国際連合食糧農業機関(FAO)が発表したデータによると、インドにおける羊の毛の生産量は1961年から2022年までの間に波動的な変化を見せています。1961年には32,600トンであった生産量は、1990年代にかけて増加基調を示し、2002年には50,500トンというピークを迎えました。しかし、その後は減少傾向が見られ、最新の2022年には36,374トンにまで落ち込んでいます。このデータは、インドの羊毛生産が環境や社会的要因の影響を受けてきたことを示しています。
インドの羊の毛生産量推移(1961-2022)
年度 | 生産量(トン) |
---|---|
2022年 | 36,374 |
2021年 | 37,977 |
2020年 | 33,667 |
2019年 | 36,700 |
2018年 | 40,400 |
2017年 | 41,500 |
2016年 | 43,500 |
2015年 | 43,600 |
2014年 | 48,140 |
2013年 | 47,909 |
2012年 | 46,100 |
2011年 | 44,700 |
2010年 | 42,991 |
2009年 | 43,224 |
2008年 | 42,901 |
2007年 | 44,018 |
2006年 | 45,085 |
2005年 | 44,900 |
2004年 | 44,600 |
2003年 | 48,500 |
2002年 | 50,500 |
2001年 | 49,500 |
2000年 | 48,400 |
1999年 | 47,900 |
1998年 | 46,900 |
1997年 | 45,600 |
1996年 | 44,400 |
1995年 | 42,400 |
1994年 | 40,600 |
1993年 | 39,900 |
1992年 | 38,800 |
1991年 | 41,600 |
1990年 | 41,200 |
1989年 | 41,700 |
1988年 | 40,800 |
1987年 | 40,100 |
1986年 | 40,000 |
1985年 | 39,100 |
1984年 | 38,000 |
1983年 | 36,100 |
1982年 | 34,500 |
1981年 | 33,100 |
1980年 | 32,000 |
1979年 | 30,900 |
1978年 | 33,000 |
1977年 | 34,000 |
1976年 | 32,100 |
1975年 | 31,000 |
1974年 | 30,500 |
1973年 | 30,100 |
1972年 | 35,169 |
1971年 | 39,000 |
1970年 | 36,000 |
1969年 | 35,000 |
1968年 | 29,800 |
1967年 | 37,000 |
1966年 | 35,000 |
1965年 | 33,700 |
1964年 | 33,400 |
1963年 | 33,200 |
1962年 | 32,900 |
1961年 | 32,600 |
1961年から2022年までのインドの羊毛生産量データを分析すると、この60年以上にわたる推移にはいくつかの段階的な変化が見られます。特に、1960年代から1990年代中盤にかけては生産量が安定的に成長しており、2002年の50,500トンという数値は、この期間のインド経済や農村地域の発展が反映されています。この間、羊飼育技術の改善や需要の増加が生産の伸びを支えたと考えられます。
ところが、2000年代以降、羊毛生産量は減少に転じています。これは、いくつかの複雑な要因が絡み合った結果と言えるでしょう。たとえば、インド農村部での土地利用の変化がひとつ挙げられます。急速な都市化と工業化の進展により、牧草地が減少し、羊の放牧環境が悪化しました。さらに、気候変動が農業に与える影響も無視できません。降水量の不規則化や気温の上昇が羊の健康状態や放牧条件に影響を与えた可能性があります。
2017年以降のデータでは特に急激な減少が見られ、2020年には33,667トンまで落ちています。この減少は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる影響が大きかったと考えられます。パンデミックに伴う移動制限や需給バランスの乱れが、牧畜業や生産活動を停滞させた可能性があります。また、2010年代後半の生産量低下は、インド国内での羊毛需要が化学繊維に圧されて相対的に減少している現状を示唆しているかもしれません。化学繊維の台頭は価格面で羊毛製品との競争を激化させ、羊毛生産に直接的な影響を及ぼしたと考えられます。
このデータは、インドが直面している課題を鮮明に示しています。まず、持続可能な牧場管理と地元農家の支援が急務です。具体的には、牧草地の保全や気候変動に適応した新しい飼育方式の導入が求められます。また、羊毛の品質向上を支援する技術的支援や、貿易拡大策を講じることが必要です。さらに、農村と都市間の産業協力を強化し、インド国内外での羊毛製品市場の需要を活性化させることも効果的です。
他国と比較すると、日本や韓国などの国々では、産業規模こそ小さいものの、高品質の羊毛製品の需要が安定して存在しています。これに対して中国やアメリカは、生産規模と大量消費のバランスをとりながら羊毛産業を発展させています。インドもこれらの国々の成功例から学び、地域間協力を進めることで羊毛産業の活性化を図るべきです。
地政学的なリスクも無視できません。羊毛生産の主要地域が、気候変動や地域紛争のリスクが高い地域に集中している場合、供給チェーンの分断や生産ロスが発生しやすくなります。このようなリスクを軽減するためには、輸送インフラの効率化や、農業・牧畜業の多様化を進める必要があります。
インドにおける羊毛生産の回復には、環境・社会的課題への包括的な対応が必要です。政府や国際機関は農村部への支援策を拡充し、技術革新や市場改革を通じて、持続可能な成長を目指すべきです。これによって、インドの羊毛産業は長期的な安定を取り戻すことができるでしょう。