トイレとは?国家戦略の視点から読み解く
私たちが日常的に使っている「トイレ」ですが、世界ではこのインフラが国家戦略の一部として位置づけられている国が存在します。たとえば日本では、世界最高水準とも言われる清潔な公衆トイレを都市部に整備し、観光客誘致・高齢社会対応・テクノロジーの発信という多方面にわたる戦略を展開。さらに、SDGs(持続可能な開発目標)の「安全な水と衛生」達成に向けて、各国も独自のトイレ政策を強化しています。
トイレを国家戦略に?日本の「おもてなし戦略」が世界をリード
テクノロジー×衛生で観光資源に昇華
観光庁や国土交通省は、訪日観光客の満足度向上施策の一環として「快適トイレ整備事業」(トイレの洋式化)を推進。2017年からの「世界に誇れる日本のトイレプロジェクト」では、デザイン性の高い個室や多言語案内、ウォシュレットの導入が進められ、トイレ自体が訪日客の話題となる観光資源に進化しました。
高齢者・外国人にも配慮した「ユニバーサル設計」
日本政府は「超高齢社会」に向けて、バリアフリー設計の多目的トイレ普及も進行中。加えて、2020年の東京五輪では、外国人対応を強化すべく、アイコン表示や清掃ロボットの導入なども行われました。これらの施策は、国の包括的社会設計とリンクしたインクルーシブ戦略とも言えます。
スマートトイレで都市の未来を設計する:シンガポールと韓国のケース
シンガポール:トイレで「国民のマナー」を育てる
「清潔国家」として知られるシンガポールでは、政府が主導する「Restroom Association Singapore」による市民教育が行われ、公共トイレの清掃スキルや利用マナーが小学校から教えられています。この背景には、「清潔な空間が国民意識を育て、観光や投資に好影響をもたらす」というトイレを通じた国民教育=ナショナルブランド強化の狙いがあります。
韓国:IoTで「つながるトイレ」を構築中
韓国では、IoT(モノのインターネット)を活用した「スマート公衆トイレ」政策が進行中。センサーで混雑状況を把握したり、スマホアプリでトイレの場所・清潔度・空き情報まで取得できる仕組みを整備。これはスマートシティ推進戦略の一環であり、都市生活のQoL(生活の質)向上に寄与しています。
環境先進国は「トイレの水」で未来を変える:北欧とオランダの挑戦
オランダ:節水×再利用で環境負荷を削減
水資源の乏しいオランダでは、節水型トイレの普及が国家プロジェクトとして進行。加えて、排泄物を分解してエネルギーに転換する処理施設を都市単位で導入しており、トイレが都市の循環型社会の中心に位置づけられています。
スウェーデン・フィンランド:脱炭素型トイレで森林資源を守る
北欧では「コンポストトイレ(堆肥化トイレ)」の活用が進み、電気・水道インフラに依存しない山岳・森林地帯のサステナブル利用が可能に。これは観光開発と自然保全を両立する国家政策に通じており、観光×環境×インフラ整備の戦略的三位一体モデルです。
「トイレ」という外交カード:国際影響力を高める一手
国連が定めた「世界トイレの日(11月19日)」には、毎年170か国以上が衛生の重要性を訴えるイベントを実施。日本やシンガポールは積極的に参加し、発展途上国への技術支援やトイレ設計ノウハウの提供を通じて、衛生外交の一環として国際的な地位向上を図っています。
【関連Youtube動画】2024年の世界トイレデー:トイレは平和の場所です。(World Toilet Day 2024: Toilets are a place for peace.)
(United Nations Water)
トイレは、もはや「ただの個室」ではありません。国家の清潔意識、技術力、社会包摂力、環境意識、そして外交戦略までもが、トイレという空間を通して可視化されているのです。旅行先でのトイレ体験が、その国への印象を左右することは間違いありません。
次に海外を訪れる際は、ぜひその国のトイレに注目してみてください。
きっと、文化や国家戦略の「真髄」が見えてくるはずです。