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エルサルバドル、危険の烙印を押された理由とは?

 エルサルバドルは「世界でもっとも危険な国」として知られることが多いですが、その背景にはどのような歴史と現実があるのでしょうか。本記事では、エルサルバドルがそのような評価を受ける理由について掘り下げていきます。

内戦の爪痕とギャングの闇:歴史が紡いだエルサルバドルの現実

 エルサルバドルの危険性は、主にその暴力犯罪の多さと関連しています。この状況を理解するためには、まずその歴史的背景を知る必要があります。

・内戦とその影響
 エルサルバドルは1980年代に約12年間続いた内戦を経験しました。この内戦では、政府軍と左翼ゲリラ組織が対立し、7万人以上が命を落としました。内戦後も和平合意に基づいて武装解除が進められたものの、武器が完全に回収されることはなく、多くの元兵士が暴力に関与する道を選びました。

・ギャング問題の深刻化
 内戦終了後、多くのエルサルバドル人がアメリカ合衆国に移住しましたが、そこで新たに形成されたギャング組織、特にMS-13(マラスルチャトレセ)とバリオ18が、エルサルバドルに逆輸入されました。これらの組織は、恐喝、麻薬取引、殺人などの犯罪行為を展開し、国内の治安を悪化させています。

世界の殺人地図に刻まれたエルサルバドルの現実

 エルサルバドルが危険とされる主な要因は、他国と比較しても非常に高い殺人率です。2015年には6,656件の殺人事件が発生し、10万人あたり103人の世界で最も高い値となりました。その後の政府の治安対策により減少傾向にはあり、近年では殺人件数が過去最低の114件(2024年)まで低下しました。この結果、エルサルバドルは中南米で最も安全な国の一つと評価されています。

・治安悪化の要因
 治安が悪化した背景には、経済的な困窮と雇用の欠如が挙げられます。若者が教育や仕事の機会を得られず、ギャングに勧誘されることが多いのです。

・近隣諸国との比較
 中米地域全体で見ると、ホンジュラスやグアテマラなども同様の問題を抱えていますが、エルサルバドルの人口密度の高さが犯罪被害の深刻化を助長しているとも言えます。

世界一危険な国が選んだ治安回復の道

 2019年に就任したナジブ・ブケレ大統領のもと、エルサルバドルでは劇的な治安改善が進みました。警察と軍の装備を強化し、ギャングの排除を推進。この改革により住民の安全が回復しました。

・住民の証言
 かつてギャングに支配された地域「コロニー」では、住民が自由に移動できるようになりました。タクシー運転手は、「みかじめ料がなくなり、自由が戻った」と語っています。

・統計が示す成果
 殺人件数が2015年には6,656件、2018年3,300件超、2024年には114件まで減少し、カナダに次ぐ安全な国と評価されています。

世界一危険な国が目指す経済と社会の安定

 ブケレ政権は治安改善に続き、経済と社会の安定にも力を注いでいます。

・経済開発の推進
 外国投資の誘致やビットコイン導入で新たな経済活性化を目指しています。

・地域協力の強化
 中米諸国間で越境犯罪の取り締まりを強化し、犯罪ネットワークを断ち切る努力が進んでいます。

・ギャング撲滅作戦
 政府はギャング対策として大規模な軍事作戦を実施し、治安部隊の強化を図っています。しかし、こうした強硬策には人権侵害の懸念もつきまとっています。

他国に見る課題と解決策のヒント

エルサルバドルの治安問題を他国と比較することで、新たな視点や解決のヒントが得られます。

・南アフリカとの類似点
 南アフリカもエルサルバドルと同様に、暴力犯罪が深刻な課題です。いずれの国も、歴史的な不平等と社会的分断が犯罪率の高さにつながっています。

・北欧諸国との対照
 一方で、北欧諸国は社会福祉が充実しており、犯罪率が低いことで知られています。エルサルバドルとの対比からは、福祉政策の重要性が浮かび上がります。

 エルサルバドルが「世界でもっとも危険な国」とされる背景には、内戦の後遺症、経済的困窮、そしてギャング問題が複雑に絡み合っています。しかし、現在の政府の取り組みや地域協力には希望が見出せます。

 この国が直面する課題は深刻ですが、その歴史と現実を正しく理解し、国際社会が支援することで、より安全で安定した未来を築くことができるかもしれません。