インドネシアで大人気「まさこ」「さおり」「まゆみ」は何者?食卓のスター
インドネシアのスーパーマーケットには、「Masako」「Saori」「Mayumi」のパッケージが並びます。これらは日本人女性の名前と同じですが、Ajinomoto Indonesiaが製造する調味料のブランド。スープの素、ソース、マヨネーズとして、家庭料理に欠かせません。驚くことに、老若男女問わず愛され、性別のイメージにとらわれない存在です。
- Masako:鶏や牛のエキスを凝縮したスープの素。カレーやスープに深みを。
- Saori:甘辛い照り焼き風ソースやオイスターソース。肉料理や炒め物の味付けに。
- Mayumi:濃厚なマヨネーズ。サラダやディップに最適。
これらは「料理をおいしくする相棒」として、インドネシアの食文化に根付いています。
なぜ“まさこ”?名前のブランディング戦略
「Masako」の名は、インドネシア語の「Masak(料理する)」に由来するとされます。そこに日本風の「子」を加え、親しみやすさと品質を両立。「Saori」は、日本語の「沙織」など柔らかい響きから、オリエンタルな味わいと日本らしさを訴求するために選ばれたと考えられます。同様に「Mayumi」は、「真弓」や「麻由美」の上品なイメージを借り、クリーミーなマヨネーズの信頼感を演出したと推測されます。以下の戦略が成功を支えました。
- 覚えやすさ:短く発音しやすい名前で、消費者の記憶に残る。
- 日本への信頼:日本製を連想させ、品質への安心感を醸成。
- 家庭の温かみ:日本の女性名で、親しみやすさを演出。
このブランディングは文化の違いを巧みに活用。インドネシアではこれらの名前に女性名の先入観が少なく、「おいしさの象徴」として受け入れられています。
食卓に溶け込む親しみやすさ
「Masako」「Saori」「Mayumi」は、インドネシアの家庭料理に欠かせない存在です。
- 「Masako」は、スープや炒め物にひと振りで深いコクを加え、忙しい主婦や屋台のシェフに重宝されます。
- 「Saori」は、甘辛いナシゴレン(炒飯)やサテ(串焼き)の味付けに活躍し、子どもから大人まで幅広い層に人気。
- 「Mayumi」は、サラダやガドガド(野菜のピーナッツソース和え)にクリーミーな風味を添えます。
現地のレシピサイトやSNSでは、これらを使った簡単レシピが共有され、日常の食卓に深く浸透。日本の名前がインドネシアの食文化と融合し、親しみやすい存在として愛されています。
「Masako」誕生秘話:農村から国民的ブランドへ
「Masako」の開発は1980年代後半、インドネシア味の素社に駐在していた深見賢治氏によって始まりました。当時のインドネシア調味料市場では欧米メーカー製の「Royco」が広く流通していましたが、深見氏はあえて農村部の家庭にターゲットを定め、「生活に余裕がなくても、毎日おいしいチキン味の料理が食べられる」ことを目指しました。
当時はまだ、味の素現地法人に商品開発部門もなかった中、深見氏は日本とインドネシアを往復し、現地の食文化を徹底的に調査。完成試作品を持ってスタッフと共にジャワ島やバリ島の農村部・都市部を巡るキャラバンを敢行。1カ月にわたるフィールドテストを経て、「Masako」は1989年に正式発売されました。
現在では、同製品は調味料市場で60%以上のシェアを誇るインドネシアの“国民的ブランド”として、毎日の食卓に欠かせない存在となっています。
(出典:味の素株式会社 公式ストーリーサイト)
おまけ:「masak」にまつわるインドネシアのことわざ
インドネシアには「masak malam, mentah pagi」ということわざがあります。「夜に熟し、朝には生に戻る」──「物事は変わりやすい」という意味です。
このことわざは、計画や状況が一夜にして変わる不安定な場面で使われます。
例えば、ビジネスの交渉が夜にはまとまったと思っても、朝には条件が変わる場合や、方針やルール、計画が頻繁に変更されるとき、意見がすぐに変わるとき際に使われます。
「まさこ」がインドネシアの食卓で輝くのは、文化とマーケティングが奇跡的に交差した結果です。インドネシア語の「Masak(料理)」に着想を得た巧みなブランディングが、親しみやすさと信頼感を生み出し、日本人女性の名前を「おいしさ」のシンボルに変えました。農村の食卓から始まり、1989年の発売以来、調味料市場の60%以上を占める国民的ブランドへと成長。その背景には、現地の食文化を尊重した開発努力があります。この名前のギャップは、日本とインドネシアをつなぐ「おいしい架け橋」に。
スーパーで「Masako」のパッケージを見かけたら、その裏に隠された言語と食の物語を思い出してください。