国際連合食糧農業機関(FAO)が2024年7月に更新した最新データによると、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の羊肉生産量は、1961年の473トンから1991年の3,000トンまで大幅に増加したものの、それ以降、内外の経済的・社会的な要因による影響で、特に1990年代半ばから減少へと転じました。その後、2000年代以降は緩やかに推移し、2023年時点では1,021トンと限定的な回復を見せています。
朝鮮民主主義人民共和国の羊肉生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
---|---|---|
2023年 | 1,021 |
0.09% ↑
|
2022年 | 1,020 |
-0.96% ↓
|
2021年 | 1,030 |
-0.59% ↓
|
2020年 | 1,037 |
1.55% ↑
|
2019年 | 1,021 |
1.56% ↑
|
2018年 | 1,005 |
-0.27% ↓
|
2017年 | 1,008 |
0.36% ↑
|
2016年 | 1,004 |
0.38% ↑
|
2015年 | 1,000 |
-0.1% ↓
|
2014年 | 1,001 |
-0.36% ↓
|
2013年 | 1,005 | - |
2012年 | 1,005 |
1.52% ↑
|
2011年 | 990 |
1.54% ↑
|
2010年 | 975 | - |
2009年 | 975 |
0.78% ↑
|
2008年 | 968 |
-0.46% ↓
|
2007年 | 972 |
-0.61% ↓
|
2006年 | 978 |
-0.61% ↓
|
2005年 | 984 |
-0.61% ↓
|
2004年 | 990 | - |
2003年 | 990 |
1.54% ↑
|
2002年 | 975 |
-4.41% ↓
|
2001年 | 1,020 |
-2.86% ↓
|
2000年 | 1,050 | - |
1999年 | 1,050 |
25% ↑
|
1998年 | 840 |
3.7% ↑
|
1997年 | 810 |
-43.16% ↓
|
1996年 | 1,425 |
11.76% ↑
|
1995年 | 1,275 |
-10.53% ↓
|
1994年 | 1,425 |
-17.39% ↓
|
1993年 | 1,725 |
-28.13% ↓
|
1992年 | 2,400 |
-20% ↓
|
1991年 | 3,000 |
14.29% ↑
|
1990年 | 2,625 |
16.67% ↑
|
1989年 | 2,250 |
17.19% ↑
|
1988年 | 1,920 |
1.59% ↑
|
1987年 | 1,890 |
5% ↑
|
1986年 | 1,800 |
4.35% ↑
|
1985年 | 1,725 |
4.55% ↑
|
1984年 | 1,650 |
4.76% ↑
|
1983年 | 1,575 |
5% ↑
|
1982年 | 1,500 |
3.09% ↑
|
1981年 | 1,455 |
2.11% ↑
|
1980年 | 1,425 |
5.56% ↑
|
1979年 | 1,350 |
5.88% ↑
|
1978年 | 1,275 |
2.91% ↑
|
1977年 | 1,239 |
2.86% ↑
|
1976年 | 1,205 |
2.95% ↑
|
1975年 | 1,170 |
8.33% ↑
|
1974年 | 1,080 |
6.67% ↑
|
1973年 | 1,013 |
7.14% ↑
|
1972年 | 945 |
9.38% ↑
|
1971年 | 864 |
6.67% ↑
|
1970年 | 810 |
5.88% ↑
|
1969年 | 765 |
3.03% ↑
|
1968年 | 743 |
3.13% ↑
|
1967年 | 720 |
2.56% ↑
|
1966年 | 702 |
3.31% ↑
|
1965年 | 680 |
3.42% ↑
|
1964年 | 657 |
18.7% ↑
|
1963年 | 554 |
4.24% ↑
|
1962年 | 531 |
12.38% ↑
|
1961年 | 473 | - |
朝鮮民主主義人民共和国における羊肉生産量の推移を分析すると、1960年代から1991年までの持続的な増加が顕著です。この増加傾向は、当時の農業政策や国土開発政策の一環で、牧畜産業が奨励され、生産基盤が成長していったことを示していると考えられます。特に都市化や家庭需要の増加に対応するための戦略的取り組みが寄与し、1991年には国内で過去最大の3,000トンという生産量を達成しました。
しかし、1990年代初頭以降、羊肉生産量は急速に減少しています。1991年のピークから、1997年には810トンと、約73%も減少しました。この急激な減少の背景には、1994年以降の「苦難の行軍」と呼ばれる深刻な経済危機が大きく関与しています。この時期、洪水や耕作地荒廃による広域的な食糧難が発生し、畜産業も大打撃を受けました。また、国際社会からの経済制裁や貿易の縮小も影響を与え、農業資源の供給不足が広がりました。これにより、家畜の飼育環境が悪化し、羊の飼育頭数および生産効率が低下しました。
2000年代からは生産量が安定化し、1,000トン前後で推移しています。羊肉生産はわずかですが回復傾向にあり、2023年には1,021トンと緩やかに増加しました。ただし、国民全体の肉類需要を満たすには十分とは言えません。比較対象として、韓国の2023年の羊肉生産量は数万トン規模に達し、輸入牛肉や豚肉なども含む総消費量への貢献が際立っています。こうした背景を考えると、北朝鮮の持続的発展には、技術的および経済的な支援が必要不可欠であると言えます。
現在の羊肉生産量の低水準の課題は、複数の要因に支えられています。まず、飼料供給の安定性が確保されていないことが挙げられます。国際制裁や輸入制限のもとでは、羊毛や羊乳の副産物といった付加価値生産活動すら制約されています。さらに、農業インフラの老朽化および気候変動の影響が顕著である中、畜産農家は持続可能な生産を維持するための環境整備が困難な状況に直面しています。
未来への提言として、まず地域の環境特性に適した飼育種の選択を進めることが必要です。次に、持続可能な農畜産業を支援するための国際協力を促進すべきです。特に、国際連合や地域的農業組織との協力による技術移転や資源供給支援は、羊肉生産の改善に寄与すると予測されます。また、代替的な食糧供給策の導入や、地域計画に基づいた牧草地拡充も併せて進めるべきです。
さらに、地政学的背景を考慮すると、羊肉生産は他の家畜産業と比較して土壌や自然資源への負担が少なく、農業環境との親和性が高い特性を持っています。そのため、北朝鮮の食糧安全保障の一環として、優先的に復興を目指す領域となり得ます。一方で、気候リスクに対しては国内の農業研究所を通じた耐性育種の研究を強化することも、災害リスク軽減の観点から重要です。
結論として、羊肉生産は朝鮮民主主義人民共和国の持続可能な食糧戦略において重要な位置付けを持ちます。国際的な取り組みと国内の計画的な整備が統合された場合、今後の生産量の向上が期待されます。ただし、この上昇は即時的ではなく、中長期的な視野での改革が鍵となるでしょう。