国際連合食糧農業機関(FAO)が発表したデータによると、マルタの羊肉生産量は、1961年に204トンのピークを記録した後、1980年代には生産量が大きく減少し、一時は10トン台にまで落ち込みました。その後、1990年代から徐々に回復傾向を見せ、2020年代には160~170トンに達するまで回復しました。この長期にわたる生産量の推移は、農業技術の進展、地政学的条件、経済的要因、さらには気候条件の変化など多様な要因に影響を受けていると考えられます。
マルタの羊肉生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
---|---|---|
2023年 | 170 |
6.25% ↑
|
2022年 | 160 |
6.67% ↑
|
2021年 | 150 |
-6.25% ↓
|
2020年 | 160 | - |
2019年 | 160 |
23.08% ↑
|
2018年 | 130 |
17.1% ↑
|
2017年 | 111 |
6.44% ↑
|
2016年 | 104 |
1.42% ↑
|
2015年 | 103 |
8.66% ↑
|
2014年 | 95 |
-9.87% ↓
|
2013年 | 105 | - |
2012年 | 105 |
5% ↑
|
2011年 | 100 |
-9.09% ↓
|
2010年 | 110 |
10% ↑
|
2009年 | 100 | - |
2008年 | 100 |
-8.26% ↓
|
2007年 | 109 |
9% ↑
|
2006年 | 100 |
2.04% ↑
|
2005年 | 98 | - |
2004年 | 98 |
1.03% ↑
|
2003年 | 97 |
16.87% ↑
|
2002年 | 83 |
-6.74% ↓
|
2001年 | 89 |
-6.32% ↓
|
2000年 | 95 |
-6.18% ↓
|
1999年 | 101 |
22.83% ↑
|
1998年 | 82 |
29.89% ↑
|
1997年 | 63 |
51.12% ↑
|
1996年 | 42 |
68% ↑
|
1995年 | 25 |
8.7% ↑
|
1994年 | 23 |
15% ↑
|
1993年 | 20 |
5.26% ↑
|
1992年 | 19 |
5.56% ↑
|
1991年 | 18 |
28.57% ↑
|
1990年 | 14 | - |
1989年 | 14 |
-6.67% ↓
|
1988年 | 15 |
-6.25% ↓
|
1987年 | 16 |
-5.88% ↓
|
1986年 | 17 |
-5.56% ↓
|
1985年 | 18 |
20% ↑
|
1984年 | 15 |
-46.43% ↓
|
1983年 | 28 |
55.56% ↑
|
1982年 | 18 |
-33.33% ↓
|
1981年 | 27 |
-60.87% ↓
|
1980年 | 69 |
-11.54% ↓
|
1979年 | 78 |
-31.58% ↓
|
1978年 | 114 |
-4.2% ↓
|
1977年 | 119 |
25.26% ↑
|
1976年 | 95 |
13.1% ↑
|
1975年 | 84 |
-12.5% ↓
|
1974年 | 96 |
-6.8% ↓
|
1973年 | 103 |
-4.63% ↓
|
1972年 | 108 |
-21.74% ↓
|
1971年 | 138 |
-13.21% ↓
|
1970年 | 159 |
-3.64% ↓
|
1969年 | 165 |
-5.71% ↓
|
1968年 | 175 |
-12.5% ↓
|
1967年 | 200 |
-23.37% ↓
|
1966年 | 261 |
15.49% ↑
|
1965年 | 226 |
3.67% ↑
|
1964年 | 218 |
41.56% ↑
|
1963年 | 154 |
-8.33% ↓
|
1962年 | 168 |
-17.65% ↓
|
1961年 | 204 | - |
マルタの羊肉生産量は、1960年代初頭に比較的高い水準で推移していましたが、その後急激に減少しました。1961年の204トンから、1980年代には最低15トンにまで落ち込んだ時期もあります。この大幅な減少の要因として、農業の都市化、マルタ国内の牧畜業の縮小、農村部の労働力の都市部への移行が挙げられます。また、マルタのような小国では、土地面積が限られており、拡大再生産が難しい環境である点も影響しています。さらに、気候変動や水資源不足も、生産量に悪影響を与えたと考えられます。
1990年代以降、羊肉生産量は徐々に回復を見せ始めました。この回復の背景には、農業政策の改善や、EU加盟後の支援による資金投入、農業技術の向上があるとされています。2000年代以降は、年間約100トン前後を維持しており、安定した生産が可能になってきました。そして、2018年以降、羊肉の生産量は再び顕著に増加傾向を示し、2023年には170トンに到達しています。この増加については、マルタ国内における畜産業の改善や輸出需要の高まりが寄与していると考えられます。
しかしながら、マルタの羊肉生産における課題も多数存在します。その1つは、マルタ特有の地政学的条件や国土の制約により、他国との競争力が弱いことです。隣国のイタリアやフランスと比較して、羊肉の生産量が少ないことから、競争における不利な立場にあります。また、長期的な視点で見た場合には、気候変動の影響も無視できません。特に、水資源の枯渇や気温上昇が牧草地や飼料の十分な供給を妨げる可能性があります。
さらに、新型コロナウイルス感染症の影響も羊肉生産に一定の影響を与えました。2021年以降の小幅な減少は、パンデミックによる物流の停滞や国内・国際的な需要の変動が背景にあると考えられます。一方で、2023年には回復基調に戻ったことから、業界の迅速な対応力が示されています。
このデータが示唆する未来への具体的な提案としては、いくつかの取り組みが考えられます。まず、羊肉生産業の持続的な発展を図るために、資源効率の高い農業技術の導入が不可欠です。たとえば、耐乾燥性の高い牧草の導入や、水資源を循環的かつ効率的に活用する灌漑技術などが挙げられます。さらに、EU加盟国としての利点を活用し、近隣国との協調を強化し、輸出の機会をさらに広げることも重要です。
また、羊肉の需要増加を支えるためには、国内市場の拡大とともに、観光産業と連動した高付加価値商品の開発が効果的です。観光客をターゲットにした「マルタ産」ブランドを強化し、地元の羊肉を使用した独自の料理や製品をアピールすることで、新たな市場を切り開くことができます。移民政策の柔軟化も、限られた労働力を補うために有効な施策です。
結論として、マルタの羊肉生産量は長期的な視点において大きな波を経て現在の回復傾向に至っています。地政学的条件や環境問題を克服しつつ、政策と技術の進展を積極的に活用することで、国内外の需要に応えられる安定した供給体制を築くことが今後の重要な課題となります。国際的な協力体制と持続可能性を念頭に置いた戦略が必要であり、それが達成された暁には、マルタの羊肉産業は新たな成長段階に進むことができるでしょう。