国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した2024年7月時点の最新データによると、イギリスのさくらんぼ生産量は1961年以降、大きな変遷を経てきました。1961年の15,139トンをピークに、その後減少傾向が続き、1990年代以降は1,000トン前後の低水準で推移しました。しかし、2010年代後半から回復傾向が見られ、2023年には約3,927トンに達しました。この半世紀の間の生産量推移は、気候変動、農業技術の進化、政策変更など、複合的な要因が影響を与えています。
イギリスのさくらんぼ生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 3,927 |
-4.19% ↓
|
2022年 | 4,099 |
8% ↑
|
2021年 | 3,795 |
-32.8% ↓
|
2020年 | 5,647 |
-1.71% ↓
|
2019年 | 5,745 |
61.01% ↑
|
2018年 | 3,568 |
-44.97% ↓
|
2017年 | 6,484 |
281.41% ↑
|
2016年 | 1,700 |
-63.83% ↓
|
2015年 | 4,700 |
17.79% ↑
|
2014年 | 3,990 |
15.25% ↑
|
2013年 | 3,462 |
108.3% ↑
|
2012年 | 1,662 |
10.73% ↑
|
2011年 | 1,501 |
25.08% ↑
|
2010年 | 1,200 |
-4% ↓
|
2009年 | 1,250 |
4.17% ↑
|
2008年 | 1,200 |
-1.64% ↓
|
2007年 | 1,220 |
10.91% ↑
|
2006年 | 1,100 | - |
2005年 | 1,100 | - |
2004年 | 1,100 |
10% ↑
|
2003年 | 1,000 |
-23.08% ↓
|
2002年 | 1,300 |
-7.14% ↓
|
2001年 | 1,400 |
250% ↑
|
2000年 | 400 |
-69.23% ↓
|
1999年 | 1,300 |
44.44% ↑
|
1998年 | 900 |
50% ↑
|
1997年 | 600 |
-83.33% ↓
|
1996年 | 3,600 |
2.86% ↑
|
1995年 | 3,500 |
133.33% ↑
|
1994年 | 1,500 |
-50% ↓
|
1993年 | 3,000 |
-33.33% ↓
|
1992年 | 4,500 |
100.36% ↑
|
1991年 | 2,246 |
41.97% ↑
|
1990年 | 1,582 |
-53.92% ↓
|
1989年 | 3,433 |
114.56% ↑
|
1988年 | 1,600 |
-55.92% ↓
|
1987年 | 3,630 |
-3.66% ↓
|
1986年 | 3,768 |
-21.3% ↓
|
1985年 | 4,788 |
-11.33% ↓
|
1984年 | 5,400 |
86.21% ↑
|
1983年 | 2,900 |
-57.35% ↓
|
1982年 | 6,800 |
142.86% ↑
|
1981年 | 2,800 |
-60.56% ↓
|
1980年 | 7,100 |
14.52% ↑
|
1979年 | 6,200 |
72.22% ↑
|
1978年 | 3,600 |
24.14% ↑
|
1977年 | 2,900 |
-66.28% ↓
|
1976年 | 8,600 |
21.13% ↑
|
1975年 | 7,100 |
-26.8% ↓
|
1974年 | 9,700 |
25.97% ↑
|
1973年 | 7,700 |
-38.89% ↓
|
1972年 | 12,600 |
9.57% ↑
|
1971年 | 11,500 |
-17.86% ↓
|
1970年 | 14,000 |
218.18% ↑
|
1969年 | 4,400 |
20.28% ↑
|
1968年 | 3,658 |
38.51% ↑
|
1967年 | 2,641 |
-48.01% ↓
|
1966年 | 5,080 |
-47.92% ↓
|
1965年 | 9,754 |
-30.94% ↓
|
1964年 | 14,123 |
7.75% ↑
|
1963年 | 13,107 |
-40.55% ↓
|
1962年 | 22,048 |
45.64% ↑
|
1961年 | 15,139 | - |
イギリスのさくらんぼ生産量推移は、地理的条件を背景にした農業の変遷や経済的状況、さらには地球規模の気候変動の影響を反映しています。初期の1960年代においては、さくらんぼの主要生産地として比較的高い収穫量を誇り、1961年には最大値の15,139トンを記録しました。しかしこれ以降、輸入競争、農作物価格の低迷、および農地の用途転換などの理由から生産量が急速に減少。特に1990年代から2000年代にかけて、1,000トン未満という非常に低い生産水準が続きました。
こうした状況下でも近年の2010年代に入ってからは、国内生産に再び注目が集まり、2013年以降、徐々に回復する兆候を見せています。この回復の要因としては、需要の高まりに応じた品質改良品種の導入や、政府や農業団体による補助金の提供など、政策的サポートが寄与しています。また、温暖化による気候の変化がイギリスの一部地域でさくらんぼの栽培に好影響を与えた可能性もあります。しかしながら、収穫量の不安定さは依然として解消されておらず、例えば2016年に1,700トンと低迷した後2017年には6,484トンと急増するなど、大幅な変動が繰り返されています。
このような状況は、気象条件の変化や害虫被害、さらには世界的な食料需給バランスの影響を受ける脆弱な構造を示しています。イギリス農業全体が、輸入品との価格競争に直面しており、品質やブランド確立が国内生産の維持において重要な課題となっています。他国との比較では、アメリカの大規模さくらんぼ産業や、ヨーロッパ内ではフランスやドイツの安定した生産体制に比べ、イギリスの相対的な生産量の小規模さと不安定さが際立っています。
将来的には、さらに持続可能な農業技術の導入や、消費者の「地元食材」嗜好を活かしたマーケティング強化が求められます。また、さくらんぼ供給の安定化を目指すためには、気候変動に対応した栽培技術やリスク管理システムの開発が必要です。具体的には、耐寒性を備えた新しいさくらんぼ品種の育成や、虫害対策、生産者同士の地域協力の促進を検討すべきです。
さらに、イギリス国内で近年注目されている農産物輸出戦略は、さくらんぼの産業振興にも適用可能です。イギリス産のさくらんぼを新興国市場やEU以外の市場でブランド展開することで、新たな需要を獲得する可能性があります。同時に、輸出量の向上によって国内価格の安定化の道筋が描けます。
結論として、イギリスのさくらんぼ生産は、近年の復調傾向を維持・強化する過程にありますが、依然として気候変動、害虫、経済的条件といった複合的な課題に直面しています。政府機関、研究機関、農業共同体が連携し、技術革新、政策支援、マーケティング強化を通じて生産量をさらに高め、農業部門全体の持続可能性を向上させることが急務といえます。