国際連合食糧農業機関(FAO)が2024年7月に更新したデータによると、セントルシアのパイナップル生産量は、2004年から2023年にかけて大きな変動を見せています。観測期間全体として、生産量の増減が不規則に繰り返されており、2005年に235トンと突出した生産量を記録した反面、それ以外の年は概ね100トン以下の範囲に収まっています。直近の2023年では生産量が60トンで、過去20年間の平均値に近い水準となっています。一方で、2020年など30トン台に低下する年も見られ、一定の安定性を欠く状況です。
セントルシアのパイナップル生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 60 |
-25% ↓
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2022年 | 80 |
53.85% ↑
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2021年 | 52 |
73.33% ↑
|
2020年 | 30 |
-45.45% ↓
|
2019年 | 55 |
-30.38% ↓
|
2018年 | 79 |
-5.95% ↓
|
2017年 | 84 |
41.72% ↑
|
2016年 | 59 |
-2.96% ↓
|
2015年 | 61 |
-0.05% ↓
|
2014年 | 61 |
29.2% ↑
|
2013年 | 47 |
31.75% ↑
|
2012年 | 36 |
-31.15% ↓
|
2011年 | 52 |
-5.35% ↓
|
2010年 | 55 |
25.2% ↑
|
2009年 | 44 |
-30.16% ↓
|
2008年 | 63 |
28.57% ↑
|
2007年 | 49 |
32.43% ↑
|
2006年 | 37 |
-84.26% ↓
|
2005年 | 235 |
591.18% ↑
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2004年 | 34 | - |
セントルシアのパイナップル生産量の推移を見ると、特定の要因による大きな変動が特徴といえます。特に2005年の235トンという生産量が際立っていますが、翌2006年の37トンとなった急激な落ち込みからもわかるように、生産量が持続的に高い水準を保つことが難しい状況が長年続いています。この期間を通じて100トン台を超える安定した生産量を記録することはほとんどなく、同じカリブ地域の他国、例えばジャマイカやドミニカ共和国のように観光や輸出向けの生産基盤を持つ国々とは異なる特徴が顕著です。
生産量の不安定さの背景には、いくつかの課題があると考えられます。一つは、小規模農業が主流のセントルシアにおけるインフラや技術の不足です。この国では農業の多くが家族経営で行われており、灌漑システムや現代的な農業設備の導入が十分ではありません。そのため、気候変動や天候による影響を受けやすく、生産量のばらつきを抑えることが困難となっています。また、2006年以降の低迷には、2004年以降の世界的な金融危機や気候変動の影響、さらには国際市場での価格競争による影響も関連している可能性があります。
さらに、新型コロナウイルス感染症の影響も無視できません。2020年の生産量が30トンにまで低下したことは、感染症拡大による労働力不足や輸送・流通の混乱と直接結びついている可能性が高いです。一方で、2022年に80トンと回復を見せたことは、少なくともコロナ禍から一時的な離脱が進んだことを示唆しており、回復に向けた努力が進行していることがわかります。
地域課題としては、気候変動の影響を最小限に抑えるための持続可能な農業の採用が重要です。セントルシアはハリケーンの影響を受けやすく、雨季と乾季の極端な気候パターンが作物の収穫に直接影響しています。さらに、輸出市場拡大を目指して品質管理やブランド作りに投資することも必要です。他のカリブ地域では、特産品を生かした観光地との連携が進んでいます。例えばジャマイカでは、ラム酒や観光産業と農産物を関連付ける施策が展開されていますが、セントルシアもこうした取り組みを参考にすることで、経済的安定の一助とすることが期待されます。
未来の対策としては、農業インフラの整備や労働者の学び直しを支援する政策が効果的です。具体的には、灌漑システムや耐久性の高い農業機器の補助金導入、さらに気候変動に対応した耐性品種の導入が挙げられます。また、観光業との連携を強化し、「セントルシア産パイナップル」をブランド化することで更なる販路拡大を図るべきです。環境負荷を低減する有機農業を推進することで、欧州諸国や日本など需要の高い市場での競争力も高めることが期待されます。
結論として、セントルシアはパイナップル生産において数々の挑戦を抱えながらも、回復と成長の可能性を秘めています。国際機関や近隣諸国との協力を強化し、持続可能で競争力のある農業政策を定着させることが、長期的な農業の安定と経済発展に寄与するでしょう。この努力は国内の食糧安全保障だけでなく、より広範な経済成長にも重要な役割を果たすと考えられます。