国際連合食糧農業機関(FAO)が発表したパキスタンの羊の毛生産量データによると、1961年から2022年までの生産量は全体的に増加傾向を示しています。特に1960年代から1980年代にかけては顕著な伸びを記録し、1986年には50,335トンと最初のピークを迎えました。その後、1996年から低迷期に入り、38,100トンまで下がりましたが、2004年以降は回復基調にあり、ここ数年は43,000トン台を維持しています。近年、生産量が減少傾向を示しており、持続可能な生産の重要性が増しています。
パキスタンの羊の毛生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 42,846 |
-1.52% ↓
|
2022年 | 43,510 |
0.05% ↑
|
2021年 | 43,490 |
-0.15% ↓
|
2020年 | 43,555 |
0.08% ↑
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2019年 | 43,520 |
-3.38% ↓
|
2018年 | 45,043 |
-1.44% ↓
|
2017年 | 45,700 |
1.33% ↑
|
2016年 | 45,100 |
1.12% ↑
|
2015年 | 44,600 |
1.13% ↑
|
2014年 | 44,100 |
1.15% ↑
|
2013年 | 43,600 |
1.4% ↑
|
2012年 | 43,000 |
1.18% ↑
|
2011年 | 42,500 |
1.19% ↑
|
2010年 | 42,000 |
1.11% ↑
|
2009年 | 41,540 |
1.32% ↑
|
2008年 | 41,000 |
0.99% ↑
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2007年 | 40,600 |
1.25% ↑
|
2006年 | 40,100 |
0.25% ↑
|
2005年 | 40,000 |
0.25% ↑
|
2004年 | 39,900 |
0.5% ↑
|
2003年 | 39,700 |
0.76% ↑
|
2002年 | 39,400 |
0.51% ↑
|
2001年 | 39,200 |
0.77% ↑
|
2000年 | 38,900 |
0.52% ↑
|
1999年 | 38,700 |
0.52% ↑
|
1998年 | 38,500 |
0.52% ↑
|
1997年 | 38,300 |
0.52% ↑
|
1996年 | 38,100 |
-28.38% ↓
|
1995年 | 53,200 |
2.71% ↑
|
1994年 | 51,797 |
2.5% ↑
|
1993年 | 50,536 |
2.49% ↑
|
1992年 | 49,306 |
2.49% ↑
|
1991年 | 48,106 |
2.49% ↑
|
1990年 | 46,935 |
2.5% ↑
|
1989年 | 45,792 |
2.49% ↑
|
1988年 | 44,678 |
-15.96% ↓
|
1987年 | 53,162 |
5.62% ↑
|
1986年 | 50,335 |
5.6% ↑
|
1985年 | 47,665 |
5.61% ↑
|
1984年 | 45,134 |
5.7% ↑
|
1983年 | 42,700 |
4.91% ↑
|
1982年 | 40,700 |
4.63% ↑
|
1981年 | 38,900 |
-8.68% ↓
|
1980年 | 42,597 |
8.5% ↑
|
1979年 | 39,261 |
8.5% ↑
|
1978年 | 36,186 |
8.49% ↑
|
1977年 | 33,353 |
8.5% ↑
|
1976年 | 30,741 |
8.5% ↑
|
1975年 | 28,334 |
8.5% ↑
|
1974年 | 26,115 |
8.5% ↑
|
1973年 | 24,070 |
2.05% ↑
|
1972年 | 23,587 |
15.55% ↑
|
1971年 | 20,412 |
4.68% ↑
|
1970年 | 19,500 | - |
1969年 | 19,500 | - |
1968年 | 19,500 | - |
1967年 | 19,500 |
2.09% ↑
|
1966年 | 19,100 | - |
1965年 | 19,100 | - |
1964年 | 19,100 |
2.69% ↑
|
1963年 | 18,600 |
5.08% ↑
|
1962年 | 17,700 |
16.45% ↑
|
1961年 | 15,200 | - |
パキスタンにおける羊の毛生産量の推移は、国内畜産業の変遷や経済状況、地政学的背景を如実に反映するものです。データが示しているように、1960年代から1980年代の前半は生産量が急激に増加しました。この時期は、農村部での畜産振興が進み、国内外の羊毛需要が高まったことが背景にあると考えられます。特に1986年の50,335トンという記録は、多くの要因が重なった結果といえます。政策的にもこの時期、農業や畜産業への投資が行われていました。
しかし、1990年代以降は人口増加による土地利用の競争、多発する自然災害、さらには地域紛争などの要因が畜産業に影響を及ぼし、生産量が低迷しました。特に1996年の38,100トンは、干ばつやインフラの不備が原因とされ、畜産業者に大きな打撃を与えたのです。2000年代に入って土地や水資源の有限性が問題視される中、政策的な支援が一部行われ、回復基調を見せました。しかし2019年以降は再び減少に転じており、特に新型コロナウイルス感染症の影響も考慮しなければなりません。
パキスタンは地政学的に重要な位置にあり、周辺国との経済、気候、貿易の影響を受けやすい状況にあります。例えば、中国、インドといった隣国では、政策的な近代化や畜産業の効率化が進んでおり、競争力の面で遅れを取る可能性があります。このままでは、パキスタンの羊毛産業は国際市場での地位を脅かされる恐れがあります。
具体的な課題としては、まず生産性の向上が挙げられます。パキスタンでは多くの羊毛が伝統的な方法で生産されており、効率の向上につながる近代的な技術の導入が進んでいません。また羊毛生産に適した栄養豊富な牧草の不足や、品質の向上に向けた投資の欠如も問題です。そして自然災害や気候変動の影響に対応するため、持続可能な牧草地の管理や水利用効率の向上が急務です。
これらの問題を解決するためには、政府と民間セクターが一体となり、近代的な畜産技術の導入や現地農村への適切な投資を促進する政策を実施する必要があります。また、国際機関との連携を強化し、技術支援の獲得や市場へのアクセスを向上させることも重要です。具体的には、畜産業者に対する教育プログラムの実施、牧草管理技術の普及、そして気候変動対策を見据えた灌漑システムの整備などが挙げられます。
結論として、パキスタンの羊の毛産業は過去において高い生産力を示したものの、現在では多くの課題に直面しています。この産業が再び活性化するためには、従来の方法から脱却し、近代的な技術や国際的な支援を活用した持続可能な発展モデルへの転換が必要不可欠です。これにより、国内経済だけでなく地域全体への貢献も期待できるでしょう。