国際連合食糧農業機関(FAO)の最新データによると、スイスの羊の飼養数は1961年以降大きく変動してきました。特に1970年代から2000年代にかけて増加が顕著で、2006年に451,000匹というピークを迎えました。しかし、その後は概ね減少傾向に転じ、2016年には338,922匹と大きく低下しました。その後、2021年以降は再び回復の兆しを見せ、2022年の飼養数は355,893匹となっています。これらの動向は、国内外の農業政策、環境要因、気候変動、そして経済的側面に影響を受けています。
スイスの羊飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(匹) |
---|---|
2022年 | 355,893 |
2021年 | 349,112 |
2020年 | 343,528 |
2019年 | 343,581 |
2018年 | 343,470 |
2017年 | 342,419 |
2016年 | 338,922 |
2015年 | 347,025 |
2014年 | 402,772 |
2013年 | 409,493 |
2012年 | 417,274 |
2011年 | 424,018 |
2010年 | 434,083 |
2009年 | 431,889 |
2008年 | 446,153 |
2007年 | 443,584 |
2006年 | 451,000 |
2005年 | 446,350 |
2004年 | 440,522 |
2003年 | 444,811 |
2002年 | 429,503 |
2001年 | 419,995 |
2000年 | 420,740 |
1999年 | 423,521 |
1998年 | 422,300 |
1997年 | 420,400 |
1996年 | 418,576 |
1995年 | 436,500 |
1994年 | 439,000 |
1993年 | 424,027 |
1992年 | 414,700 |
1991年 | 409,400 |
1990年 | 395,200 |
1989年 | 370,900 |
1988年 | 366,827 |
1987年 | 355,300 |
1986年 | 365,100 |
1985年 | 356,800 |
1984年 | 361,100 |
1983年 | 355,307 |
1982年 | 332,600 |
1981年 | 335,500 |
1980年 | 353,500 |
1979年 | 361,100 |
1978年 | 383,180 |
1977年 | 368,400 |
1976年 | 377,300 |
1975年 | 365,600 |
1974年 | 358,700 |
1973年 | 336,010 |
1972年 | 300,500 |
1971年 | 291,600 |
1970年 | 291,100 |
1969年 | 290,100 |
1968年 | 297,800 |
1967年 | 235,600 |
1966年 | 266,371 |
1965年 | 249,100 |
1964年 | 240,000 |
1963年 | 230,000 |
1962年 | 226,900 |
1961年 | 227,411 |
スイスにおける羊の飼養数は1960年代から2020年代にかけて一貫した増加傾向を見せる期間と、減少や横ばい傾向を示す期間を交互に繰り返してきました。1961年には227,411匹でしたが、1970年代には安定した成長を記録し、1978年には383,180匹にまで増加しました。特にこの増加は、当時のヨーロッパ全体で肉および羊毛需要が高まっていたこと、さらに他の家畜よりも比較的維持の容易な羊が重宝されていたことが関連しています。
2006年には451,000匹の最高記録を達成しましたが、これ以降は徐々に減少傾向へと逆転しています。この背景としては、グローバル市場の競争激化による羊毛価格の低迷、国内農業政策の変更、そして牧草地の利用競争による圧力が挙げられます。また、気候変動の影響によりアルプスの放牧地の利用条件が変化し、飼養数の維持が次第に難しくなってきています。
2015年には347,025匹まで減少し、その後も低迷傾向が続きました。ただ、2021年以降はやや回復し、2022年には355,893匹に達しています。この回復には、スイス政府が中小規模の農家を支援するための補助金制度を導入したことや、地域特産品としての羊の価値が再評価されてきたことが要因と考えられます。さらに、健康志向の高まりによりラム肉が注目されたことが追い風となっています。
スイスの羊飼養の未来に向けた課題としては、以下の点が挙げられます。第一に、気候変動への適応が急務です。気温の上昇や降水量の変化は山岳地帯の生態系に大きな影響を与え、牧草地の質や量の確保に直接的な影響を及ぼしています。第二に、国際市場における競争力の維持です。安い羊毛やラム肉が輸入される中で、スイス特有の品質を強調したブランド戦略の構築が重要です。また、地域住民や観光客に「地元の羊」の価値を効果的にアピールすることも必要です。
解決策としては、適応型農業技術の開発と導入が不可欠です。たとえば、干ばつに耐えられる牧草の種子の利用や、効率的な放牧管理技術の普及が期待されます。また、羊毛や羊肉の付加価値を高めるため、高品質の製品開発や地理的表示保護制度を活用し、地域ブランドを強化することも推奨されます。さらに、欧州諸国との連携を強化し、スイス産の羊製品の輸出市場を広げることも重要です。
スイスの豊かな自然と調和する形で羊の飼養を持続可能にしていくには、政府、農家、そして消費者が協力し、地元資源の有効活用や環境保護に努めることが求められます。国際機関や隣国の事例も参考にしながら、スイス特有の農業文化を未来に受け継いでいくことが期待されます。