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スイスのさくらんぼ生産量推移(1961年~2023年)

国際連合食糧農業機関(Food and Agriculture Organization)が2024年7月に公開した最新データによると、スイスのさくらんぼ生産量は1961年の62,000トンをピークに、2023年には4,464トンまで著しい減少を記録しています。この間、さくらんぼの生産量は長期的かつ断続的に減少しており、特に2000年代以降は年間10,000トン未満がほとんどとなっています。

年度 生産量(トン) 増減率
2023年 4,464
-20.41% ↓
2022年 5,609
44.82% ↑
2021年 3,873
-55.89% ↓
2020年 8,780
-13.79% ↓
2019年 10,184
-10.6% ↓
2018年 11,391
153.25% ↑
2017年 4,498
-20.88% ↓
2016年 5,685
-25.96% ↓
2015年 7,678
-41.6% ↓
2014年 13,148
135.92% ↑
2013年 5,573
20.42% ↑
2012年 4,628
-68.21% ↓
2011年 14,560
99.42% ↑
2010年 7,301
-39.88% ↓
2009年 12,144
93.35% ↑
2008年 6,281
-48.25% ↓
2007年 12,138
54.09% ↑
2006年 7,877
-21.1% ↓
2005年 9,984
-32.65% ↓
2004年 14,823
6.05% ↑
2003年 13,977
-6.93% ↓
2002年 15,017
52.23% ↑
2001年 9,865
-48.26% ↓
2000年 19,065
25.18% ↑
1999年 15,230
-36.68% ↓
1998年 24,053
86.65% ↑
1997年 12,887
-42.34% ↓
1996年 22,351
-9.07% ↓
1995年 24,581
34.39% ↑
1994年 18,291
-19.82% ↓
1993年 22,811
-29.7% ↓
1992年 32,449
138.6% ↑
1991年 13,600
-44.04% ↓
1990年 24,301
0.83% ↑
1989年 24,100
-10.07% ↓
1988年 26,800
-21.18% ↓
1987年 34,000
-2.86% ↓
1986年 35,000
-5.41% ↓
1985年 37,000
-19.57% ↓
1984年 46,000
17.95% ↑
1983年 39,000
-30.36% ↓
1982年 56,000
107.41% ↑
1981年 27,000
-30.77% ↓
1980年 39,000
-38.1% ↓
1979年 63,000
41.57% ↑
1978年 44,500
67.92% ↑
1977年 26,500
-50.93% ↓
1976年 54,000
10.2% ↑
1975年 49,000
32.43% ↑
1974年 37,000
-7.5% ↓
1973年 40,000
25% ↑
1972年 32,000
-34.69% ↓
1971年 49,000
4.26% ↑
1970年 47,000
4.44% ↑
1969年 45,000
-11.76% ↓
1968年 51,000
13.33% ↑
1967年 45,000
-13.46% ↓
1966年 52,000
13.04% ↑
1965年 46,000
-11.54% ↓
1964年 52,000
-5.45% ↓
1963年 55,000 -
1962年 55,000
-11.29% ↓
1961年 62,000 -

スイスにおけるさくらんぼ生産は、1960年代には年間50,000トンを超える安定した生産を誇り、同国の農業産品の一部として重要な位置を占めていました。しかし、その後は地球温暖化による天候の不安定化、農業従事者の高齢化、そして果樹の維持コスト増加といった複数の要因が影響し、年間生産量の減少が目立つようになりました。特に1980年代以降、生産量は急激に減少し、1990年代半ば以降は1万トンを下回る年が増加しています。

この減少傾向は、気候変動がさくらんぼの開花・結実時期に大きく影響を与えていることが主な原因と考えられます。温暖化により春先の遅霜(晩霜)が頻発するようになり、実の付きが悪化するケースが報告されています。さらに、降水パターンの変化により、一部地域では長雨や干ばつが発生しており、これも収穫量を減少させる要因となっています。また、スイスでは農地の減少や果樹園管理のコスト増加も、農家がさくらんぼ栽培から撤退する原因となっています。

ここで注目すべき点は、スイス国内でのさくらんぼ栽培に向けた支援体制や生産者の意欲喚起策が不足していることです。一方で、EU加盟国であるドイツやフランスでは、生産者支援や地域協同組合の活用が効果を上げており、スイスもこれらの取り組みから学ぶべき点があります。

将来的な課題として、地球温暖化の影響に加え、需要と供給のバランスをいかにとるかが挙げられます。スイスの特産品として需要はあるものの、大量輸入される外国産さくらんぼの価格競争力に押され、国内生産がさらに低迷するリスクもあります。これに対して、地域ブランドの確立や高付加価値商品の開発といった戦略が求められています。

さらに、克服すべき課題として、農業従事者の高齢化問題があります。これはスイスのさくらんぼ栽培だけではなく、世界中の農業全体に共通する問題です。新規就農者の育成のためには、若い世代が魅力を感じるような支援策が必要です。特に、最新技術を活用したスマート農業やDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入は、効率化と収益性向上につながる可能性があります。

具体的な対策として、スイス政府及び地方自治体は、果樹園における気候耐性向上のための研究開発に投資するべきです。例えば、気候変動に強いさくらんぼの品種改良や、高温や乾燥に耐える栽培技術の普及が挙げられます。また、さくらんぼ産業の持続可能性を高めるために、観光業との連携による「さくらんぼ狩り」体験ツアーの普及や、地元消費を促進する直売所の設置などが考えられます。

地政学的リスクに目を向けると、温暖化やグローバル経済の進展は、スイスのさくらんぼ生産にさらなる影響を与える可能性があります。生産国間での競争が激化すると、スイス産のさくらんぼが差別化されなければ国際市場での競争力を失う恐れもあります。したがって、国際市場でのプレゼンスを強化するためにも、高品質を強調したマーケティング戦略やフェアトレードの枠組みを利用した販路拡大が必要です。

スイスのさくらんぼ生産が再び活発化するためには、気候変動対応技術の導入、政府と農業者間の連携強化、若い世代への就農支援といった改革が重要です。同時に、需要を見据えた商品価値の再定義や差別化も不可欠です。これらの取り組みが実現されれば、スイスのさくらんぼ産業の競争力と持続可能性を回復させる大きな一歩になるでしょう。