最新のFood and Agriculture Organization(FAO)のデータによると、シンガポールのヤギ肉生産量は、1960年代初頭には30~50トンの範囲で推移していましたが、1970年代後半以降急激に減少しました。その後、1990年代以降は概ね1桁~10トン台の生産量で推移しており、2022年には10トン、2023年には9トンとなっています。このデータは、シンガポールが農業生産国ではなく、都市国家としての性質をどのように反映しているのかを考える上で重要な指標です。
シンガポールのヤギ肉生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
---|---|---|
2023年 | 9 |
-8.98% ↓
|
2022年 | 10 |
2.46% ↑
|
2021年 | 9 |
2.52% ↑
|
2020年 | 9 |
2.13% ↑
|
2019年 | 9 |
8.37% ↑
|
2018年 | 8 |
-9.75% ↓
|
2017年 | 9 |
-6.17% ↓
|
2016年 | 10 |
-7.86% ↓
|
2015年 | 11 |
-12% ↓
|
2014年 | 12 | - |
2013年 | 12 | - |
2012年 | 12 |
9.09% ↑
|
2011年 | 11 | - |
2010年 | 11 | - |
2009年 | 11 | - |
2008年 | 11 | - |
2007年 | 11 |
24.15% ↑
|
2006年 | 9 |
-26.17% ↓
|
2005年 | 12 |
9.09% ↑
|
2004年 | 11 |
37.5% ↑
|
2003年 | 8 |
-38.46% ↓
|
2002年 | 13 |
62.5% ↑
|
2001年 | 8 |
14.29% ↑
|
2000年 | 7 |
16.67% ↑
|
1999年 | 6 |
50% ↑
|
1998年 | 4 |
-20% ↓
|
1997年 | 5 |
25% ↑
|
1996年 | 4 |
-20% ↓
|
1995年 | 5 |
-28.57% ↓
|
1994年 | 7 |
-68.18% ↓
|
1993年 | 22 |
10% ↑
|
1992年 | 20 |
300% ↑
|
1991年 | 5 |
-68.75% ↓
|
1990年 | 16 |
433.33% ↑
|
1989年 | 3 | - |
1988年 | 3 |
-81.25% ↓
|
1987年 | 16 |
100% ↑
|
1986年 | 8 |
700% ↑
|
1985年 | 1 |
-50% ↓
|
1984年 | 2 |
-33.33% ↓
|
1983年 | 3 |
50% ↑
|
1982年 | 2 | - |
1981年 | 2 |
-71.43% ↓
|
1980年 | 7 |
-36.36% ↓
|
1979年 | 11 |
37.5% ↑
|
1978年 | 8 |
-38.46% ↓
|
1977年 | 13 |
-18.75% ↓
|
1976年 | 16 |
33.33% ↑
|
1975年 | 12 |
-55.56% ↓
|
1974年 | 27 |
-20.59% ↓
|
1973年 | 34 | - |
1972年 | 34 |
-20.93% ↓
|
1971年 | 43 |
13.16% ↑
|
1970年 | 38 |
-28.3% ↓
|
1969年 | 53 |
70.97% ↑
|
1968年 | 31 |
3.33% ↑
|
1967年 | 30 |
25% ↑
|
1966年 | 24 |
-29.41% ↓
|
1965年 | 34 |
-30.61% ↓
|
1964年 | 49 |
28.95% ↑
|
1963年 | 38 |
31.03% ↑
|
1962年 | 29 |
-14.71% ↓
|
1961年 | 34 | - |
シンガポールのヤギ肉生産量の推移を見ると、特に1960年代半ばから1970年代後半にかけて生産量が大きく減少しました。この傾向は、シンガポールの地理的・経済的な特性と密接に関連しています。シンガポールは小規模な都市国家であり、国土の限界から大規模な農業や牧畜を行うことが難しい状況にあります。特に、1970年代以降の急速な経済成長に伴う都市化と工業化が進む中で、土地利用が産業や住宅開発に移行したことが主な要因と考えられます。
データからも明らかなように、1980年代以降、ヤギ肉の生産量は1~2トンと低水準で安定期に入りました。その後、1990年代には一時的に20トン近く増加する年も見られますが、以降は急激な変動は見られず、2020年代に至るまで約10トン前後で安定しています。この推移は、シンガポールが国内需要のほとんどを輸入で賄っている状況を反映しています。農業・畜産業の活動が縮小される一方で、国際貿易を通じた輸入品への依存が高まっているのです。
また、シンガポールにおけるヤギ肉の消費需要が特定の文化的背景や食文化に限定されるという点も、生産量の増加を抑制している要因といえます。例えば、隣国マレーシアやインドネシアに比べて、ヤギ肉を主食材とする料理が一般的ではないため、国内需要に応じた生産が限られている可能性があります。
しかしながら、コロナ禍などの外部要因を受け、食料安全保障の観点から国内での畜産生産能力を再評価する必要性が高まっています。シンガポール政府は、最近では食料自給率向上を目指した「30 by 30」政策を掲げ、2030年までに国内食料生産を現在の3倍まで引き上げる計画を進めています。この政策の一環として、小規模で効率的な農業や畜産への投資も視野に入れられています。
将来的には、都市型農業(アーバンファーミング)や先端技術の導入が鍵を握るでしょう。例えば、垂直農場や工場式の畜産施設を活用することで、限られた面積でも生産性を高めることが可能です。さらに、地域間の協力も重要で、近隣諸国との資源共有により、安定的な供給を確保する取り組みが考えられます。
シンガポールのヤギ肉生産量の歴史的な減少とその後の低水準での安定は、都市化や経済成長、さらには地政学的リスクや輸入依存の現実を反映したものです。このデータは、シンガポールが都市国家としての特性を最大限に活かしながら、食料安全保障をどのように確保していくかを考える上で、重要な示唆を与えてくれると言えるでしょう。そして、今後の課題として、持続可能な形での国内生産の強化や、危機時における柔軟な供給ネットワークの構築が求められると考えられます。