国際連合食糧農業機関(FAO)が2024年7月に更新したデータによると、イギリスの牛飼養数は過去60年以上にわたり変動を続け、1961年の11,977,998頭から1974年の15,250,043頭をピークに、2022年には9,632,000頭まで減少しています。この長期的な減少傾向は、国内外における農業政策、環境問題、消費者需要の変化、疫病対策に起因していると考えられます。
イギリスの牛飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(頭) |
---|---|
2022年 | 9,632,000 |
2021年 | 9,603,000 |
2020年 | 9,615,000 |
2019年 | 9,739,000 |
2018年 | 9,892,000 |
2017年 | 10,004,000 |
2016年 | 10,033,000 |
2015年 | 9,919,000 |
2014年 | 9,837,000 |
2013年 | 9,844,000 |
2012年 | 9,900,000 |
2011年 | 9,933,000 |
2010年 | 10,112,000 |
2009年 | 10,025,000 |
2008年 | 10,107,000 |
2007年 | 10,304,000 |
2006年 | 10,579,000 |
2005年 | 10,770,200 |
2004年 | 10,551,000 |
2003年 | 10,517,000 |
2002年 | 10,343,000 |
2001年 | 10,600,000 |
2000年 | 11,133,000 |
1999年 | 11,423,000 |
1998年 | 11,519,000 |
1997年 | 11,633,000 |
1996年 | 12,040,000 |
1995年 | 11,857,000 |
1994年 | 11,954,000 |
1993年 | 11,851,000 |
1992年 | 11,924,000 |
1991年 | 11,885,000 |
1990年 | 12,079,000 |
1989年 | 11,975,000 |
1988年 | 11,884,000 |
1987年 | 12,170,000 |
1986年 | 12,533,000 |
1985年 | 12,911,000 |
1984年 | 13,213,000 |
1983年 | 13,290,000 |
1982年 | 13,244,000 |
1981年 | 13,062,000 |
1980年 | 13,363,000 |
1979年 | 13,538,000 |
1978年 | 13,568,000 |
1977年 | 13,712,000 |
1976年 | 14,069,000 |
1975年 | 14,764,084 |
1974年 | 15,250,043 |
1973年 | 14,492,291 |
1972年 | 13,529,612 |
1971年 | 12,850,620 |
1970年 | 12,627,516 |
1969年 | 12,418,986 |
1968年 | 12,195,367 |
1967年 | 12,386,952 |
1966年 | 12,252,059 |
1965年 | 11,987,860 |
1964年 | 11,668,559 |
1963年 | 11,756,825 |
1962年 | 11,900,559 |
1961年 | 11,977,998 |
イギリスの牛飼養数の推移を年ごとに見ていくと、大きく3つの時期に分類できます。1960年代から1970年代前半にかけては増加傾向を示し、1974年には15,250,043頭というピークに達しました。この時期は、ヨーロッパにおける畜産業の成長期であり、イギリスでも農業政策の強化に伴い飼養数が拡大した時期です。しかし、1975年以降になると徐々に減少に転じ、全体的に下降傾向が目立つようになりました。特に1980年代後半にかけては、大規模な牧場運営の効率化と、地価や経済政策の影響により飼養規模が縮小されました。このため、1990年代では12,000,000頭を下回る状況が続き始めます。
さらに、1990年代後半の減少には、イギリス国内で大きな社会的課題となった狂牛病(BSE)問題の影響が深く関係しています。この疫病は畜産業全体に大きな影響を及ぼし、飼養数だけでなく消費者の牛肉需要にも大きな制約をかけました。その結果、農家は牛の飼養数を減らすか、他の生産活動への転換を余儀なくされました。同時期には環境重視のEU諸政策が推進され、放牧地利用や環境保全の観点から牛の個体数を削減する方向性が強まりました。
2000年代に入ると、飼養数はさらに減少し、2022年には9,632,000頭と1961年と比べて約20%減少しました。これは、消費者の食の嗜好の多様化、ベジタリアンおよびヴィーガンへの移行との関連も大きいと考えられます。牛肉需要の減少は、畜産業者にとって収益性の問題となり、結果として飼養数の削減を促しました。また、地球温暖化対策として温室効果ガスを削減する動きが加速し、持続可能な農業への転換が要請される中、メタン排出が多い牛の飼養に対する規制がさらに強まっています。
地政学的な背景として、EU離脱(ブレグジット)以降の農産物貿易の変化も挙げられます。イギリス国内での自給自足や輸出入政策の変更により、経営上の課題が飼養数の維持を難しくしている可能性があります。また、新型コロナウイルス感染症のパンデミック中には、労働力不足や物流停滞が畜産業全般に打撃を与え、回復基調の遅延につながる要因となりました。
このデータが示すように、イギリスの牛飼養業は近年さまざまな課題に直面しています。課題を解決するためには、いくつかの具体策が必要です。まず、農業政策の枠組みを見直し、持続可能な畜産業推進のための支援策を導入することが挙げられます。例えば、低メタン排出型の飼料の利用や、効率的かつ環境負荷の少ない牧場運営の技術普及が期待されます。また、消費者の食生活の変化を踏まえた農産物のマーケティング戦略や、代替タンパク源プロジェクトへの支援も重要です。
さらに、疫病対策の強化と国際協力の枠組みづくりも欠かせません。他の国々との協力を通じて、地球規模で持続可能な畜産業のあり方を模索することが重要です。イギリス国内では地域間の農業協力を進め、特定の地域課題に対応した柔軟な政策を実施するべきです。例えば、地方の労働市場の活性化や輸出促進に焦点を当てた政策が考えられます。
最後に、未来を見据えた提案として、環境配慮型の農業をさらに推進するため、技術革新による畜産業の脱炭素化が必要です。また、イギリスが国際連合や関連機関と連携を深め、他国との資源共有や情報交換を行いながら、新しい畜産業のモデルを構築することが提言されます。これにより、イギリスの牛飼養数は、持続可能な形で次世代に引き継がれる可能性が高まるでしょう。