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スイスの小麦生産量推移(1961-2022)

Food and Agriculture Organization(国際連合食糧農業機関)が発表した2024年の最新データを基にすると、スイスの小麦生産量は長期的な推移の中で増減を繰り返しながらも、全体的には一貫して一定の水準を維持していることが分かります。1960年代以降、1970年代後半から1980年代にかけては生産量が大きく増加しました。最大の生産量は1989年の649,000トンに達しました。一方で、2016年以降のデータを見ると、一時的な減少や生産量の不安定さが観察され、特に2021年には459,090トンと著しく低下しています。このような変化には、気候変動や農業政策、環境的要因が影響を与えていると考えられます。

年度 生産量(トン)
2022年 487,145
2021年 459,090
2020年 528,720
2019年 497,459
2018年 511,446
2017年 530,552
2016年 386,720
2015年 527,257
2014年 550,826
2013年 479,659
2012年 515,595
2011年 553,150
2010年 524,017
2009年 549,919
2008年 549,084
2007年 543,900
2006年 543,800
2005年 531,300
2004年 539,400
2003年 436,900
2002年 516,500
2001年 505,600
2000年 568,700
1999年 495,094
1998年 603,242
1997年 584,588
1996年 666,291
1995年 613,368
1994年 567,322
1993年 573,811
1992年 535,209
1991年 583,651
1990年 562,600
1989年 649,000
1988年 564,500
1987年 461,500
1986年 491,700
1985年 549,300
1984年 596,800
1983年 445,600
1982年 434,200
1981年 408,600
1980年 394,400
1979年 422,800
1978年 407,800
1977年 323,300
1976年 399,600
1975年 355,500
1974年 411,400
1973年 345,100
1972年 409,700
1971年 378,000
1970年 347,800
1969年 378,900
1968年 416,100
1967年 425,600
1966年 347,700
1965年 352,400
1964年 388,400
1963年 302,700
1962年 419,800
1961年 316,000

スイスの小麦生産量は、地形や気候の特性に左右されながらも、国内食糧需要を支える重要な役割を果たしてきました。データをもとに歴史的な動きを見ると、1960年代から1980年代までは生産量が増加傾向を示し、特に1980年代半ばから後半にかけての豊作年では、生産量が著しく増加しました。しかし、それ以降は増加と減少を繰り返す混合傾向にあり、近年、小麦生産における安定性が失われつつある状況が見られます。

1984年の596,800トンという記録的な収穫量や、1989年の649,000トンの最高記録は、生産効率や気候条件が比較的良好だった結果と考えられます。しかし、2000年代に入ると、気候変動による気象条件の変化や、ヨーロッパ全土で進行する干ばつの影響が顕著になり、特に2016年には386,720トンまで大幅に減少しました。その後2021年にかけても459,090トンと低水準が続き、持続的な生産体制の確立が課題となっています。

このような生産量の変化には、いくつかの背景的な要因があります。一つ目は、気候変動の影響です。スイスはヨーロッパの中心に位置し、アルプス山脈などの地形特徴をもっています。そのため、降水量不足や気温の上昇が生育環境に大きく影響しており、これにより干ばつや強い熱波が生産量の低下を招いていると考えられます。二つ目は、農業における政策的な要素です。EU周辺諸国に比べてスイスの農業は外的要因や補助金の影響を受けやすいです。また、環境保護を重視するスイスの政策が一部では農地面積の制限につながっています。三つ目は、国際市場での競争力や輸入小麦の増加です。外部からの穀物供給が充実している中で、国内生産の優先順位が低くなる場合もあります。

この現状を踏まえ、将来的にはいくつかの対策が必要と考えられます。一つは、気候変動への適応策の強化です。干ばつや豪雨といった極端な気候変動に対応できる農業技術の導入や、耐久性の高い小麦品種の開発・普及が課題です。例えば、オーストラリアの砂漠地帯での高効率農業や、フランスの持続可能農業の成功例を参考にすることは有用です。二つ目は、農業労働者への支援拡充です。技術研修を含めた専門知識の提供や、若い世代への農業支援政策が安定供給の基盤を強化します。三つ目として、国際的な協力フレームワークの活用が重要です。例えば、ヨーロッパ全域の気候に適した農地管理の共有や、輸出入政策の調整は持続可能な農業を支える基盤となります。

さらに、地政学的リスクとも無関係ではありません。スイスは、地政学的に紛争や輸出制限から比較的自由な位置にありますが、ウクライナ危機やその他の地域紛争の影響で、国際市場における穀物価格の変動が地方の農業経済にも波及する可能性があります。このリスクに備え、スイスは輸入依存を一定水準に抑え、自給率を高めるための包括的な政策の見直しが求められます。

最終的には、気候変動と耕作地面積という制約を考慮した上で、いかに持続可能な生産体系を確立するかが鍵となります。農業だけに責任を押し付けるのではなく、国民全体が環境にやさしい農産物を支持し、適切な価格で購入する意識を持つことが、スイスの小麦生産の未来を明るくするでしょう。このような取り組みは他国にとっても参考となる持続的農業のモデルケースに発展する可能性があります。