国際連合食糧農業機関(FAO)の最新データによると、ベルギーの牛乳生産量は2023年に約469万5,000トンに達し、過去最大を記録しました。一方で、生産量は2000年代初頭から2010年代半ばにかけて一時的に大幅な減少を経験し、2010年代後半から現在に至るまで一貫して増加しているのが特徴です。この背景には、酪農技術の改良やEU内の市場条件の変化が影響していると考えられます。
ベルギーの牛乳生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 4,695,000 |
2.69% ↑
|
2022年 | 4,572,000 |
3.02% ↑
|
2021年 | 4,438,000 |
-0.43% ↓
|
2020年 | 4,457,000 |
3.82% ↑
|
2019年 | 4,293,000 |
2.34% ↑
|
2018年 | 4,195,000 |
4.21% ↑
|
2017年 | 4,025,417 |
3.7% ↑
|
2016年 | 3,881,626 |
-2.67% ↓
|
2015年 | 3,988,147 |
8.1% ↑
|
2014年 | 3,689,440 |
6.2% ↑
|
2013年 | 3,474,000 |
13.1% ↑
|
2012年 | 3,071,716 |
-0.95% ↓
|
2011年 | 3,101,050 |
1.12% ↑
|
2010年 | 3,066,630 |
3.8% ↑
|
2009年 | 2,954,385 |
3.69% ↑
|
2008年 | 2,849,228 |
-1.02% ↓
|
2007年 | 2,878,636 |
1.47% ↑
|
2006年 | 2,836,930 |
-6.22% ↓
|
2005年 | 3,025,000 |
-1.14% ↓
|
2004年 | 3,060,000 |
-10% ↓
|
2003年 | 3,400,000 |
-1.99% ↓
|
2002年 | 3,469,000 |
-6.09% ↓
|
2001年 | 3,694,000 |
0.14% ↑
|
2000年 | 3,689,000 | - |
ベルギーにおける牛乳生産量の推移を見ると、2000年には約368万9,000トンから始まりました。その後、2000年代初頭に緩やかな減少が見られ、2006年には約283万トンまで減少しました。この期間の減少は、EU内の酪農業界への規制強化や、牛乳の需要の変化といった外部要因が影響していると考えられます。また、生産技術の効率化が遅れていたことも、この減少を加速させた可能性があります。ただし、2000年代後半になると減少傾向が緩やかになり、2010年以降は回復基調を維持しています。
特に2015年を境に生産量が飛躍的に増加しており、2015年から2023年にかけては連続して増加を記録しています。この要因としては、EU酪農市場における生乳クオータ制度の廃止が非常に大きいです。生乳クオータ制度とは、EUが加盟国間で牛乳の生産量配分を規定する一種の生産枠制限であり、その廃止によりベルギーの酪農家は生産量を自由に調整できるようになりました。この自由化に加え、ベルギーは酪農業の効率をさらに高めるべく、牧草の管理方法の改良や乳牛の育成環境の整備を進めたことが回復と成長を後押ししています。
2023年には、これまで最高の約469万5,000トンという生産量を達成しています。ただし、この飛躍的な増加にはいくつかの課題も指摘されています。一つは環境問題です。牛乳の大量生産に伴い、温室効果ガスであるメタン排出量の増加が懸念されています。ベルギーの酪農業界や政府は、この問題に対処するため、低メタン酪農技術の導入を進めています。
さらに、他のEU諸国、特にドイツやオランダ、フランスといった近隣諸国の生産量との競争が激化している点も重要です。EU全体で牛乳生産量が増加した結果、需給バランスが崩れ、一部の酪農家には価格の低迷が直撃しています。このため、ベルギーは高付加価値の乳製品、例えばオーガニック商品や地域指定保護の製品(ベルギーチーズなど)の生産に注力することで、競争力を維持する戦略を取る必要があるとされています。
また、将来的には地政学的背景も考慮する必要があります。たとえば、エネルギー問題やウクライナ情勢が酪農業に与える間接的な影響として、飼料の輸入価格が上昇する可能性が挙げられます。これに対処するため、国内における飼料の自己生産能力を向上させることが今後の持続可能な成長の肝となるでしょう。
具体的な対策としては、酪農家への技術支援プログラムや環境に配慮した奨励金の導入が挙げられます。また、地域間協力を強化し、近隣のEU諸国と共同で需給バランスを維持するような政策も重要です。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック時に供給網が壊れた教訓を活かし、危機時の食品サプライチェーン対策を改めて整備する必要があります。
結論として、ベルギーの牛乳生産量は過去20年で変動を繰り返してきましたが、近年では継続的な増加が確認されています。ただし、この成長を持続可能にするためには、環境問題への対応や競争力の強化、さらに地政学的リスクを踏まえた調整が欠かせません。ベルギー政府と酪農業界が手を取ってこれらの課題に取り組むことで、ベルギーが欧州における酪農の中心的存在であり続けることができるでしょう。