国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新のデータによると、ボスニア・ヘルツェゴビナの羊肉生産量は過去30年以上にわたり浮き沈みを繰り返しています。特に1990年代は内戦の影響で大幅に減少し、1997年には580トンという最低値を記録しました。その後は一時的な回復を見せ、2011年には2,331トンとピークを迎えたものの、近年は2020年の926トンなど再び下降傾向が見られています。2023年時点の生産量は1,365トンで、これまでの平均を下回る状況です。
ボスニア・ヘルツェゴビナの羊肉生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 1,365 |
21.04% ↑
|
2022年 | 1,128 |
-15.34% ↓
|
2021年 | 1,332 |
43.84% ↑
|
2020年 | 926 |
-33.52% ↓
|
2019年 | 1,393 |
-3.53% ↓
|
2018年 | 1,444 |
10.74% ↑
|
2017年 | 1,304 |
2.03% ↑
|
2016年 | 1,278 |
-6.44% ↓
|
2015年 | 1,366 |
-7.95% ↓
|
2014年 | 1,484 |
1.09% ↑
|
2013年 | 1,468 |
-35.33% ↓
|
2012年 | 2,270 |
-2.62% ↓
|
2011年 | 2,331 |
16.49% ↑
|
2010年 | 2,001 |
25.77% ↑
|
2009年 | 1,591 |
-1.91% ↓
|
2008年 | 1,622 |
-5.09% ↓
|
2007年 | 1,709 |
-9.77% ↓
|
2006年 | 1,894 |
11.02% ↑
|
2005年 | 1,706 |
14.8% ↑
|
2004年 | 1,486 |
-0.93% ↓
|
2003年 | 1,500 |
3.45% ↑
|
2002年 | 1,450 |
24.46% ↑
|
2001年 | 1,165 |
-20.21% ↓
|
2000年 | 1,460 |
5.95% ↑
|
1999年 | 1,378 |
6.9% ↑
|
1998年 | 1,289 |
122.24% ↑
|
1997年 | 580 |
-43.69% ↓
|
1996年 | 1,030 |
-3.74% ↓
|
1995年 | 1,070 |
-10.83% ↓
|
1994年 | 1,200 |
-25% ↓
|
1993年 | 1,600 |
-15.79% ↓
|
1992年 | 1,900 | - |
ボスニア・ヘルツェゴビナにおける羊肉生産量の推移は、同国の政治的、地政学的、経済的な背景を強く反映しています。特に1992年から1995年にかけて発生したボスニア内戦では、農業生産基盤が大きな損害を受け、羊肉生産量は1992年の1,900トンから1997年の580トンまで急激に減少しました。この期間、家畜の損失や農地の荒廃、インフラストラクチャの破壊が要因となり、動物飼育の維持が困難な状況に陥りました。
その後、戦後復興の進展により生産が徐々に回復し、2011年には2,331トンと過去最大に達しました。この時期にはEUや国際機関からの支援を受けて畜産業の復興が進み、生産技術や流通網の改善が行われました。しかし、2012年以降は再び減少が始まり、2020年には新型コロナウイルス感染症の拡大で市場需要が低迷したこと、また物流網の制約が重なり、926トンまで落ち込みました。パンデミック後の軽い回復は見られたものの、2023年には1,365トンと依然として低迷しています。
この国の羊肉生産を取り巻く課題は多岐にわたります。まず、農業従事者の高齢化と若年労働力の都市部への流出が深刻であり、労働力不足が生産効率に悪影響を及ぼしています。また、気候変動により降水パターンが変化し、牧草地の質が低下したことも要因として挙げられます。さらに、国内市場の購買力が限定的であることや、羊肉の需要が他の畜産物に比べて安定していないことも問題となっています。隣国との関税や輸出規制も障害となり、国際市場に充分な量を供給することが困難な状況にあります。
これらの問題に対処するためには、いくつかの具体的な対策が求められます。まず、地方の農業従事者をサポートするための補助金制度や、若者を農畜産業に引き込むためのインセンティブを導入することが重要です。また、気候変動に対応した牧草地の管理技術や、耐性のある家畜品種の導入が必要です。市場の多様化を図るため、国内外での羊肉のプロモーション活動を活発化させ、輸出先を広げる取り組みも効果的でしょう。さらに、デジタル化を通じて畜産業の効率化を図ることも課題解決につながります。
国際的な視点で見ると、ボスニア・ヘルツェゴビナの羊肉生産量は、例えば中国やインドが持つ世界最大規模の畜産市場の需要に比べて比較的小規模ではあります。しかし、その地理的条件を活かし、地中海圏や欧州近隣諸国への高品質製品の供給市場としての可能性を広げることが期待されます。地政学的リスクを考慮すると、輸出ポテンシャルを最大化するためには、欧州連合との貿易協定の整備や、地域紛争の再発防止もカギとなるでしょう。
結論として、ボスニア・ヘルツェゴビナの羊肉生産は、戦争や経済的課題、疫病危機など外部要因の影響を大きく受けてきましたが、回復の兆しも見られる状況です。持続可能な畜産業を実現するには、国内外での政策支援、気候変動への適応、労働力の確保など多岐にわたる努力が必要です。今後の課題に対し適切に対応することで、この分野が安定的な経済成長の原動力となる可能性を秘めています。