国連食糧農業機関(FAO)が提供する最新データを基にすると、ブータンの羊肉生産量には大きな変動が見られます。近年のピークは2017年の194トンで、その後緩やかに減少した後、2021年から急減しています。特に2021年以降、20トン前後という低水準が続いており、過去数十年間では見られなかった深刻な落ち込みが確認されます。この激減は、地政学的要因や農業政策の変化、新型コロナウイルスの影響など、複合的な理由が関係していると考えられます。
ブータンの羊肉生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
---|---|---|
2023年 | 23 |
17.31% ↑
|
2022年 | 19 |
-14.34% ↓
|
2021年 | 22 |
-87.09% ↓
|
2020年 | 173 |
-5.09% ↓
|
2019年 | 183 |
-0.79% ↓
|
2018年 | 184 |
-5.04% ↓
|
2017年 | 194 |
1.57% ↑
|
2016年 | 191 |
15.06% ↑
|
2015年 | 166 |
3.11% ↑
|
2014年 | 161 |
78.89% ↑
|
2013年 | 90 |
42.86% ↑
|
2012年 | 63 |
-14.86% ↓
|
2011年 | 74 |
-5.13% ↓
|
2010年 | 78 |
2.63% ↑
|
2009年 | 76 |
-40.63% ↓
|
2008年 | 128 |
28% ↑
|
2007年 | 100 |
6.38% ↑
|
2006年 | 94 |
4.44% ↑
|
2005年 | 90 | - |
2004年 | 90 | - |
2003年 | 90 |
-5.26% ↓
|
2002年 | 95 |
-9.52% ↓
|
2001年 | 105 |
-4.55% ↓
|
2000年 | 110 |
-8.33% ↓
|
1999年 | 120 |
-25% ↓
|
1998年 | 160 |
-5.88% ↓
|
1997年 | 170 |
-5.56% ↓
|
1996年 | 180 | - |
1995年 | 180 |
12.5% ↑
|
1994年 | 160 | - |
1993年 | 160 |
-5.88% ↓
|
1992年 | 170 |
-5.56% ↓
|
1991年 | 180 |
-5.26% ↓
|
1990年 | 190 |
-5% ↓
|
1989年 | 200 |
5.26% ↑
|
1988年 | 190 |
11.76% ↑
|
1987年 | 170 |
112.5% ↑
|
1986年 | 80 |
-40.74% ↓
|
1985年 | 135 |
22.73% ↑
|
1984年 | 110 |
29.41% ↑
|
1983年 | 85 |
6.25% ↑
|
1982年 | 80 |
14.29% ↑
|
1981年 | 70 | - |
1980年 | 70 |
16.67% ↑
|
1979年 | 60 |
-7.69% ↓
|
1978年 | 65 |
8.33% ↑
|
1977年 | 60 | - |
1976年 | 60 | - |
1975年 | 60 | - |
1974年 | 60 |
3.45% ↑
|
1973年 | 58 |
5.45% ↑
|
1972年 | 55 |
3.77% ↑
|
1971年 | 53 | - |
1970年 | 53 | - |
1969年 | 53 |
6% ↑
|
1968年 | 50 | - |
1967年 | 50 |
11.11% ↑
|
1966年 | 45 | - |
1965年 | 45 | - |
1964年 | 45 |
9.76% ↑
|
1963年 | 41 |
5.13% ↑
|
1962年 | 39 |
5.41% ↑
|
1961年 | 37 | - |
ブータンの羊肉生産量のトレンドを見ると、1960年代から1980年代にかけては緩やかな増加が見られます。特に1984年には110トン、1987年には170トン、1989年には200トンを記録し、その後一定の減少傾向が始まりました。1990年代から2000年代初頭にかけては、横ばいもしくはやや減少の兆しが観察され、2000年代半ばには90トン前後の安定した状態になりましたが、その背景には国内の政策的変動や農業技術の発展不足があったと考えられます。
2010年代に入り、羊肉生産量は再び増加に転じ、2017年には194トンという過去数十年での最高値を記録しました。この増加期は、農業支援策の強化や、国内での家畜飼育の意識向上などによるものと見られます。しかし、2018年以降、わずかながらも減少傾向が見られるようになり、2021年には急激な生産量の落ち込みが起きました。このような急減は、新型コロナウイルスの世界的流行に伴う物流の断絶、労働力不足、肥料や飼料の供給制限などが原因と考えられます。
注目すべきは、2021年から2023年にかけて20トン前後にまで大幅に低下した点です。これは、ブータン国内の農村地域での労働力の流出や、気候変動による放牧地の縮小、自然災害などの外的要因が深く関与しているとも推定されます。また、羊肉需要が減少した可能性も排除できません。ブータンの食文化や市場の変化、あるいは代替となるタンパク源(魚や輸入肉)の増加が関係している可能性もあります。
羊肉生産の急減には、地政学的な背景も含まれるでしょう。ブータンはインドと中国に挟まれた内陸国であり、特にインドとの関係性が経済や農業に大きく影響しています。新型コロナやインドの農業政策の変化が、ブータンの食料生産に連鎖的な影響を与えることが少なくない状況です。
今後の課題としては、まず現状分析が重要です。小規模農家への詳細な聞き取り調査や、放牧地の実態把握を進め、羊肉供給チェーンのボトルネックを明らかにする必要があります。また、持続可能な羊飼育を実施しやすくするために、飼料の生産支援や、災害時の緊急支援策を具体化することが求められます。加えて、地域の協力体制を強化することも重要です。たとえば、インドや中国と協力し、羊肉輸出入の呼び水となる経済的な枠組みを構築することで、需要増加と生産活性化を狙うことができます。
さらに、国内での需要拡大を促す政策も考えられます。健康志向や持続可能性を訴えるマーケティング活動を展開し、羊肉の経済的価値を向上させることは、生産農家にとっての収益機会を広げるとともに市場安定にも寄与するでしょう。その一方で、気候変動による潜在的リスクに備え、総合的な環境対策も実施する必要があります。
結論として、ブータンの羊肉生産量の推移は国内外の多様な要因と密接に関連しています。これを持続的に向上させるためには、国内農業支援政策の徹底、近隣国との協調、それに加え気候リスクを考慮した柔軟な取り組みが急務です。国際機関や地域協力機構とも連携し、多角的な解決策を模索していくことが求められています。