国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した2024年最新データによると、アイルランドのネギ生産量は過去数十年にわたって変動を見せています。特に2016年に大幅な増加が見られ、その後も年間2,700~3,800トンの間で推移しています。一方、1986年から2000年前後までの生産量は年間1,000~1,800トンと非常に控えめでした。このデータは、アイルランドの農業生産が時代ごとに異なる影響を受け、変遷してきたことを示しています。
アイルランドのネギ生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 2,880 |
5.49% ↑
|
2022年 | 2,730 |
-5.21% ↓
|
2021年 | 2,880 |
-14.79% ↓
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2020年 | 3,380 |
15.75% ↑
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2019年 | 2,920 |
8.15% ↑
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2018年 | 2,700 |
-11.42% ↓
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2017年 | 3,048 |
-19.79% ↓
|
2016年 | 3,800 |
123.53% ↑
|
2015年 | 1,700 | - |
2014年 | 1,700 |
21.43% ↑
|
2013年 | 1,400 |
7.69% ↑
|
2012年 | 1,300 |
-7.14% ↓
|
2011年 | 1,400 |
7.69% ↑
|
2010年 | 1,300 | - |
2009年 | 1,300 | - |
2008年 | 1,300 |
-7.14% ↓
|
2007年 | 1,400 | - |
2006年 | 1,400 |
-6.67% ↓
|
2005年 | 1,500 |
15.38% ↑
|
2004年 | 1,300 | - |
2003年 | 1,300 | - |
2002年 | 1,300 | - |
2001年 | 1,300 | - |
2000年 | 1,300 |
-14.04% ↓
|
1999年 | 1,512 |
-11.04% ↓
|
1998年 | 1,700 | - |
1997年 | 1,700 |
-5.56% ↓
|
1996年 | 1,800 |
63.64% ↑
|
1995年 | 1,100 |
-31.25% ↓
|
1994年 | 1,600 | - |
1993年 | 1,600 |
6.67% ↑
|
1992年 | 1,500 |
-11.76% ↓
|
1991年 | 1,700 |
41.67% ↑
|
1990年 | 1,200 |
9.09% ↑
|
1989年 | 1,100 |
-8.33% ↓
|
1988年 | 1,200 |
20% ↑
|
1987年 | 1,000 | - |
1986年 | 1,000 | - |
アイルランドにおけるネギ生産量の推移を見ると、1986年から2000年までは比較的低水準で推移しており、生産量は年間1,000~1,800トンの範囲で一定の変動を示していました。この時期、アイルランドの農業は大規模な商業化をしておらず、ネギの生産も国内需要の補完にとどまっていた可能性があります。また、同時期の気候条件や農業インフラもこの水準を決定づけた要因の一つと考えられます。
2000年以降には、年間平均1,300~1,700トンでやや安定した生産量に転じています。その背景には、EU加盟国としての農業政策や補助金制度の導入、農作物栽培技術の向上などが影響していると考えられます。ただし、この期間は国際市場の影響を受けやすく、ネギという比較的ニッチな作物には大きな投資が行われなかった可能性も指摘できます。
注目すべき転換点は2016年で、この年には生産量が3,800トンと大幅に増加しました。この急増には、気象条件の好転、高収量を狙った作付け面積の拡大、あるいは輸出需要の急増が関与していると考えられます。この流れはその後も続き、2023年の生産量は2,880トンと引き続き過去より高い水準を維持しています。
アイルランドのネギ生産量の推移を見たとき、リスク要因としては気候変動の影響が挙げられます。ネギは適切な温度と降水量が生産に大きく影響する作物の一つです。近年の異常気象や洪水、また2020年以降の新型コロナウイルスによるサプライチェーンの混乱は、生産や流通に負荷を与えた可能性があります。それにも関わらず、生産量は比較的安定していることから、アイルランドの農家が対応策を講じていると考えられます。
今後の課題として、さらなる気候変動への対応が挙げられます。具体的には、気候耐性の高い栽培技術や品種改良、適応性の高い農地選定が求められます。また、ネギ生産を輸出の柱とできるかは、他のEU諸国や国際市場との競争力の確保にかかっています。例えば、アイルランドの農業部門は持続可能性の観点から有機農業への転換を進めており、ネギ生産でもこの方針を積極的に取り入れることで付加価値を生み出すことが可能です。
地政学的な観点からは、イギリスのEU離脱(ブレグジット)がネギ輸出に与える影響や、ロシア・ウクライナ戦争が引き起こした肥料価格の高騰が、アイルランドの農業全般に及ぼす圧迫を無視できません。これらの国際情勢は、ネギ生産という一つの作物にも波及効果を引き起こす可能性があります。
結論として、アイルランドのネギ生産は近年の安定的な水準に達しており、これは農業政策や技術革新の成果といえる一方、気候リスクや国際市場の競争激化といった課題に直面しています。国際連合食糧農業機関やEUの支援を活用しながら持続可能な生産体制を構築することが、アイルランドのネギ農業の未来を明るくする鍵となるでしょう。