国際連合食糧農業機関(FAO)が公表したデータによると、1961年から2023年にかけて、シンガポールのココナッツ生産量は大幅に減少し、約13,000トンから120トンとなっています。最も生産量が多かったのは1966年から1968年の期間で、約19,800トンに達しましたが、1990年代以降急速に低下し、2000年代以降は100トン台で推移しています。2023年においては、生産量が120トンと安定は見られるものの、かつての規模には及んでいません。
シンガポールのココナッツ生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 120 |
1.62% ↑
|
2022年 | 118 |
0.94% ↑
|
2021年 | 117 |
-0.2% ↓
|
2020年 | 117 |
-2.98% ↓
|
2019年 | 120 |
6.27% ↑
|
2018年 | 113 |
-3.57% ↓
|
2017年 | 117 |
-8.31% ↓
|
2016年 | 128 |
35.92% ↑
|
2015年 | 94 |
-27.52% ↓
|
2014年 | 130 |
-18.75% ↓
|
2013年 | 160 |
6.67% ↑
|
2012年 | 150 |
14.83% ↑
|
2011年 | 131 |
-2.32% ↓
|
2010年 | 134 |
-2.27% ↓
|
2009年 | 137 |
-1.99% ↓
|
2008年 | 140 |
-1.08% ↓
|
2007年 | 141 |
4.3% ↑
|
2006年 | 135 |
8.62% ↑
|
2005年 | 125 |
-0.54% ↓
|
2004年 | 125 |
-3.36% ↓
|
2003年 | 130 |
-1.94% ↓
|
2002年 | 132 |
4.83% ↑
|
2001年 | 126 |
-9.01% ↓
|
2000年 | 139 |
6.58% ↑
|
1999年 | 130 | - |
1998年 | 130 |
3.17% ↑
|
1997年 | 126 |
-37% ↓
|
1996年 | 200 |
-22.55% ↓
|
1995年 | 258 |
-10.59% ↓
|
1994年 | 289 |
-3.73% ↓
|
1993年 | 300 |
-19.37% ↓
|
1992年 | 372 |
-25.58% ↓
|
1991年 | 500 |
-44.44% ↓
|
1990年 | 900 |
-55% ↓
|
1989年 | 2,000 |
-23.08% ↓
|
1988年 | 2,600 |
-48.82% ↓
|
1987年 | 5,080 |
-6.79% ↓
|
1986年 | 5,450 |
-2.85% ↓
|
1985年 | 5,610 |
-19.28% ↓
|
1984年 | 6,950 |
-3.47% ↓
|
1983年 | 7,200 |
-20% ↓
|
1982年 | 9,000 | - |
1981年 | 9,000 |
-16.67% ↓
|
1980年 | 10,800 | - |
1979年 | 10,800 | - |
1978年 | 10,800 |
-12.9% ↓
|
1977年 | 12,400 |
-6.77% ↓
|
1976年 | 13,300 |
5.56% ↑
|
1975年 | 12,600 | - |
1974年 | 12,600 |
-22.22% ↓
|
1973年 | 16,200 |
-10% ↓
|
1972年 | 18,000 |
-1.96% ↓
|
1971年 | 18,360 |
-2.86% ↓
|
1970年 | 18,900 | - |
1969年 | 18,900 |
-4.55% ↓
|
1968年 | 19,800 | - |
1967年 | 19,800 | - |
1966年 | 19,800 |
80% ↑
|
1965年 | 11,000 | - |
1964年 | 11,000 |
-5.98% ↓
|
1963年 | 11,700 |
-6.4% ↓
|
1962年 | 12,500 |
-3.85% ↓
|
1961年 | 13,000 | - |
データから明らかなように、シンガポールのココナッツ生産量は、1960年代後半にピークを迎えた後、長期的に減少の一途をたどってきました。この現象の背景には、都市化、農地の減少、労働力の変化、さらには気候変動と環境要因が複雑に絡み合っていると考えられます。
1960年代には、農業がまだシンガポールの経済における重要な一部を占めていましたが、1970年代以降、急速な都市開発が進行しました。この都市化によって、ココナッツを含む農地は住宅やインフラの建設へと転用され、ココナッツ生産に適した土地が大きく減少しました。これは、生産設備や関連施設の縮小を加速させた要因となります。
さらに、この過程では農業労働力の減少も重要な要因でした。シンガポールは経済構造が大きく変化し、労働力が工業部門やサービス業に移行しました。その結果、農業分野、とりわけ労働集約的なココナッツ生産に携わる労働者の数が激減しました。また、経済的利益を追求する中で、ココナッツ生産が持つ収益性の低さが次第に見過ごされるようになったことが、この減少を助長しました。
気候変動の影響も無視はできません。ココナッツは主に熱帯地域で栽培される作物で、一定の気温や降水量が必要です。しかし、近年の異常気象や不安定な天候条件は、生産に大きな影響を与えている可能性があります。特にシンガポールでは降水量の変化や気温の上昇が農業生産全般に及ぶ影響が懸念されており、ココナッツ生産も例外ではありません。
2023年時点では、ココナッツの生産量は120トンと比較的安定して推移しているように見えます。しかし一方で、副産物の輸入依存が進んでいます。これはシンガポール経済のグローバル化の一部として不可避である一方、国内生産力の低下という明確な課題を浮き彫りにしています。
今後、この分野での課題に対処するには、国土の限られたシンガポールにおいて農業技術のさらなる革新が求められます。例えば、垂直農業やハイテク温室を利用して、限られた土地面積で生産効率を最大化する試みは重要です。また、近隣諸国との協力を通じてココナッツ製品の安定供給を確保することも、現実的な選択肢と言えるでしょう。この点では、マレーシアやインドネシアなど豊かな資源を持つ隣国と連携することで、将来的なフードセキュリティの確保につながる可能性があります。
また、地政学的リスクとして挙げられるのが、世界的な資源争奪のリスクです。ココナッツは食用や化粧品、さらにはバイオ燃料の原料として利用されるため、需要は今後も高まると考えられています。これに伴い、国際市場での供給不安や価格高騰も予測されます。そのため、シンガポールは安定的な貿易ネットワークの維持、並びに持続可能な貿易政策を策定していく必要があります。
結論として、シンガポールは農業国としての側面を縮小した一方で、技術革新や地域連携を通じて国際市場での競争力を維持する方向が重要になります。国際機関や他国との協力によって、ココナッツの持続可能な生産と利用を追求する政策が今後より具体的に進められる必要があります。ココナッツを取り巻く現状は、シンガポールが直面する広範な課題とその解決策を象徴的に示していると言えるでしょう。