国際連合食糧農業機関(FAO)が2024年に更新した最新データによると、シンガポールの牛飼養数は、1960年代の7,000頭超から長期にわたって大幅な減少を見せ、その後、2000年代以降はおおむね200頭以下の水準にとどまっています。この傾向は、都市化による土地利用の変化や経済構造の転換による影響が大きいと考えられます。
シンガポールの牛飼養数推移(1961年~2023年)
| 年度 | 飼養数(頭) | 増減率 |
|---|---|---|
| 2023年 | 178 |
-2.2% ↓
|
| 2022年 | 182 |
-0.55% ↓
|
| 2021年 | 183 |
-0.54% ↓
|
| 2020年 | 184 |
0.55% ↑
|
| 2019年 | 183 |
-0.54% ↓
|
| 2018年 | 184 |
-2.65% ↓
|
| 2017年 | 189 | - |
| 2016年 | 189 |
6.78% ↑
|
| 2015年 | 177 |
-11.5% ↓
|
| 2014年 | 200 | - |
| 2013年 | 200 | - |
| 2012年 | 200 | - |
| 2011年 | 200 | - |
| 2010年 | 200 | - |
| 2009年 | 200 | - |
| 2008年 | 200 | - |
| 2007年 | 200 | - |
| 2006年 | 200 | - |
| 2005年 | 200 | - |
| 2004年 | 200 | - |
| 2003年 | 200 | - |
| 2002年 | 200 | - |
| 2001年 | 200 | - |
| 2000年 | 200 | - |
| 1999年 | 200 |
100% ↑
|
| 1998年 | 100 |
-50% ↓
|
| 1997年 | 200 |
-50% ↓
|
| 1996年 | 400 |
100% ↑
|
| 1995年 | 200 |
-50% ↓
|
| 1994年 | 400 | - |
| 1993年 | 400 | - |
| 1992年 | 400 | - |
| 1991年 | 400 | - |
| 1990年 | 400 | - |
| 1989年 | 400 | - |
| 1988年 | 400 | - |
| 1987年 | 400 |
14.29% ↑
|
| 1986年 | 350 |
-16.67% ↓
|
| 1985年 | 420 |
-35.38% ↓
|
| 1984年 | 650 |
-35% ↓
|
| 1983年 | 1,000 | - |
| 1982年 | 1,000 | - |
| 1981年 | 1,000 | - |
| 1980年 | 1,000 | - |
| 1979年 | 1,000 | - |
| 1978年 | 1,000 | - |
| 1977年 | 1,000 | - |
| 1976年 | 1,000 |
-50% ↓
|
| 1975年 | 2,000 |
-20% ↓
|
| 1974年 | 2,500 |
-16.67% ↓
|
| 1973年 | 3,000 |
20% ↑
|
| 1972年 | 2,500 |
-16.67% ↓
|
| 1971年 | 3,000 |
-40% ↓
|
| 1970年 | 5,000 |
-16.67% ↓
|
| 1969年 | 6,000 |
-16.01% ↓
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| 1968年 | 7,144 | - |
| 1967年 | 7,144 |
0.42% ↑
|
| 1966年 | 7,114 | - |
| 1965年 | 7,114 | - |
| 1964年 | 7,114 | - |
| 1963年 | 7,114 | - |
| 1962年 | 7,114 | - |
| 1961年 | 7,114 | - |
シンガポールは、国土面積が約728平方キロメートルと非常に限られている小さな都市国家であり、その経済基盤は金融、貿易、サービス業に依存しています。このような背景において、シンガポールの牛飼養数は、1960年代から急速に減少してきた歴史があります。1961年から1968年までは約7,114頭でほぼ横ばいを示していましたが、1969年を境に減少傾向が顕著となり、1970年代後半には1,000頭を下回りました。その後も減少は続き、1990年代以降は主に200頭以下、直近では2022年に182頭という極めて低い水準に到達しています。
この減少の背景には、シンガポールの急速な都市化と農業部門の衰退が大きく関係しています。シンガポールは土地面積が限られており、農業に使用できる耕地面積が都市計画や工業化の進行とともに縮小してきました。その結果、牛の牧畜のような土地集約型の産業は徐々に姿を消し、輸入肉や乳製品に依存する方向へとシフトしてきたのです。例えば、現在、シンガポールの牛肉や乳製品の需要は、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカなどからの輸入でほぼ完全に賄われています。
さらに、牛飼養数の減少には地政学的なリスクや経済政策の要素も関連している可能性があります。シンガポールは食料安全保障の観点から、貯蔵施設や輸入物流のインフラ強化に注力してきた反面、自国での牧畜業の持続的な発展には至っていません。また、疫病の流行(たとえば口蹄疫など)は、各国が牛の輸入や輸出、あるいは畜産そのものに影響を与える要因となり得るため、シンガポールが飼養を縮小せざるを得ない状況を一層助長してきたと考えられます。
2022年には182頭という記録的に少ない牛飼養数にとどまり、現在では畜産業はシンガポールの経済的基盤としてほぼ影響力を持たなくなっています。ただし、食料安全保障の観点からは、畜産業や家畜飼養の完全な消失は一部の予測においてリスク要因としても指摘されています。例えば、グローバルなサプライチェーンの中断や食糧高騰が発生する場合、自国での小規模な家畜飼養がむしろ緊急時の供給源として重要な役割を果たし得ることが考えられるためです。
対策としては、都市農業や垂直農業など、土地使用が最小限で済む牧畜技術の導入が一案として挙げられます。また、地域協力の枠組みの強化を通じて、周辺国からの安定的な食料供給を確保する取り組みも必要でしょう。加えて、シンガポール国内では、持続可能性を考慮した高付加価値な家畜製品の生産に特化することも戦略の一つと考えられます。これにより畜産業の規模は最小限ながらも、地元産品のブランディングや観光産業とのコラボレーションといった付加価値を創出することも可能となるでしょう。
総じて、シンガポールの牛飼養数の推移は、都市国家としての特徴や政策の転換を反映した興味深い事例といえます。データが示している現状を踏まえ、地球規模の食料システムの変化に直面する中で、競争力を維持し、食料供給の安定を確保するための取り組みをさらに推進することが求められていると言えます。