを困難にしてきました。
また、地政学的背景も無視できません。ネパールはモンスーン頼りの農業が主体であり、土地の生産性が年々厳しくなる状況に直面しています。さらに、近年の人口増加により農地の分割が進み、家畜飼養に適した牧草地が減少しています。この問題は日本やインド、中国など他国にも共通しており、モンスーン地域でも農業慣行の改革が重要とされてきました。
今後、ネパールにおける牛飼養の持続可能性を高めるには、以下の施策が求められます。第一に、気候変動に対応した耐干ばつ性の牧草の導入や、輸入飼料の安定供給体制の強化が必要です。第二に、農村部でのインフラ整備や労働力確保のための政策を推進することが重要です。特に労働移民により人手不足が深刻化している点も考慮すべきでしょう。第三に、家畜から得られる副産物(乳や肉、糞肥料など)の市場構築と価値向上を促進する施策が有効です。そして、国際的には、インドや中国、さらには国際NGOとの協力を拡大し、サプライチェーン全体の弱点を強化する枠組みが求められます。
こうしたデータを活用して現状を正確に把握し、適切な政策介入を行うことが、ネパールの家畜飼養産業の持続可能な発展に寄与するでしょう。将来的には、牛飼養ステータスが単に数量の問題にとどまらず、地域社会全体の生活の質向上や経済的安定性を示す重要な指標となる可能性を秘めています。