Food and Agriculture Organization(国際連合食糧農業機関)が発表した2024年7月更新のデータによると、北マケドニアにおける羊の毛生産量は、1990年代初頭には年間2,000~3,000トン台を維持していたものの、その後減少傾向が続き、近年では800トン前後に落ち着いています。2021年と2022年ではわずかな回復が見られるものの、全体的には長期低迷が続いています。
北マケドニアの羊の毛生産量推移(1961-2022)
年度 | 生産量(トン) |
---|---|
2022年 | 823 |
2021年 | 865 |
2020年 | 769 |
2019年 | 844 |
2018年 | 990 |
2017年 | 1,359 |
2016年 | 851 |
2015年 | 955 |
2014年 | 829 |
2013年 | 841 |
2012年 | 897 |
2011年 | 975 |
2010年 | 1,025 |
2009年 | 951 |
2008年 | 1,018 |
2007年 | 1,113 |
2006年 | 2,106 |
2005年 | 1,791 |
2004年 | 3,176 |
2003年 | 2,003 |
2002年 | 1,914 |
2001年 | 1,917 |
2000年 | 1,920 |
1999年 | 1,996 |
1998年 | 1,732 |
1997年 | 2,631 |
1996年 | 2,473 |
1995年 | 2,952 |
1994年 | 3,147 |
1993年 | 2,840 |
1992年 | 2,642 |
北マケドニアの羊の毛生産量の推移を見ると、1992年の2,642トンを皮切りに、1994年には3,147トンに達し、この時期が生産のピークであったと考えられます。しかし、1996年には約2,473トンと減少を見せ始め、その後も断続的に下がり続けています。特に1990年代後半から2000年代初頭にかけては1,700~2,000トン前後で推移し、安定性の喪失が見られます。2004年には一時的に3,176トンまで回復しましたが、この短期間の上昇は例外的なものであり、全体としては長期的な減少傾向が明確です。
さらに深刻なのは、2007年以降の状況です。2007年に1,113トンに落ち込むと、それ以降の値は1,000トンを下回る年も多く、近年では800トン台で推移している状態です。2021年には865トン、2022年には823トンであり、この落ち込みは継続的なものと理解されます。この長期的な減少傾向は、北マケドニアにおける牧畜業の持続可能性の課題を顕著に示しており、現地の農村経済や労働市場に深刻な影響を及ぼしている可能性があります。
この減少には、いくつかの要因が影響していると考えられます。まず、経済的な要因として、羊毛市場の国際需要の低迷が挙げられます。合成繊維の普及によって天然羊毛の需要が減少したことが、北マケドニアの生産量低下の要因の一つと考えられます。また、農業部門の技術革新の遅れや、農村人口の都市部への流出も、生産効率の向上を妨げる要因となっています。加えて、2000年代以降の気候変動とその影響により、羊毛生産に適した気候条件が変化し、牧場環境にも悪影響を与えていることが考えられます。
地政学的な背景を考慮することも重要です。北マケドニアはバルカン半島の一部であり、この地域では過去数十年にわたって複雑な政治的・経済的状況が続いてきました。特に1990年代のバルカン紛争やその後の経済的混乱は、牧畜業を含む各産業に負の影響を与えました。これにより農業政策の整備が遅れたことが、羊毛生産量の減少を加速させた可能性があります。
この状況に対処するためには、複数の対策が検討されるべきです。まず、牧場環境の改善と技術支援を通じて、羊毛生産の効率化を図ることが求められます。また、北マケドニア産の羊毛を高付加価値商品として位置づけることで、国内外の市場における競争力を高めることが可能です。このためには、ブランド化の推進や、羊毛製品を観光土産や高級消費材として展開する施策が考えられます。さらに、地域の農村開発計画と連動して、羊毛生産業と地域経済の結びつきを強化することも有益でしょう。
未来への持続可能性を考えると、国際的な技術協力の推進や輸出拡大のためのインフラ整備も重要です。また、気候変動への適応方針を立てることで、長期的に安定した牧畜業の基盤を構築する必要があります。このような具体的対策を組み合わせることで、北マケドニアの羊毛生産業は再び活気を取り戻し、地域経済の発展に寄与する可能性を秘めています。