カタールの大麦生産量は1971年の147トンから1990年代中頃にかけて急激な増加を見せ、一時的に4,000トンを超える水準に達しましたが、2000年代からは変動を伴いながら減少傾向に転じ、特に2008年以降急激に下がり始めました。2023年では193トンと、ピーク時の数値と比較すると著しい減少が観測されています。この推移は環境条件や農業技術、政策、ならびに地政学的要因の影響を強く受けていると考えられます。
カタールの大麦生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 193 |
148.55% ↑
|
2022年 | 78 |
-32.48% ↓
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2021年 | 115 |
-56.77% ↓
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2020年 | 266 |
16.36% ↑
|
2019年 | 229 |
-3.54% ↓
|
2018年 | 237 |
-59.97% ↓
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2017年 | 592 |
-11.89% ↓
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2016年 | 672 |
-23.29% ↓
|
2015年 | 876 |
24.07% ↑
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2014年 | 706 |
17.47% ↑
|
2013年 | 601 |
6% ↑
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2012年 | 567 |
5.98% ↑
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2011年 | 535 |
-24.54% ↓
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2010年 | 709 |
-3.27% ↓
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2009年 | 733 |
-51.13% ↓
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2008年 | 1,500 |
-50% ↓
|
2007年 | 3,000 |
-38.65% ↓
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2006年 | 4,890 | - |
2005年 | 4,890 |
58.66% ↑
|
2004年 | 3,082 |
-39.65% ↓
|
2003年 | 5,107 |
31.45% ↑
|
2002年 | 3,885 |
-0.13% ↓
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2001年 | 3,890 |
-6.08% ↓
|
2000年 | 4,142 |
-10.15% ↓
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1999年 | 4,610 |
-2.99% ↓
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1998年 | 4,752 |
0.83% ↑
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1997年 | 4,713 |
11.08% ↑
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1996年 | 4,243 |
14.09% ↑
|
1995年 | 3,719 |
7.42% ↑
|
1994年 | 3,462 |
-30.44% ↓
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1993年 | 4,977 |
45.7% ↑
|
1992年 | 3,416 |
1.27% ↑
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1991年 | 3,373 |
41.13% ↑
|
1990年 | 2,390 |
-22.58% ↓
|
1989年 | 3,087 |
0.85% ↑
|
1988年 | 3,061 |
8.78% ↑
|
1987年 | 2,814 |
52.36% ↑
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1986年 | 1,847 |
32.02% ↑
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1985年 | 1,399 |
46.65% ↑
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1984年 | 954 |
33.8% ↑
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1983年 | 713 |
-35.94% ↓
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1982年 | 1,113 |
83.97% ↑
|
1981年 | 605 |
17.93% ↑
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1980年 | 513 |
25.12% ↑
|
1979年 | 410 |
13.89% ↑
|
1978年 | 360 |
13.92% ↑
|
1977年 | 316 |
-24.4% ↓
|
1976年 | 418 |
70.61% ↑
|
1975年 | 245 |
13.43% ↑
|
1974年 | 216 |
13.68% ↑
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1973年 | 190 |
-6.4% ↓
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1972年 | 203 |
38.1% ↑
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1971年 | 147 | - |
カタールの大麦生産量の長期的な推移には、いくつかの重要な背景と要因が絡んでいます。1971年から1980年代前半までは緩やかな増加が見られましたが、1980年代中盤以降、急激な生産量の拡大が起こりました。この成長は、農業技術や灌漑施設の導入によって可能になり、一部では政府の農業振興政策が背景にあったとされています。特に1987年から1994年にかけての生産量の大幅増加は、このような技術的・政策的努力の成果と解釈されます。
しかし、2000年代に入ると生産量は安定的とは言い難い変動を示しつつ、次第に減少していきます。この減少の主な要因として、厳しい気象条件や水資源の不足が挙げられます。カタールでは、砂漠環境による高温乾燥という気候条件が農業の持続性に大きな影響を及ぼしています。また、水資源の枯渇は農業用水の利用を著しく制限する原因となり、大麦の生産にも大きな打撃を与えました。
特に2008年以降、急激な生産量の減少が目立っています。この時期は、地政学的なリスクや世界的な食料・水危機が影響を及ぼした可能性があります。カタールのような国土が小さく、自然資源の乏しい国では、外部からの輸入に依存する傾向が強まり、大麦の自給自足を続けることが難しくなります。さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大による国際的なサプライチェーンの混乱や、近年の地域衝突が農業生産にさらに負担を与えた可能性も否定できません。
2023年は小幅ながら昨年の78トンから193トンに回復しましたが、ピーク時の生産量とは依然として大きな隔たりがあります。このような状況は、食料自給率や環境対応型の農業技術の導入が緊急の課題であることを示しています。
カタールの場合、大麦の生産は国内の畜産業の飼料供給とも結びついており、この点においても重要な意義を持っています。生産量の減少は畜産物の生産性にも影響を及ぼし、国内の食料安定に寄与する能力が低下するリスクがあります。日本や他の農業先進国の例を参考に、持続可能な農業モデルを構築するための協力が鍵となるでしょう。
未来を見据えた具体的な対策としては、以下のような取り組みが考えられます。地中海型農業技術を活用した水資源効率の向上や、塩害耐性のある大麦品種の導入が有望な選択肢となるでしょう。加えて、持続可能性を追求するためには、隣接する湾岸諸国との地域間協力が欠かせません。たとえば、共同での水資源管理システムの開発や、農業技術の共有が期待されます。
また、カタールにおける大麦の生産縮小の傾向は、国内政策だけではなく、輸入依存度の高さから派生する地政学的リスクとの関連性も考えなければなりません。輸送路の確保や輸入先多様化の対策は、将来的なリスク軽減としても有効です。この視点から国際社会との連携を強化することが求められます。
結論として、カタールの大麦生産量推移は環境的・政策的課題を強く反映しており、自給自足を達成するためには長期的な視野で持続可能な農業計画が必要です。政策面だけでなく、技術革新や地域協力の強化により、その将来的な安定を追求することが重要となるでしょう。