ケニアのカシューナッツ生産量推移（1961年～2023年）

国際連合食糧農業機関（FAO）が発表した最新のカシューナッツ生産データによれば、ケニアのカシューナッツ生産量は1960年代に始まり、1970年代後半にピーク（36,000トン）を迎えました。その後、生産量は減少や停滞を繰り返し、最近の数値では2021年から2023年にかけて1万トンを下回る低水準が続いています。過去60年にわたる推移を見ると、政策的、経済的、気候的要因が複雑に絡み合っており、生産量の安定的な増加が課題となっています。

ケニアのカシューナッツ生産量の推移データは、同国における農業と経済の変化を象徴するものです。1961年には3,000トンから始まり、1970年代半ばから後半にかけては農業支援政策や好条件の気候により、最大36,000トンまで生産量が増加しました。しかし1980年代に入ると、生産量は減少の一途をたどります。この背景には、政策の不備、植樹の低迷、老朽化する樹木、そして市場競争力の低下が影響していると考えられます。

近年、特に2010年代の中盤において、一時的に2万トンを超える回復が見られましたが、その後は再び下落傾向が続いています。2023年の生産量は8,997トンと、ピーク時の36,000トンと比較すると大幅な減少が見られます。この低下傾向は、ケニアの農業を取り巻くいくつかの重要な要因が関与していると考えられます。まず、気候変動がカシューナッツの収穫に大きな影響を与えています。カシューナッツは高温乾燥の気候を好みますが、不安定な降雨量や異常気象が収穫や成長に悪影響を及ぼしています。また、世界市場での価格競争も、他国（特にベトナムやインドなどの主要輸出国）に遅れをとる一因となっています。

さらに、国内の物流やインフラの整備不足も生産量低迷に寄与しています。ケニア国内の農家には技術的な支援が不十分で、新しい育種技術や農業方法が普及していません。また、老朽化したカシューナッツの木が生産性を落としており、新しい木に植え替えるための投資が不足しています。このような問題は、農業を営む住民の収入にも直接的な影響を及ぼし、地域の経済的な安定をいっそう脅かしています。

比較として、インドやベトナムは、カシューナッツ最大輸出国として、効率的なサプライチェーンや政府による農業支援が充実し、生産と輸出において圧倒的な強みを持っています。一方、ケニアはこうした資源の利用において課題を抱え、輸出の市場シェアを高める余地を十分に活用できていません。

提言として、まず、気候変動に耐える品種への転換や、農家への灌漑設備の支援を推進することが重要です。さらに、政府と民間セクターが協力し、農業研究・技術革新を促進する仕組みを構築することで、品質と生産性を同時に向上させることが期待されます。また、農家支援にとどまらず、貿易政策の改善やインフラ投資によって国内外の流通網を強化し、輸出を拡大する確固たる基盤を整えることが不可欠です。

地政学的には、ケニアが東アフリカの地理的なハブとしての利点を活かすことで、地域内での貿易協力を深化させられる可能性もあります。地域間協力により輸出市場を広げ、中長期的な成長を促す体制を整えるとともに、農業の多様化や、生産性向上を目的とした国際協力も検討すべきです。

カシューナッツ生産量推移データが示す通り、ケニアは大きな潜在力を持っていますが、持続可能な成長の実現には、緻密な政策設計と即時の行動が求められます。それが地域の農業従事者の生活を改善するとともに、国全体の経済成長に直結する鍵となるでしょう。