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イギリスの羊の毛生産量推移(1961-2022)

Food and Agriculture Organization(国際連合食糧農業機関)が発表したデータによると、イギリスの羊の毛生産量は1961年の59,602トンを最初に記録し、以来、長期的な変動を経て2022年には72,010トンに達しました。この期間には大きな増減が見られ、特に1980年代末から1990年代初頭にかけては急激な増加傾向を示し、その後は2000年代初頭に減少。そして2010年以降は緩やかな上昇が続いています。

年度 生産量(トン)
2022年 72,010
2021年 71,471
2020年 70,939
2019年 70,154
2018年 69,282
2017年 68,904
2016年 68,791
2015年 68,390
2014年 67,426
2013年 68,000
2012年 68,000
2011年 67,500
2010年 67,000
2009年 64,336
2008年 63,152
2007年 62,000
2006年 61,042
2005年 60,000
2004年 60,000
2003年 60,000
2002年 60,000
2001年 55,000
2000年 64,000
1999年 66,000
1998年 69,000
1997年 64,000
1996年 64,618
1995年 68,000
1994年 66,714
1993年 67,517
1992年 70,442
1991年 72,455
1990年 73,858
1989年 73,359
1988年 66,832
1987年 61,590
1986年 58,870
1985年 57,866
1984年 54,126
1983年 53,677
1982年 50,236
1981年 50,521
1980年 51,800
1979年 48,068
1978年 49,076
1977年 45,808
1976年 47,530
1975年 49,304
1974年 49,623
1973年 48,489
1972年 47,627
1971年 47,000
1970年 46,300
1969年 47,600
1968年 54,000
1967年 57,700
1966年 59,600
1965年 58,600
1964年 57,500
1963年 57,500
1962年 59,200
1961年 59,602

イギリスの羊毛の生産量データは、同国の農業と家畜業の動向を示す重要な指標と言えます。このデータを時系列で分析すると、幾つかの特徴的な傾向が確認できます。1960年代初頭は年間約59,000~58,000トンの生産量を維持していましたが、1968年から1970年にかけて急激な減少が見られ、約47,000トン近くにまで低下しました。この減少は、当時の畜産政策や羊毛価格の低迷、また飼育環境の変化が一因と言われています。

その後は1970年代後半から1980年代にかけて、生産量が徐々に回復し、特に1980年代末には大きく増加しました。1989年から1990年にかけてのピークでは73,858トンを記録し、この時期はイギリスの畜産業が拡大傾向にあった頃と重なります。しかし1990年代には再び減少に転じ、2000年代初頭にかけても60,000トン前後にとどまる低迷期を迎えました。この減少には、特に2001年のイギリス口蹄疫(こうていえき)の影響が大きく作用したと考えられています。この疫病はイギリスの家畜産業全般に深刻な被害をもたらしたため、羊毛の生産量にも直接的な影響が及びました。

2000年代後半以降は回復の兆しが見え始め、2010年以降は前年を上回る安定的な増加が続いています。この背景には、羊毛の需要回復やイギリス国内外の輸出強化が影響していると考えられます。とりわけ、持続可能な天然繊維への意識の高まりや、環境への配慮から合成繊維から天然素材へ移行する動きが欧州市場で拡大されており、それがこの上昇に寄与したものと分析されます。

また、地域ごとの地政学的背景を考えると、イギリスの羊毛生産はEU離脱後の輸出構造の変更や貿易協定の再調整とも関係しています。特にイギリスが進める農業補助政策の変更は羊毛業界に直接影響します。欧州市場へのアクセスや国際競争力の強化が、生産量維持への鍵となるでしょう。

ここで浮かび上がる課題は、羊毛の国際価格と需給バランスです。イギリス以外の主要生産国、例えばオーストラリアやニュージーランドなどとの競合が激化しており、単に生産量を増やすだけではなく、高品質で差別化した製品を市場に提供することが急務とされます。

解決のためには、技術革新の活用やデジタル技術を取り入れた生産効率の向上が求められます。たとえば、人工知能(AI)を利用した牧場管理や、新しい毛織物の開発がその一例です。また、災害や疫病による影響を最小限に抑えるためのバイオセキュリティ強化も重要であり、これには政府主導の支援が必要不可欠です。さらに世界的な気候変動は放牧環境や農業生産に影響を及ぼすことから、長期的に持続可能な牧畜モデルの開発が大切になります。

結論として、イギリスの羊毛生産量は過去の変動の中で着実に回復基調にあり、今後も安定した需要が続くと予測されています。しかし、持続可能性を考慮した技術導入と品質向上が進まない限り、国際競争において優位を保つのは難しいでしょう。このため、政府の政策支援を拡大し、国内農家が環境変化に適応できる体制を整えることが今後の重要な対策となるはずです。