国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した2024年7月時点の最新データによると、アイルランドの羊飼養数は、この60年以上の間に大きな変動を見せています。1961年時点では約310万匹であったのに対し、1993年には約610万匹まで増加、その後2000年にはピークの約755万匹を記録しました。ただし、その後は減少が続き、2022年には約402万匹となっています。この変動は、経済状況、農業政策、環境問題などとの関連が示唆されています。
アイルランドの羊飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(匹) |
---|---|
2022年 | 4,018,030 |
2021年 | 3,991,180 |
2020年 | 3,877,220 |
2019年 | 3,809,370 |
2018年 | 3,798,480 |
2017年 | 5,197,140 |
2016年 | 5,179,200 |
2015年 | 5,138,700 |
2014年 | 5,096,800 |
2013年 | 5,007,000 |
2012年 | 5,170,000 |
2011年 | 4,830,000 |
2010年 | 4,745,400 |
2009年 | 4,778,000 |
2008年 | 5,061,400 |
2007年 | 5,521,600 |
2006年 | 5,973,200 |
2005年 | 6,392,200 |
2004年 | 6,777,200 |
2003年 | 6,848,900 |
2002年 | 7,209,600 |
2001年 | 7,330,300 |
2000年 | 7,555,000 |
1999年 | 5,559,100 |
1998年 | 5,577,200 |
1997年 | 5,341,900 |
1996年 | 5,543,400 |
1995年 | 5,739,700 |
1994年 | 5,966,500 |
1993年 | 6,109,200 |
1992年 | 5,982,600 |
1991年 | 5,863,700 |
1990年 | 5,713,900 |
1989年 | 4,991,200 |
1988年 | 4,300,600 |
1987年 | 3,671,800 |
1986年 | 3,304,000 |
1985年 | 3,081,800 |
1984年 | 2,813,200 |
1983年 | 2,608,500 |
1982年 | 2,449,300 |
1981年 | 2,343,600 |
1980年 | 2,359,600 |
1979年 | 2,417,800 |
1978年 | 2,526,000 |
1977年 | 2,581,900 |
1976年 | 2,653,200 |
1975年 | 2,711,200 |
1974年 | 2,844,500 |
1973年 | 2,834,600 |
1972年 | 2,862,000 |
1971年 | 2,835,800 |
1970年 | 2,788,200 |
1969年 | 2,851,500 |
1968年 | 2,990,200 |
1967年 | 3,058,800 |
1966年 | 3,464,000 |
1965年 | 3,455,800 |
1964年 | 3,386,500 |
1963年 | 3,333,100 |
1962年 | 3,375,900 |
1961年 | 3,106,500 |
アイルランドは古くから羊の飼養が盛んな国であり、湿潤な気候と広大な牧草地が羊の飼育に適した環境を提供しています。1961年に始まるデータでは、飼養数は約310万匹と記録されており、その後徐々に増加、1990年代初頭には600万匹を超える規模となりました。特に2000年には約755万匹を達成し、歴史的なピークに達しました。この増加は、当時のEU農業政策との直接的な関連が考えられます。EUからの補助金が畜産農家の収入を支え、特に羊の飼育が奨励された時期であったためです。
しかし、2000年以降、アイルランドの羊飼養数は明確な減少傾向に転じました。この背景には複数の要因が絡んでいます。まず、畜産の効率化やマーケットの変化が挙げられます。特に牛肉市場への注力が顕著で、羊産業が競争力を維持するのが困難となりました。また、環境問題が浮上し、環境負荷の高い農業生産への規制が強化され、羊の飼養規模にも影響があったと考えられます。さらに、若い世代の農業離れや都市部への人口移動も、労働力不足という形で影響を及ぼしています。
一方、直近のデータを見ると、2020年以降は飼養数が再び増加に転じていることが確認できます。2020年の約388万匹から2022年には約402万匹となっており、これは環境問題に考慮した持続可能な農業政策が進展したことや、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって国内消費の需要が生じたことが一因とされています。他方で、この増加は2000年時点のピーク時のレベルには遠く及ばない状況です。
アイルランドの羊産業が今後直面する課題として、第一に、国際競争力の向上が挙げられます。他の農業大国と比べ、例えば中国やニュージーランドの羊肉生産量は著しい増加を見せており、輸出市場での地位維持が難しくなっています。第二に、環境への配慮が欠かせません。気候変動緩和への国際的な圧力もあり、カーボンフットプリントを減らしながら生産性を向上させる取組が必要です。第三に、国内外消費者のニーズに対応した製品の多様化も求められます。健康志向や高品質志向が高まる中で、ブランド力をどう高めるかが鍵となります。
具体的な対策としては、まず農業技術の研究開発を進めることが重要です。例えば、新しい餌の導入や効率的な牧草管理技術の普及により、環境負荷を抑えつつ生産量を保持することが考えられます。また、地域間協力や輸出先の多角化を進めるため、EU内外での貿易協定を活用することも重要です。さらに、若者が農業に関心を持つような教育プログラムや支援政策を拡充することで、後継者不足を解決する道筋をつけることができます。
アイルランドの羊飼養数の推移は単なる統計以上に、農業政策、環境意識、そして国際市場の変化を反映した指標といえます。今後、持続的な発展を目指すには、環境配慮型の農業モデルを構築し、国際競争力を一層強化する必要があります。また、消費者志向に合った商品の付加価値を高めることで、アイルランドの羊産業がさらなる発展を遂げることが期待されています。